今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去34〜49 回までの今月のキーワード]


気候変動問題、トップの説明責任が問われる時代に
2022/04/20(Wed) 文:(M)

 朝日新聞に掲載されたサッカー・Jリーグ前チェアマンの村井満さんのインタビューを読んだ(3月15日付)。数々の窮地を振り返る言葉から、トップに求められる姿勢が見えた。
 村井さんはリクルートからスポーツビジネスの世界に転じ、プロサッカー組織の最高責任者を3月中旬まで8年間務めた。前任者が導入したばかりの制度の廃止、動画配信の開始、コロナ禍での生き残りをかけた戦略転換を次々と決断。「問題が起きても、何もせずにいれば物事や時間は流れていく。そうすれば、責任を取る必要もなく、あつれきも生まない」と事なかれ主義を批判した。Jリーグの命運を賭けて政府と渡り合ったエピソードも明かしている。企業の社員にも頼もしい“BOSS”だろう。
 その真逆というか、不安になる発言を聞いた。環境対策に熱心な企業グループに加盟するA社幹部が「グループには社内の別部署が入っている」と明かした。企業グループは炭素税導入に賛成だが、A社が属する業界団体は「炭素税反対」なので、幹部は「炭素税に反対です」とあっさりと言う。
 多様な意見が許されることは、社内の風通しが良くて健全な証拠だ。しかし、外から見ると企業グループのA社も業界団体のA社も同じ会社。「違う部署」という説明で世間は納得するだろうか。もし記者会見でA社の社長が炭素税について聞かれた時、「部署によって意見が違います」と“事なかれ主義”でやり過ごすのだろうか。
 ESG(環境・社会・企業統治)を評価する投融資が盛んになり、投資家も環境対策に目を向ける。4月から東京証券取引所のプライム市場に上場する企業は、気候変動に関連した情報開示が必要となる。環境問題について経営者の説明責任が問われる時代になった。
 また4月は、多くの若者が社会人の仲間入りをする。「環境問題の解決に貢献したい」と希望を抱いて入社した社員も多いはずだ。それにホームページで「カーボンニュートラルに貢献します」と宣言している企業も少なくない。「別部署でやっている」と言われた新入社員はどう思うだろうか。社内の曖昧な発言をなくすには、対応を決断できるリーダーの存在が求められる。



ガソリン補助で本気度を疑うCO2削減政策
2022/03/30(Wed) 文:(水)

 岸田政権は国内経済運営の緊急措置として石油元売り事業者に対する補助金交付を決定、経済産業省は10日から1旭あたり現行5円から17.7円に増やした。これへの財源手当ては約3600億円と言われているが、現下の緊迫したウクライナ情勢があり、相当長引く措置になる可能性が高い。さらに国会では揮発油税として暫定的に上乗せしている分を外す、いわゆる「トリガー条項」の適用も協議が続けられている。いずれも今夏の参議院選挙を意識してのことだ。
 しかし、緊急的な対応とはいえこうした政府の措置は国際的な気候変動対策の緊要性、カーボンニュートラルの実現や2030年に向けた中間目標の達成からみれば真逆の政策だ。岸田首相の肝煎りで検討中のクリーンエネルギー戦略とも相容れない。国会は20年11月、全会一致で「気候非常事態宣言」を決議しており、それとの整合性もない。また先進国を中心に化石燃料系への補助金や需要促進策はご法度としており、それをも無視した恰好だ。
 確かに、世界的な石油の需要回復基調にロシアのウクライナ侵攻が加わり原油取引価格が1バレル130ドル以上に急騰、経済活動と国民生活の身近なところで大きな経済負担が強いられているのも事実だ。あの頑迷固陋のプーチン率いるロシアを見る限り長引く可能性があり、そうなると今回のガソリン等補助対策もエンドレスになるかもしれず、CO2削減対策の優先順位は大きく後退しかねない。山口環境相も「今は非常事態なので仕方がない。柔軟に対応することで危機は乗り越えられる」と述べ、温暖化対策はこの10年が“勝負の年”と強調しているのとは別人のような認識を示していた。
 国際エネルギー機関は8日、21年の世界のCO2排出量が前年比6%増の363億トンで過去最高になったと発表、世界の排出削減は待ったなしだ。ロシアへの制裁措置の一つにサハリン2プロジェクトの是非が俎上に上がっているが、このわが国エネルギー輸入分に相当する6%をこの際日本全体で改めて省エネルギーすることで対応したらどうか。ウクライナ国民に対する強い連帯にもなる。宇宙衛星から地球を眺めると、他の国に比べて日本だけがことのほか明るいという省エネ対策の不十分さを見直す契機にもなるはずだ。



