今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

クマ被害の深刻さと自然との共生
2026/07/15(Wed) 文:(水)

石原宏高環境相が7月8日に東京八王子市を訪れ、クマが発生した状況や捕殺した現場などを視察、その後初宿和夫市長や東京都の担当課、出没した近くの小学校校長など関係者との会議に臨んだ。石原環境相は会議で省内にクマ対策チームの発足や関東地方の自治体向けに研修会の開催指示など、出没対策の強化及び人身被害の防止に一層の取組強化を図る考えを示した。
時の環境大臣がクマ被害の現場に出向き関係者と意見交換するというのはおそらく初めてのケースと見られる。それだけ、最近のクマ出没による人身被害や生活環境への影響が広域的かつ深刻さを増しているからでもあろう。特に八王子市は首都東京圏であるうえ、近隣の昭島市などでもクマ出没の痕跡が見つかっており、大都市においても例外ではなくなっているところに事態の深刻さがある。環境省の調査によると、クマ類の出没件数(北海道除く)は全国で2025年度が計約5万件超あって前年度の2万超を大きく上回り、26年度も8333件と前年度を上回るペースが続いている。
クマ被害は地域の日常的な生活慣習に大きな影響を及ぼすのが厄介であり、地域住民のストレスも相当なものになる。例えば、子供の学校通いや地域での催事、健康維持のために行う散歩ができないなど、それら対象地域は広大なエリアとなる。
こうした現実に、政府は「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」を設置して随時状況把握や対処方針を打ち出す一方、環境省は「クマ類による被害防止に向けた対策方針」「クマ被害対策施策パッケージ」などを示しているほか、直近では増えすぎたクマ類を捕獲して個体数を一定目標に抑える方針を示している。
ただこれらの対応は、乱暴に言わせてもらえば大半が緊急的措置であり、対症療法どまりである。クマ問題の根底には山々にいるクマのエサ不足→慢性的な空腹感があり、その原因は戦後に展開された植林事業による針葉樹偏重の林業政策があるという。つまり、クマのエサ不足の常態化があると有識者は強く指摘する。広葉樹多数の森林であれば、木の実や果実などが潤沢に供給され、リスクを侵してまで里山には降りてこないだろうという見方だ。
環境省が唱える「自然との共生」は実に難しい。




「環境政策応援団」と新経済成長戦略の深いミゾ
2026/07/01(Wed) 文:(水)

少し古い話で恐縮だが、5月13日に参議院の議員会館で「環境大臣経験者による環境政策応援団会議」(仮称)という変わった議員グループ設立の集まりがあった。呼びかけ人代表は昨年10月まで環境大臣を務めた浅尾慶一郎氏(参議院、神奈川選挙区)で、現職の国会議員で党派を超えた環境大臣経験者およそ10人が出席、環境省の秦康之官房長から重点施策の取組状況の説明を受けるとともに、応援団としての役割を議論したという。
会議には斉藤鉄夫中道改革連合顧問や小泉進次郎防衛相も駆けつけ、最近のクマ被害対策はもちろんのこと地球環境問題への対応、中東情勢の不安定化に伴うレアメタルなど資源循環対策の強化などの必要性が指摘された。
6月24日。政府は経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会合を開き、「日本列島を、強く豊かに」と提唱する高市首相の下で、造船・ペロブスカイト太陽電池・次世代革新炉・量子コンピュータなど成長戦略17分野における「主要な製品・技術等」を提示、「官民投資ロードマップ」に基づき2040年までに総額370兆円を投ずる新たな経済政策の推進を公表。これを着実に推進するため、従来の単年度予算編成方式を見直し、複数年度の予算要求や地域未来交付金の拡充など、大胆な制度見直しと支援措置の拡充を図る方針を示した。
しかし、これらの新たな経済成長政策と官民投資ロードマップ案には、「沸騰する地球」といわれる地球温暖化への対応(CO2等の削減)や環境保全の維持が確保されるのかの見通しにはほとんど触れられておらず、先の17分野でも蚊帳の外だ。国際的には、パリ協定に基づく30年までのCO2等削減目標とそれ以降のさらなる大幅削減の必要性、自然生態系の維持・回復など多くの対応が要請されているにも拘わらず、である。本来は新たな成長戦略を打ち出す前に、政策に対する「戦略アセスメント」を政府は実施して、その結果を国民に開示すべきであろう。成長戦略が実現すれば国民の所得は増えるかもしれないが、その半面で傷みが伴う“ミゾ”のあることをしっかりと示すべきであり、それが責任ある政治と言えないか。冒頭の環境政策応援団はそうした政策課題に是非挑戦して欲しいものである。 




「権力」を用いて猛暑食い止める大胆な政策展開を
2026/06/24(Wed) 文:(M)

5月半ば、京都に出張した。仕事の合間にも神社仏閣を巡れることができるのが観光都市・京都の魅力だ。
一日目は宇治市の平等院へ。池に浮かぶように建つ阿弥陀堂、旧1万円札のデザインになった鳳凰の美しい姿に見とれてしまった。二日目は京都市の二条城へ。豪華な装飾に圧倒され、大政奉還が宣言された大広間からは緊張感が伝わってきた。次は南禅寺へ。お目当ては水路閣(水路橋)だ。れんが造りのアーチ構造の橋脚は古代ローマ風の建築物でありながら、鎌倉時代に開山した南禅寺の光景に溶け込んでいた。
歴史的遺産巡りを振り返ると、どれも当時の為政者の権力を感じ取れる。平等院は平安時代の藤原氏の栄華を伝え、二条城は徳川幕府の権威の象徴だ。そして水路閣は明治期の京都府知事・北垣国道氏の主導力によって生まれた。北垣氏は東京遷都によって衰退した京都を復興させようと、琵琶湖の水を京都へ引く運河「琵琶湖疎水」を計画し、5年がかりの難工事で明治23年(1890年)に完成させた。水路閣は琵琶湖疎水の一部だ。運河の途中に水力発電所を設置したことで町に電灯がともり、電車が走り、工場の機械化が進んで京都に活力を取り戻した。
現代の為政者はどうか。台湾の頼清徳総統は4月末、1000万本以上の木を植える「緑蔭倍増戦略」を発表した。都市部の気温上昇を和らげる目的だが、単純な植樹運動ではない。都市を冷やす効果を科学的に分析し、市民が徒歩6分以内でたどり着ける範囲に計画的に緑地を設ける。水源を守り、洪水を防ぎ、自然を豊かにする効果も引き出す。
頼総統は「もっと暑くなる夏を前に、私たちは守備に徹するだけでしょうか。攻勢に出て気候変動への適応に積極的に取り組む」「私たちの今日の努力は、明日の台湾にとって最も経済的かつ直接的な気候変動対策となる」と、その狙いを述べている。
それでは日本はどうか。政府は熱中症予防として冷房の使用を呼びかけている。命を守るために大切だが、猛暑の根本的な解決策ではない。為政者なら、地球温暖化を止める対策に権力を使ってほしい。国づくりにも通じる大胆な政策なら、歴史に名を残せるだろう。 



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