今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

「令和の日本列島改造」への期待と危惧
2025/01/24(Fri) 文:(水) 

 昨年10月の政権担当以来、「地方創生」を看板政策としていた石破茂首相が年頭の記者会見で、「令和の日本列島改造」を打ち出した。いわく、「地方創生を通じて東京の一極集中を打破する」「政府機関の地方移転によって職員による都市と地方での2拠点生活する制度の創設」など具体的な政策展開の中身にも言及、これを成就させないと日本の将来はないという危機感まで滲ませた。
 かつて昭和40〜50年代にかけて、日本は全国に新幹線網の背骨をつくり地方の隅々まで高速道路を走らせて地域の過疎を新たな交通網で結び、石油コンビナート立地のための沿岸埋め立てなど、当時の田中角栄首相による日本列島改造論に沸いた。そうした列島改造は多くの便利さと所得拡大をもたらしたが、三次にわたる石油ショックよって日本経済は挫折した。
 その後は大平正芳内閣による「田園都市国家構想」や竹下昇内閣による「ふるさと創生」、そして岸田文雄政権による「デジタル田園都市国家構想」と続いたが、過疎化解消の成果は上がっていない。石破内閣では2025年度予算案で地方創生交付金を200億円計上して改めて対策の重要性を示しているが、地方創生への繋がりは今のところ不透明だ。
 「地方創生」という政策課題は人口の減少・高齢化が急速に進む中、つまるところ数十年続いた東京圏への一極集中を排し、地方の人材も含めて地域に眠っている資源の再発掘と活用を図る対策を実施することだろう。そのための方策として、例えば前述の公的機関や大学・高等専門学校等の地方移転、民間企業の東京本社拠点化の制限措置など、政治がすぐにでもやれることは多い。また、地方の過疎化進行と一次産業の衰退を食い止める方策として、大学生等を対象とした1年間の体験実習半義務化や定住生活の2拠点化支援措置などが浮かぶ。
 ただ、かつての列島改造時代と大きく異なるのは、今や気候変動対策の実施が不可欠な要件となっていることである。来るべき首都直下型地震にも備える必要がある。どんな政策が正解か、石破政権は「地方創生」に向けた戦略的計画アセスメントを実施して欲しいものだ。




もう一つの2050 年、ゼロ目標の痛み
2024/12/18(Wed) 文:(水) 

 日々の暮らしで利用する食品トレーや身の回りにある合成樹脂商品から高度な半導体製造、太陽光発電パネルなどの再生可能エネルギー機器まで使われているプラスチック。今や現代の社会経済活動に不可欠な存在だが、一方で廃プラ処理・処分のルーズさによる海洋流出、微細状態になったマイクロプラによる海洋汚染などが深刻化、こうした廃プラ類が2050年頃には海にいる魚の量を上回るほどに増大する可能性が国連機関などから報告されている。
 そうした世界の環境汚染を食い止めるための「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある条約交渉会議」の5回目(INC5)会合が韓国・釜山で開催(11月25〜12月1日)されたが、会期を延長したにも拘わらず予定した先の国際条約案を時間切れで採択できずに散会、再度INC6会合を招集して協議することとなった。国連の事務局は当初2024年中の条約採択を予定して22年以来交渉を重ねてきたが、プラ製品(設計)規制や供給プロセスのあり方、対策のための途上国支援などを巡ってまとめ案に合意できず、次回への持ち越しとなった。
 今回会合には177ヵ国の国連加盟国・国際機関・NGOなどが参加(予定含む)、日本からは関係省庁の幹部が出席したが、閉会数時間前に韓国大統領府が「非常戒厳令」を宣布、厳戒態勢がとられつつあったことから帰国できるか心配された。間一髪、会議場がソウルではなく釜山であったため辛うじて難を免れたという。
 今回の条約交渉で難航したのは、特にEUが強く主張した生産・製品・供給・使用プロセスに関する直接的な規制導入措置とこれに反対する産油国や多くの途上国が求めた漸進的な対策の実施要求だったという。日本もプラ製品等への直接的な規制は各国にある石油化学エチレンセンターなどの縮小・撤退を招き、失業者増や地域経済の崩壊に連動するのでまずこうした事態への対応を優先すべきとして、EU方針には同意しなかったようだ。これだけ便利かつ豊かになった消費文化の先の2050年までに、ゼロカーボンの実現と海洋プラごみの追加的汚染ゼロという二つの目標は我々に大きな痛みを課すものだが、果たして克服できるだろうか。




目標が「上に凸」って何のこと?もっと分かりやすい言葉で
2024/12/11(Wed) 文:(M) 

 「上に凸(トツ)」「下に凸」。これは何のことか。25 日、環境省と経済産業省が開いた有識者による合同会議でのキーワードだ。
 この会議で事務局が2035 年度の温室効果ガス削減目標として、13 年度比60%削減を軸とする案を示した。恥ずかしながら「上に凸」「下に凸」を知らなかったので調べると、数学の関数の授業で使う用語のようだ。
 現在の排出量削減ペースと50 年の排出ゼロを直線で結ぶと、35 年度は60%減となるという。
 線がカーブして60%よりも上に膨らむと「上に凸」、下だと「下に凸」となる。つまり「上に凸」は60%減に届かないと理解した。事務局は「上に凸」のケースとして「イノベーション技術の社会実装の効果が現れるスピードを考えると、上に凸の経路の追求が現実的」と話していた。イノベーション技術の効果は、35 年よりも遅れて現れるという意味なのか。
 会議で「上に凸」「下に凸」を何度も使っていたが、なじめない。「60%以上」「以下」と言い換えて良いのではないか。もちろん以下は「60%減よりも高い目標」でも良い。
「凸」に言及したわけではないが、ある委員は「国民にどういうメッセージを出すのかが重要。
 数字の意味を伝えることが大事。雑な議論をしている」と苦言を呈した。
 他にも会議への不満の声が出た。別の委員は前回の会議で「野心的な目標にすべき」と意見書を提出しようとしたが、事務方から止められたと告白。「『忌憚(きたん)のない意見』はパフォーマンスじゃないかと思った。この会議は議論の場でなく、コメントを3分で述べるだけ。これで正しい政策を作れるのか」と痛烈に批判した。確かに、これだけの専門家が集まっていながら短時間に意見表明するだけではもったいない。
 事務方によると、「経路(目標)の議論は次回にしてほしい」と意見書の提出を控えてもらったという。また、進め方についても「政府が案を見せて、皆さまからの意見をうかがって仕上げる」と説明した。つまり会議は、採決をとる場ではないということだ。
 会議を傍聴しながら用語や会議の運営に関する課題を感じた。次回の会議では正式な目標案が示されそうだ。進め方の検討は難しいとしても、せめて言葉は分かりやすくしてほしい。



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