「お下がり文化」の有用性を考える
2022/03/15(Tue) 文:(水)

 鹿児島県の種子島(約1万4000世帯)では長い間、中学生や高校生になると兄から弟へ、姉から妹へ、親戚からの分も含めて制服を「お下がり」する慣習が今でも当たり前のように行われているという。そうした取り組みの延長だろうか、種子島中央高校に通う2人の高校生が作った「アプリで人をつなぐ!?制服のおさがり文化を形にするプロジェクト」という支援資金募集がネットで行われていた。プロジェクトはすでに終了しているが、高校生2人はSDGsの高まりに触発され、自分達にできることを一生懸命に考え、「お下がり文化」を持続可能にする“工夫”を思い立った。その工夫とは、折角譲ってもらっても男女の違いや体形に合わないケースもあることから、譲ってもらう場所の確保と保管、もらいたい人とのマッチングを仲介するアプリの開発(プライバシーが保てる)だった。
 この時期の中学や高校の入学には夏服・冬服・シューズ代など総額10万円もかかると言われ、親の負担も楽ではない。昭和30年代頃までは、洋服・靴・鞄などのお下がりは一握りのリッチな家庭を除けば当たり前の世界だった。最近は国際的な地球環境問題への高まりもあって、大手衣料メーカーやスーパー等が古着コーナーを設けたり、市井の人が制服のリユース店、地域に回収ボックスを設置する動きなど再利用の機運も出ている。
 衣料品は製造→輸送→販売→利用→廃棄(排出・回収)の各段階によるCO2の排出が衣食住の中でも多い。また、様々な素材が混合されているほかファスナー・ボタン・プラスチック等が付き物だ。日本の小売市場で販売されている衣料品の約98%が海外輸入というデータ(環境省調べ)もある。私事で恐縮だが、先日エアコンの調子がおかしかったのでメーカーに連絡したら製造から10年過ぎており寿命です、と一言で片付けられてしまった。
 昨年来、わが国の温暖化対策は再生エネの大幅拡大や省エネ効率の高い新製品の買い替えなどによる消費の拡大が大前提になっている。本当にそうした政策が正しいのか、なぜエアコン寿命を15〜20年に延ばす製品を開発しないのか、徹底した省エネを図らないのか、日本に古くからあった「もったいない」思想とともに、「お下がり文化」の有用性を再考したい。



当事者の使い勝手良い脱炭素施策を
2022/03/01(Tue) 文:(M)

 1月のある日、子どもを引き取りに来てほしいと学校から連絡を受けた。欠席者が多いので学級閉鎖にしたという。すぐに新型コロナウイルスの集団感染を連想した。
 夕方、学校から同級生の感染が確認されたと連絡が入った。うちの子は濃厚接触者となったのでPCR検査を受けてほしいとも言われた。テレビで聞く「濃厚接触者」「PCR」という用語に実感が沸いた。“自分ごと化”となった瞬間だ。
 連日、コロナ報道に接していながら、当事者になってみると分からないことだらけだった。濃厚接触者は行政から10日間の自宅待機を求められる。子どもが陽性なら自分も濃厚接触者となるが、この時点では濃厚接触者ではない。では、行動制限は不要なのか。さすがに出勤する気にはなれないので「自主待機」することにした。
 翌日、子どものPCR検査をすることにしたが、これが大変だった。行政が開設している無料のPCRセンターへ行くには公共交通機関を使う必要がある。濃厚接触者を電車に乗せ、人混みに連れ出すのはおかしいので近所の医療機関で検査したいが、予約がとれない。検査希望者が急増したためだ。なんとか検査ができる診療所を見つけたが屋外で1時間以上、待った。結果は3日後に判明し、陽性だった。
 テレビでは「昨晩、喉に違和感があったためPCR検査を受けたところ陽性と判定されましたので、○○さんはお休みします」と、アナウンスが流れている。芸能人はすぐに検査ができて、結果もすぐに出る。不公平さを感じた。
 家で過ごしていると、政府は濃厚接触者の自宅待機期間を10日から7日に縮めた。自分もPCR検査を受けるつもりだが、予約をとって結果を待つ間に7日を超えてしまう。すぐに結果が出る芸能人はうらやましい。状況の変化が早く、行政の思い通りに検査や濃厚接触者の管理ができていないと感じた。これは当事者になったから分かったことだ。
政府はグリーンイノベーション基金や地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、民間の事業に投融資する「脱炭素化支援機構」の設立など、脱炭素の施策を次々に打ち出している。こうした施策の実施は企業や自治体など当事者の使い勝手の良い施策であってほしいものだ。



