トランプ米大統領(表紙に写真)が貿易赤字の解消策として打ち出した各国との相互関税等に対して、我が国への適用とそれに関連する米国との経済取引のあり方を協議するため、石破茂首相側近の赤沢亮正経済再生相が4月30日、米国に向かった。赤沢氏の訪米による協議は2回目となるが、米国側は自動車等への関税措置緩和の交換条件として、アラスカ州における天然ガス(LNG)開発への巨額投資を打診しており、その帰趨が注目されている。
一方で、トランプ大統領がこだわるこの巨大なLNG開発には日本製鉄によるUSスチール買収問題も微妙に絡んでいる。トランプ氏が指示した買収の適切性に関する再審査の報告が6月下旬にも出される見通しで、それまでに日本製鉄側がどんな内容で投資するかがカギとなりそうだ。
アラスカLNG開発協力と相互関税が絡む
最初に、アラスカLNG開発の全貌と1月20日に就任したトランプ大統領とそれ以降のアラスカ関連の動きを簡単に右記のように整理してみた。
トランプ大統領が大方針としている化石燃料復活の実践版―アラスカLNG開発・輸出の具体化方策で特徴的なのは、米国側の積極攻勢に対して日本側が受け身的な対応に終始している点だ。その背景には、現在最も焦点となっているノーススロープ開発の場合、開発投資総額が約6.25兆円と指摘され、高い買い物を押し付けられるというエネルギー業界の警戒感がある。直近ではややそのトーンが軟化してきているが、日本ガス協会の内田高史会長や林欣吾電気事業連合会長らは「基本的なプロジェクトの全容が示されておらず評価は困難」とする認識が支配的だ。
経済産業省にも同様の認識が強いが、一方で自動車などへの高率な相互関税適用となれば我が国経済活動への影響が多大であり、トランプ氏のこだわるアラスカLNG開発にディールとして前向きに対応すべしという考え方もある。
◇アラスカLNG開発の全貌について
〇ノーススロープの油田随伴ガス36〜40tcf及び北極海に膨大なガス埋蔵量70〜100tcf、ブルクスレーンジから北の内陸部〜深部ガス50〜100tcf、ケナイ半島とクックインレット15〜20tcfに分布、合計約200〜300tcfの埋蔵量と推定
〇ノーススロープの開発は1960年代から検討されてきたが、米国政府の輸出規制があって進まず。規制解除後は州政府を中心にYukon Pacificなどが東アジアへの輸出を計画したが、メジャー系企業による検討棚上げもあって実現せず、今日に至る
〇現在検討中のアラスカLNGプロジェクトはノーススロープT:1000万t/年以上で800マイルのパイプラインを敷設し南部のケナイ又はバルデーツで液化して輸出。ノーススロープU:300〜500万t/年、液化基地をノーススロープに設置して砕氷船で輸出。ポートマーケンジ:150〜300万t/年、ケナイとクツックインレットのガスを液化して輸出。ケナイのコノコ・フィリップス:80〜100万t/年:既存のプラントを改修して生産・輸出(地図参照)
(以下については本誌2821をご参照ください)
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