高市首相肝いり「骨太方針」の落とし穴
2026/08/13(Thu)
文:(水)
7月28日、10年前に続き震度7の地震に見舞われた熊本地域。8月9日現在で家屋被害は約2万740棟で、避難者の約6183人が断水と猛暑による熱中症の危険に晒されている。さらに日本列島には、この先20〜30年以内に東南海地震や首都直下型地震が高い確率で予想されている。
そうした中、高市政権は2040年度までに累計総額370兆円の官民投資を想定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針2026)を閣議決定、危機管理投資や成長投資を中核に27年度の概算要求で重点的に配分する方針を決定した。今後の予算編成作業では、上限枠を設定しない「強く豊かな日本投資枠」の創設、複数年度での予算確保の容認、補正予算依存からの脱却など、従来慣行を大幅に見直す方針を示した。ただ、これら施策推進に伴う財源は国債発行で賄う考えだが、具体的な中身までは明確にしていない。
こうした高市首相の経済政策は、17の業種等戦略分野への官民投資をエンジンに、経済成長(実質年1%超、名目3%の定着)を最優先とするいわば「それいけドンドン」の構図そのものである。しかし、かつての経済成長=「是」の時代は過ぎ去り、今日では地球温暖化を抑制するための国際的なCO2等排出の削減とそれに連動した2050年カーボンニュートラル達成も国是だ。また、年間2000人を上回る熱中症関連死亡者の発生、そして温暖化が要因とされる自然災害に加えて冒頭のような地震発生も想定されている。
残念ながら、今回の「骨太の方針」には、そうした経済成長を阻害する要素にはほとんど目を向けず、旧来型の成長一本槍を指向しているように見える。本来ならば、経済成長に伴うCO2等排出や資源循環の実現、自然再興の程度などを事前に「戦略アセスメント」をすべきであろう。また、熱中症対策として昨年、労働安全衛生規則が改正され屋外作業の制限などが施行されたが、こうした労働環境の変化にも対応する必要がある。
要は経済成長の政策展開は今や働き方改革や環境保全を含めて日本の社会構造をどう変えていくのかであり、そのためには例えば「長期夏休み期間の法定化」(支援付き)とその間における地方生活の半義務化などに発想を変えてトライしたらどうだろうか。
クマ被害の深刻さと自然との共生
2026/07/15(Wed)
文:(水)
石原宏高環境相が7月8日に東京八王子市を訪れ、クマが発生した状況や捕殺した現場などを視察、その後初宿和夫市長や東京都の担当課、出没した近くの小学校校長など関係者との会議に臨んだ。石原環境相は会議で省内にクマ対策チームの発足や関東地方の自治体向けに研修会の開催指示など、出没対策の強化及び人身被害の防止に一層の取組強化を図る考えを示した。
時の環境大臣がクマ被害の現場に出向き関係者と意見交換するというのはおそらく初めてのケースと見られる。それだけ、最近のクマ出没による人身被害や生活環境への影響が広域的かつ深刻さを増しているからでもあろう。特に八王子市は首都東京圏であるうえ、近隣の昭島市などでもクマ出没の痕跡が見つかっており、大都市においても例外ではなくなっているところに事態の深刻さがある。環境省の調査によると、クマ類の出没件数(北海道除く)は全国で2025年度が計約5万件超あって前年度の2万超を大きく上回り、26年度も8333件と前年度を上回るペースが続いている。
クマ被害は地域の日常的な生活慣習に大きな影響を及ぼすのが厄介であり、地域住民のストレスも相当なものになる。例えば、子供の学校通いや地域での催事、健康維持のために行う散歩ができないなど、それら対象地域は広大なエリアとなる。
こうした現実に、政府は「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」を設置して随時状況把握や対処方針を打ち出す一方、環境省は「クマ類による被害防止に向けた対策方針」「クマ被害対策施策パッケージ」などを示しているほか、直近では増えすぎたクマ類を捕獲して個体数を一定目標に抑える方針を示している。
ただこれらの対応は、乱暴に言わせてもらえば大半が緊急的措置であり、対症療法どまりである。クマ問題の根底には山々にいるクマのエサ不足→慢性的な空腹感があり、その原因は戦後に展開された植林事業による針葉樹偏重の林業政策があるという。つまり、クマのエサ不足の常態化があると有識者は強く指摘する。広葉樹多数の森林であれば、木の実や果実などが潤沢に供給され、リスクを侵してまで里山には降りてこないだろうという見方だ。
環境省が唱える「自然との共生」は実に難しい。
「環境政策応援団」と新経済成長戦略の深いミゾ
2026/07/01(Wed)
文:(水)
少し古い話で恐縮だが、5月13日に参議院の議員会館で「環境大臣経験者による環境政策応援団会議」(仮称)という変わった議員グループ設立の集まりがあった。呼びかけ人代表は昨年10月まで環境大臣を務めた浅尾慶一郎氏(参議院、神奈川選挙区)で、現職の国会議員で党派を超えた環境大臣経験者およそ10人が出席、環境省の秦康之官房長から重点施策の取組状況の説明を受けるとともに、応援団としての役割を議論したという。
会議には斉藤鉄夫中道改革連合顧問や小泉進次郎防衛相も駆けつけ、最近のクマ被害対策はもちろんのこと地球環境問題への対応、中東情勢の不安定化に伴うレアメタルなど資源循環対策の強化などの必要性が指摘された。
6月24日。政府は経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会合を開き、「日本列島を、強く豊かに」と提唱する高市首相の下で、造船・ペロブスカイト太陽電池・次世代革新炉・量子コンピュータなど成長戦略17分野における「主要な製品・技術等」を提示、「官民投資ロードマップ」に基づき2040年までに総額370兆円を投ずる新たな経済政策の推進を公表。これを着実に推進するため、従来の単年度予算編成方式を見直し、複数年度の予算要求や地域未来交付金の拡充など、大胆な制度見直しと支援措置の拡充を図る方針を示した。
しかし、これらの新たな経済成長政策と官民投資ロードマップ案には、「沸騰する地球」といわれる地球温暖化への対応(CO2等の削減)や環境保全の維持が確保されるのかの見通しにはほとんど触れられておらず、先の17分野でも蚊帳の外だ。国際的には、パリ協定に基づく30年までのCO2等削減目標とそれ以降のさらなる大幅削減の必要性、自然生態系の維持・回復など多くの対応が要請されているにも拘わらず、である。本来は新たな成長戦略を打ち出す前に、政策に対する「戦略アセスメント」を政府は実施して、その結果を国民に開示すべきであろう。成長戦略が実現すれば国民の所得は増えるかもしれないが、その半面で傷みが伴う“ミゾ”のあることをしっかりと示すべきであり、それが責任ある政治と言えないか。冒頭の環境政策応援団はそうした政策課題に是非挑戦して欲しいものである。
【これより古い今月のキーワード】