成長戦略前提のCO2削減は功を奏するか
2022/02/16(Wed) 文:(水)

 すでにまる2年以上は続くコロナウィルス禍で傷んだ社会経済を再建すべく岸田政権は「新しい資本主義実現本部」を官邸に立ち上げ、未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けた政策を検討中だ。その問題意識は1980年以降、短期の株主価値重視の傾向が強まり、下請け企業へのしわ寄せ、自然環境等への悪影響が生じており、それらを解消して広く関係者の幸せにつながる持続可能な資本主義を構築する必要があることを出発点としている。
 そうした環境整備のため、成長と分配の好循環を起爆剤としてデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーン分野の成長を含めた科学技術立国を推進し、イノベーション力を抜本強化する必要があると指摘する。その上で再生エネの導入拡大、蓄電池の国内生産、水素ステーション・充電設備の整備、EVの普及促進などの対策強化を示す。つまりは、経済成長のエンジンを従来の化石燃料に依存した生産・消費体制から脱炭素型に転換する産業にシフトさせ、それによって成長を持続させようというものだ。
 実はこうした形の成長戦略は1年前の菅政権時代に2050年カーボンニュートラル(CN)が決定された際に、政府は経済政策としての「グリーン成長戦略」や「革新的環境イノベーション戦略」を策定、根っこにある気候変動問題への対応という点では共通している。この10年の気候変動対策が決定的に重要とした環境省もこうした基本方針に乗っかり、温暖化対策の推進は経済成長が前提という構図ができ上がった。しかし、今後の経済成長に伴うわが国のCO2排出量がどう推移し、2030〜50年頃にはどの程度になるかについて、環境省は計画アセスメントすらしておらず、その変遷見通しも明らかではない。
 2020年発刊された「人新世の『資本論』」(斎藤幸平著)という本は、今の資本主義を続ける限り地球温暖化問題は解決しないことを縷々分析した本だ。斎藤氏は次のように指摘する。「資本は石油、土壌養分、レアメタルなどむしり取れるものは何でもむしり取ってきた。この採取主義は地球に甚大な負荷をかけている。採取と転嫁を行うための“安価な自然” という外部もついになくなりつつあるのだ」と。成長主義一本槍の限界は目前にある。



寅年に思う生物多様性との共存
2022/01/25(Tue) 文:(水)

 寅年の2022年がオミクロンという新たな変異株によるコロナウィルス感染の急増下で始まった。専門家によれば、市井の人々がこのウィルスに対する免疫を獲得するには2〜3年の時がかかり、ここ暫くは一進一退の状況が進むだろうという。
 わが国の古い暦にある「寅」は時刻と方位を表し、寅の刻と言えば一刻が大体今の2時間に相当するので明け方の4時以降を指した。子から始まり亥で終わる十二支の暦法は中国伝来と言われ、かつて国を治めた12の宮にそれぞれ鼠・牛・虎・兎・・・などの分かりやすい獣を充てたのが由来とされる。その「虎」をなぜ日本では「寅」の字を充てたのかは不明だが、現代では国際的に最も絶滅(第2位)に近い危惧種に指定されている。
 国際自然保護連合のデータによると、虎はロシアから東南アジアにかけ生息しており、推定生息数は2014年の調査で2154〜3159頭確認されているが、これは約100年前の推定10万頭から激減しているという。激減の主な要因は高価な毛皮をとるために乱獲されたとみられるが、こうした生物の絶滅危惧種は地球の歴史においてかつてない速度で増大しており、国連の生物多様性条約でもまだ歯止めがかかっていない。
 「虎」という文字の表記は我々の日常生活に馴染みのものが多いのも特徴だ。魚獣ならば鯱や猟虎がいるし、我々庶民にはちょっと贅沢な冬の名物である虎河豚も御馳走だ。また国民的人気を博した映画の代表作として約50年前に製作され、今もテレビ放映されている渥美清主演の「男はつらいよ」のフーテンの寅さんも、身近な存在であろう。寅さん映画を観て一度考えたことがあった。もうすでに2〜3回観ていて次の筋が分かっているのになぜまた観たくなるのか。どうやらそれは、一人間としての素朴な思いやりのある世界に自らを置いている安心感(空間)があるからだろう。
 ところで2022年。読売新聞の3面の片隅に「引き継ぎ」というタイトルで「ウシからマスクを渡されたートラ」といううまい川柳があった。コロナという現代の疫病は中国雲南省でのコウモリ捕獲と食用化が関係しているとの説がある。ここは改めて多様な生物との共生の知恵を「虎の巻」から見い出したいものである。



コロナが収束して平常な営みの1年に
2021/12/28(Tue) 文:(山)

 今年も残すところあと半月となりました。
昨年、今年と新型コロナウイルスに苦しめられていましたが、まだ予断は許されないとしても、ようやく新規感染者数が減少傾向にあります。 
 とはいえ新規感染者数は12月3日の段階で国内で172万7304人、亡くなられた方は11万8360人となっています。感染者が治癒して感染者ゼロになればよいと祈るばかりであります。
 帝国データバンクによると、12月2日現在で新型コロナウイルスの影響をうけた企業の倒産は全国で2470件が確認されているそうです。1億円未満の小規模倒産が1440件ですが、負債100億円以上の大型倒産は5件にとどまっているそうです。業種別では飲食店が最も多いようで、建設・工事業、食品卸、ホテル・旅館がそれに続いているそうです。いずれの業界にしても“コロナウイルス倒産”は悔しい限りだと思います。
12月の倒産は3日の段階で2件確認されていますが、「今後150件前後まで増加し続ける見込み」だそうです。確かに近所の商店街にある喫茶店に入っても客の姿はほとんど見られないほどでした。商店街を歩いていても入り口が締まっている店もあり、活気がないように感じるのは考えすぎなのでしょうか。一生懸命に働いていたたくさんの企業や商店がコロナウイルスによって消滅するのは悔しい限りです。今年のうちにコロナウイルスが日本から撤退してくれればよいのですが……。さらに気になるのは、南アフリカが11月24日に世界保健機関(WHO)に報告した新型コロナウイルスの変異株オミクロン株です。日本の国立感染症研究所は「懸念すべき変異株」に指定し、最も高いレベルの警戒度としました。どうやらかなりやっかいなウイルスがまたあらわれたようです。
突然、話は変わりますが、今年はコロナ禍だけでなく、栃木県足利市の山火事、静岡県熱海市の大規模土石流などいろいろなことがありました。熱海の土石流では26人が亡くなられるという惨事になりました。
 今年最後の一考再考でなんだかつらい話ばかりになりまして、まことに申し訳ございません。来年こそは楽しい話ばかり書けるような明るい1年を、ご購読いただいております皆様とともに過ごせる年になることを祈念して、筆をおかせていただきます。 



COP26、日本は英国の術中にはまったのか
2021/12/10(Fri) 文:(M)

 「球界の寝業師」と言えば、根本睦夫氏だ。1957年にプロ野球選手を引退後、広島やクラウンライター、西武の各監督を務めたが、球団を運営するフロントでの活躍が球史に残る。西武球団の部長時代、ある兄弟投手をめぐり巨人との争奪戦を制してドラフト外で獲得し、ある捕手は高校を転校させて球団職員にして入団に導き、プロ入りを拒否した左腕も口説き落とした。ダイエーの球団社長に転じた後は王貞治を監督に招聘。戦力強化のためならタブーはなく、“裏工作”でプロ野球ファンをあっと言わせた。
 英グラスゴーで11月13日まで開かれた国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、議長国・英国の策士ぶりが光った。会期序盤の11月1〜2日、首脳級会合を開催し、130ヵ国が順番に演説する場を設定。世界が注視する壇上でマイクを渡されると新しい発表をせざるを得ない精神状態になるのか、首脳たちは温室効果ガス排出量削減目標の引き上げや資金支援強化を次々と表明した。
 また、COPでは内政問題や特定の電源の議論を避けてきたが、英国は各国のエネルギー事情が反映される石炭火力発電に切り込んだ。成果文書に石炭火力の「段階的な廃止」の明記を提案。インドなどに強く反発されて「段階的な削減」に表現は弱まったが、記載には成功した。
 全会一致での決議が難しいテーマは、賛同国だけ集めて合意を働きかけた。2040年までにすべての新車を二酸化炭素(CO2)を排出しない車種にする宣言への署名国は23ヵ国。COP参加の197ヵ国・地域からすると少数だが、世界に十分なインパクトを与えた。裏工作があったかは不明だが、英国は国際交渉の「寝業師」なのかもしれない。
 あまりにもずる賢いと嫌われそうだが、根本氏は部下に「人間、本当のことを言われると角が立つ。その角は削らなくてもいいんだよ」と語っている。角を削ると小さくなるため、逆に角を広げて丸くなれと説く。「要は、自分の性格をそのまま残していいんだから」(『根本陸夫伝』集英社文庫)という教えだ。
 COPで日本は英国の術中にはまったのか。角が立っても良いから、しっかりと主張したと信じたい。



官邸の気候変動対策提言と炭素税の導入
2021/12/01(Wed) 文:(水)

 衆議院の総選挙中にまとめられたためか、大手メディアもほとんど取り上げなかったが、10月15日に首相官邸に設置されていた「気候変動対策推進のための有識者会議」が報告書をまとめた。会議は昨年10月の菅義偉前首相による「2050年カーボンニュートラル(CN)宣言」を踏まえ、基本的な戦略に関する意見を聞くというものだった。小泉進次郎前環境相が熱心に進めたもので、数多くある官邸主導の会議には珍しく、環境省主導型の運営でもあった。
 報告書ではCN実現のため、▽炭素に価格をつけ経済的誘導措置によるCO2排出者の行動変容を促す、▽企業への政策支援として大胆な金融政策の具体化、▽国際標準化などのルール作りに日本が主導的な役割を示す――など重要な提言がなされた。端的に言えば、環境省と経済産業省の間で10年戦争を繰り広げてきた炭素税や排出量取引の早急な導入を促したものとも言える。
 こうした官邸の有識者会議の提言を受けて、本来ならば環境省は自らの政策の中に取り入れる具体的なアクションを起こすべきだが、今のところなんの動きもない。総選挙後の内閣改造で新しい環境相に就任した山口壯氏は閣議後会見で、提言にあった炭素税導入などをどう活かすのかを問われ、「(年末の税制調査会で)頭出しできれば上々ではないか。じっくりじっくりみんなの納得をもらいながら進めるのが一番」と述べ、特段のアクションをとる方針は示さなかった。これは山口環境相が会見で多用している「心合わせ」の大事さ、つまり物事を決する際には相手方の充分な了解が不可欠という認識を強く反映したものだ。
 しかし、本格的な炭素税導入などの炭素の価格付け措置は、この10年何回となく同じような審議が繰り返され、いわば導入させないための時間稼ぎをしているとしか見えず、山口環境相の言う「心合わせ」は10年戦争をさらに長引かせる事態を招く。おそらく、そうした状況を熟知していた小泉前環境相は中央突破を図るため、首相に直談判して歴史的なCPと炭素の価格付けを官邸テーマのど真ん中に押し上げた。炭素税導入等が再生エネの加速的拡大と原子力発電の優位性を高めることは自明であり、しかも一刻も早く実現する必要がある。



言葉遊びでなく、国民に通じる言葉で
2021/11/17(Wed) 文:(M)

 象は鼻が長い−。日本語の「は」と「が」の使い分けを解説する有名な一文だ。主語は「象は」なのか、それとも「鼻が」なのか。普段は気にしていないが、そう聞かれると即答できない。
 与野党トップの発言が似通っており、違いが分からないと話題となった。岸田文雄首相は所信表明演説で「分配なくして成長なし」と強調。すると立憲民主党の枝野幸男代表も「分配なくして成長なし」を選挙公約にすると発表したのだ。
 与野党が同じ政策を掲げて選挙を戦うはずはない。演説文を読み返すと岸田首相は「大切なのは成長と分配の好循環」とも語り、「『成長か、分配か』という不毛な議論から脱却し、『成長も、分配も』実現する」と訴えていた。一方、記者会見で違いを問われた枝野代表は「成長していない原因にしっかりと切り込んで適正な富の再分配を行う」とし、分配重視と主張する。言葉遊びではなく、国民のための政策議論であってほしい。
 普段から耳にしていても、意味を理解できていない言葉もある。内閣府が2020年11〜12月に実施した世論調査で「脱炭素社会を知っている」と答えた68.4%のうちの半数が「言葉だけは知っていた」と答えた。10月1日号の小欄でもカーボンニュートラルを理解できている国民が少ないと指摘した。漢字の「脱炭素社会」も同じだ。政府は専門用語を踊らせて国民を煙に巻くようなことはあってはいけない。
 似た用語の乱立も困る。「再生可能エネルギー由来電気」「再生エネ実質100%電気」「CO2フリー電気」「CO2排出実質ゼロ電気」といった名称の電気が登場している。どれも同じ意味としたら、利用者は混乱するだろう。気候変動対策には国民の理解と行動が欠かせない。わかりやすい言葉の選択、意味の浸透、用語の統一が必要だ。
 さて冒頭の文だが、小説家の井上ひさしさんは「象は」は主語ではないと説明する。これから象という動物について話すことを提示する助詞として「は」が使われているためだ(『井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室』新潮文庫)。日本語は主語がなくても通じるが、政治家や政府、電力業界には国民に通じる言葉で語ってほしい。



東京オリ・パラのコロナ感染者863人に思う
2021/11/02(Tue) 文:(山)

 前号でカタカナ語の氾濫が取り上げられていたが、まさにその通りである。日本には大昔から日本語があり、言葉だけでなく、書き物も当然、日本語で記されている。もちろん、国際化した現在は外国人と話をするときに、その国の人の言語が話せれば、それは大変良いことだと思うが、普段、日本人同士はきちんとした、正しい日本語で対話すべきではないだろうか。
 街中や電車の中で若者たちの話が耳に入ってくることがある。別に聞きたいとも思わないが、意味不明の日本語で話していると、なんだか気になってしまう。話している人たちがそれで分かり合っているなら問題はないのかもしれないのだが…。まあ、大半の若者は会社に入って仕事をすることになれば、普通の日本語で会話するようになるのだろうが、どうも気になってしまう。
 話は変わるが、歳をとると月日のたつのは早いもので、もう10月も半ばとなり、今年も残すところ2ヵ月半となった。なんだか、時計が早回りして、時間があっというまに過ぎていくように感じるのは歳のせいだろうか。すぐに年の瀬が来て「もういくつ寝るとお正月〜〜」などとのんきに歌っていると、すぐにその次の年の正月が来てしまいそうだ。
 今年は多くの人々がコロナウイルスに見舞われた大変な年だった。NHKのまとめによると、8月26日に2万4956人だった罹患者数が10月9日は777人になったそうだ。罹患者数はだいぶ減ったようだが、それでもまだまだ油断できない状況が続いていると考えるべきだろう。外出時のマスクが必需品であることはしばらく続きそうだ。
 ちなみに、東京オリンピック・パラリンピック関連のコロナウイルス感染者数は大会組織委員会のまとめによると、選手や関係者を合わせて863人だったそうである。NHKの集計によると、選手41人、大会関係者201人、メディア関係者50人、組織委員会職員29人、大会の委託業者502人、ボランティア40人である。いまさら言っても始まらないが、そこまでしてオリンピックをやる必要があったのだろうか。一生懸命に技を磨いてきた選手には残念なことだろうが、コロナが収まってからのオリンピックで、さらに磨いた技をもとに十分に力を発揮することもできたのではないだろうか。



カタカナ語は国民の胸に刺さらない
2021/10/18(Mon) 文:(水)

 最近の霞が関の資料や報告書で目立つのはカタカナ語の氾濫である。特に欧米において先導的な政策展開が多い故か、地球環境問題や国際金融の分野で横文字をそのまま表記しているケースが多い。新聞やテレビも安易にそれに追随、日本語文化の危機を感じる。
 環境省の令和4年度概算要求の重点施策発表資料の中に、次のような表記があった。「カーボンニュートラルに向けたカーボンプライシングを含むポリシーミックスの推進」。これは来年度税制改正要望を示したもので、焦点となっている気候変動対策としての炭素税や排出量取引を引き続き検討するという意味だが、理解不能な文章だ。
 この文章の38文字中28字が実にカタカナ表記である。試しにここで使われている「カーボンニュートラル」の日本語の意味を友人や会社の周りの人に聞いてみたが、10人中9人は正解らしき答えがなく、一般の人にはまるで理解されていなかった。しかもこうした長い単語は編集者泣かせの最たるもので、予定した行数をオーバーして泣く泣く別の文章を削らざるを得なくなるし、見出しを付けるにも苦労する。つまりカタカナ語の濫用は百害あって一利なしとも言えよう。
 「霞が関文学」という独特の文化を持つ官僚がカタカナ語を多用するのは、▽省庁間でその言葉の定義がはっきりしない、▽カタカナ語を使うことで故意にあいまいにしておく、▽正確な日本語にするのが面倒――などが動機と見られる。しかし当然の話だが、その言葉の意味が容易に理解されなければ国民の支持も得られない。カタカナ語を聞いた国民はいちいちその意味を理解しようとする努力も面倒だし、第一そんなに時間的な余裕もない。環境省が最大の政策課題としている気候変動対策は何よりも一般の人々の理解と協力を得ることが不可欠だが、カタカナ語では国民の胸に刺さらない。
 日本社会はすでに人口の3割が高齢者となり、この人たちには英語に馴染みのない人も多く、まして「カーボンニュートラル」というような専門用語をどれだけの人が理解できるだろうか。しかも高齢者は地域にあっては環境問題などで熱心に活動しているケースも多いのに、わざわざ霞が関はそうした人々を遠ざけていることになる。



自民党総裁選とカーボンニュートラル
2021/10/01(Fri) 文:(水)

 今月29日に投開票する自民党総裁選が連日マスコミを賑わしている。9月12日現在、立候補者は岸田文雄・前政調会長(64歳)、高市早苗前総務相(60)、河野太郎規制改革担当相(58)となっているが、下馬評では岸田氏と河野氏のいずれかが選ばれる公算が大きいとみられている。
 岸田氏は外務大臣を4年半以上無難に務め上げ、党の要職もこなしてきていることから新政権の安定運営への期待が高いが、コロナに代表される“乱世時代”を乗り越えるリーダーとしてのパワーにやや疑問符が付く。一方、河野氏は行動力と突破力には定評があるが、独りよがりや木を見て森を見ないところがあり、日本の最高権力者になった場合に大丈夫かという指摘がある。河野氏が長年持論としてきた「原発ゼロ」などの考え方を最近封印したのも、派閥幹部の説得を受け入れた結果とみられる。
 総裁選の政策論争で大いに論じてほしいのは、昨年の菅政権誕生以来わずか1年の間に次々と打ち出した気候変動対策を継続するのかどうか、さらにその具体的な政策をどう国民に共感してもらうかであろう。昨年10月の菅首相による2050年カーボンニュートラル宣言を皮切りに国会では与野党一致のもとで「気候非常事態宣言決議」が採択され、2030年の中間目標としたCO2の46%・50%の設定(2013年排出量比)、今年4月の気候サミットにおける菅首相による同様の国際約束と全国100以上の地域で脱炭素社会の実現を目指すとした方針提示など枚挙にいとまがない。
 これだけ国政の環境・エネルギー対策で従来の延長線にない思い切った決断をした首相はこの半世紀で初めてだろう。すなわち、こうした決断は環境の持つキャパシティーが人間の経済活動を御することを意味し、最上位にあった経済政策が環境政策にとって代わることを意味する。エネルギー対策もしかりだ。しかし、わが国はまだ時の政治トップが気候変動対策に最優先で立ち向かうという“決意表明”とその方向性を示したに過ぎず、国民の痛みを伴う社会の構造改革はこれからだ。
コロナ対策での国民の不満と「選挙に向かない顔」として退陣に追い込まれた菅首相だが、一時の人気度とこれから20〜30年は続くであろう気候変動対策の礎はどちらが重要なのだろうか。



生まれてくる子どもたちに安全でおいしい空気を
2021/09/14(Tue) 文:(山)

 今号の特集は「脱炭素社会に挑む住宅・建築物」です。脱炭素社会とは地球温暖化の原因(温室効果)とされる二酸化炭素(CO2)などの排出量をできる限り減らして、実質ゼロに近づけようということです。かつては「低炭素社会を目指そう」という言い方もありましたが、いまでは地球温暖化を食い止めるためにはCO2の排出をゼロ、つまり脱炭素が欠かせない状況になってきたということだと思います。
 なぜこんなことになったか。モノの本によれば、私たち人間の活動により温室効果ガスが増えたことが原因ではないかと考えられているそうだ。もちろん、現在を生きている私たちのせいでもあるのだろうが、それだけでなく、産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料の利用や森林の伐採などにより、大気中の温室効果ガスが増加したということではないかという気もする。
 でも、いまさら何年も前のことを云々してもなにも始まらない。私たちはここでひとつ脱炭素社会実現に向けて踏ん張らなくてはならないところにいるようだ。脱炭素社会とはCO2の排出が実質ゼロとなる社会のことである。そのため、まずは、CO2の排出量を可能な限り減らし、脱炭素社会の実現に向かうことが、地球環境を守るために重要になるのだろう。
 脱炭素社会という言葉が掲げられる以前は、低炭素社会というあり方が目指されていた。低炭素社会はCO2の排出量が低い水準に抑えられた社会のことで、基本的な考え方や目的は脱炭素社会と同じである。しかし、低炭素社会の実現に向けて設定された目標は、地球温暖化を止めるためには不十分だった。そこで、CO2の排出量を減らすだけではなく、実質的にゼロの状態を目指すために掲げられた考え方が脱炭素社会である。
 「言うは易く行うは難し」の典型のような話だが、これから生まれてくる子どもたちが、安全かつ、おいしい空気を存分に吸い込んで、のびのびと成長できるような世の中になるよう、今を生きる私たちが脱炭素社会の実現に向け、もうひとがんばりしようではありませんか。



東京五輪、人々に行動変容を起こせたのか
2021/09/01(Wed) 文:(M)

 54歳の現役プロサッカー選手、三浦知良さんが著書「カズのまま死にたい」(新潮新書)で、欧州出身選手から「欧州と守備のやり方がだいぶ違う。日本に慣れないと」と言われたエピソードを紹介している。カズさんは「ん?僕らはさんざん欧州の映像を見て、ラインの作り方や押し上げ方をそっくりにしているのに。なのに『違う』って」と首をかしげる。
 現代のサッカーは個人技よりも戦術が注目される。パスで相手の陣形を崩すチーム、守備を固めながら隙を突いて攻勢に出るチームなど、戦術は多様化している。日本のサッカー界は欧州から戦術を学んできたはずだが、本家から見ると「違う」という。カズさんは「日本人の考える戦術と彼らの指す『タクティクス』とは、意味合いや中身が微妙にずれているんじゃないかな」とも述べている。
 日欧の“ズレ”はスポーツの社会的な位置づけにも現れている。日本でスポーツは夢や希望を与える存在だろう。8日に閉幕した東京五輪にも多くの国民が選手の活躍に感動し、結果に歓喜した。一方の欧州ではスポーツにサステナビリティ(持続可能性)も求める。特にプロスポーツには環境や社会の課題解決に市民を導く役割を期待している。多くの人を魅了する影響力があれば、人々に行動変容を起こせるからだ。
 実際、欧州スポーツ界は動きだしている。英サッカーのプレミアリーグは所属クラブのサステナビリティを順位づけしている。クラブもESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みがスポーツビジネス参加の条件となった。気候変動対策にも熱心だ。欧州サッカー連盟(UEFA)はカーボンオフセットによって、欧州選手権開催に伴う40万tの二酸化炭素(CO2)排出量をゼロ化している。日本でも1試合や2試合の単発のゼロ化はあるが、UEFAは全試合を対象に、会場を訪れた観客の飛行機やマイカーの排出もオフセットしており、本気度が違う。
 日本は今、欧州発のESGや脱炭素政策に取り組む。サッカーの戦術のように本家からは「違う」と映るかもしれない。欧州を完全コピーする必要はないだろうが、学ぶべき点はある。巨費を投じた東京五輪は、国民に気候変動対策を働きかける絶好のチャンスだったかもしれない。



「豊かさ」の再定義求めた経産省若手グループ
2021/08/05(Thu) 文:(水)

 菅政権は6月に経済財政運営の指針である「骨太の方針」とともに、2050年のCO2等実質ゼロに向けた「グリーン成長戦略」を政府の実行計画として策定した。実行計画ではアンモニア・水素や次世代太陽光、洋上風力など14分野における技術の実装化と政策の行程表を明示、環境対策(温暖化対策等)と経済成長の一体化が強調された。その中に「グリーン成長に関する若手ワーキングの提言」という他の項目とは異質なものが盛り込まれていた。
 その骨子は、カーボンニュートラル(CN)の実現に向けていかなる基本政策を今後重視すべきかをまとめたもので、「豊かさ」の再定義ととともに具体的な行動として、▽サステナブル指標の設定、▽行動の可視化、▽炭素循環プロセスの構築、などを提起していた。特に目を引いたのは、この半世紀以上続くGDPに匹敵する指標として、経済の持続可能性を表す新たな「サステナブル指標」の設定を提案したことだ。指標のイメージ案としては、RE100取得企業数/SBT認定取得企業数/自社製品の資源循環率、そしてユニークなのは「2050年に住みたい国(子供を産みたい国)と答えた高校生の割合」で、若手グループならでの着想といえよう。
 こうした結論にたどりつくまでの延べ4回の議論では、誰の何を守るためにCNに取り組むのかなどの答えのない問いにぶつかり、結局は“やらされ”ではなく“自分ゴト”としてCNに取り組める環境をつくること、そのためには個人の価値観の多様性を踏まえ「なぜやるのか」を腹落ちする複数の軸が必要、との集約になったという。
 一方、今回のグリーン成長戦略は依然としてさらなるGDPの拡大を前提にしたCNの実現である。温暖化対策はそれが「成長に資するのかどうか」が是非の判断基準とされており、この若手グループ提言とは大きな距離がある。しかも、常に政策展開の最大目的に経済成長の拡大を置いてきた本家本元の経産省の方針に異論を挟んだ行動が面白い。外部の人も含めて平均年齢30歳という若手グループの事務局を務めた蓑原悠太朗氏に本省からの圧力はなかったかを聞いたところ、「残念ながらありませんでした。引き続き検討を重ねるようにというお達しでした」との予想外の答えが返ってきた。



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