今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去184〜199 回までの今月のキーワード]


環境大臣殿、再生エネ普及の熱意が疑われます
2015/03/04(Wed) 文:(滝)

 「自分でつくった電気を使うのはわくわくする。節電はしても我慢はしていません」。2月中旬のある日、横浜市内で開かれたオフグリッド住宅の見学会に参加した。
 JR東海道線戸塚駅からとことこ歩いて、田畑が見え始めたあたりにSさん夫妻の木造2階建て住宅が建っていた。昨年9月に完成した住宅の屋根には太陽光発電(PV)パネル8枚が取り付けられているが、送電線には接続されていない。「お天気が悪い日が続いたら停電するのでは?」と聞いたら、家の裏にある物置を見せてくれた。大きな鉛蓄電池が24本、「全てフォークリフトで使われていた中古品で合計27kWh蓄えられる。わが家の4日分です」「リチウム電池の新品なら数百万円するけど、中古の鉛電池なので約55万円。パネルや工事費など電気の完全自給費用はひっくるめて220 万円ほど」。
 30代前半の2人、きっかけはやはり東京電力福島第一原発事故だという。「原発や(CO2を出す)石油・石炭で発電された電気を使うことに後ろめたさがあった。でも、電気は暮らしに便利。自給することでそうした思いから開放されて使える」と話す。室内にはエアコンも冷蔵庫も洗濯機もある、それでも便座ヒーターは切っておくなど節電に努めている。
本誌で好評連載中の「足元からeco!」でも感じるが、「電気は電力会社から買うもの」との“常識”から「自分でもつくってみる」にしたら視野が違って見えるのだろう。
 エネルギーミックスの議論が経済産業省の審議会で始まった。再生エネも原発もそれぞれの特徴を生かして“共存”が図れると思うのだが、審議会を傍聴していて委員の構成や事務局資料など原発推進派に有利な“さじ加減”で進められているように感じてしまう。
 そうした中、納得できない出来ごとが報道された。環境省が昨年12月に開いた再生エネの普及可能性検証検討会に提出した内部資料では、20年のPVの設備量は5283万kW(経産省は2369万kW)、30年の風力は2280万〜 3250万kWで経産省の620万〜1250万kWの数倍となっている。環境省が電力の広域運用を前提にして原発も昨年5月までに再稼動申請をした分で計算しているのに対し、経産省は3.11前と同じ前提で計算していることなどが原
因という。どっちの数字がより信憑性があるのか、堂々と議論を戦わせればいい。だが、国会で質問された望月義夫環境相は「数字が一人歩きすると他の省庁となぜ違うのかとなる」として資料を明らかにしなかった。国民の再生エネへの期待より、他省庁から批判されるのが怖いのだろうか。情けない話だ。



2050年に再生エネ70〜90%可能という提案
2015/02/18(Wed) 文:(水)

 経済産業省の有識者会議で中長期的なエネルギーミックスの議論が始まった。この議論では昨年4月に政府が決めたエネルギー基本計画に基づき、「原子力発電の依存度低減」と「再生可能エネルギーの最大限導入」という方針を具体化させ、地球温暖化の進行を食い止める火力・原子力・水力・再生エネの構成割合とその道筋を明らかにする必要がある。
 ミックス策定の対象時期は2020〜30年頃と想定されているが、50年も地球温暖化の進行を阻止するためには重要なターニングポイントであり、それへの対応も視野に置いたものにする必要がある。温暖化ガスの排出削減を検討中の国際交渉では、当面30年目標の各国削減対策が焦点になっているが( 今年末にパリで決定予定)、IPCCは温暖化による被害を緩和するためには、50年以降全世界CO2等排出量を現在の50〜80%まで減らす必要があるという科学的な根拠を示している。我々が使う末端のエネルギーは大半が現在は火力発電や石油・ガス会社等から供給されており、そのための発電・供給インフラ施設は道路や住宅等を新設するのと同様で30〜40年間も稼働し続け、期間途中での改廃が極めて難しいからである。
 2月3日、自民党の再生可能エネルギー普及拡大委員会(柴山昌彦議員・委員長)が開かれ、講師として出席した三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏(LCSセンター長) が再生エネの中長期的な導入可能性を述べ、十分安価な価格と低コストで30年には全発電量の20%以上、50年には70〜90%程度の供給が可能であると断言した。これの実現には当然ながら前提条件があり、例えば太陽光と風力の発電コストは30年には9.8円/kWh 程度、50年に
は9.1〜10.6円程度と、パネル等の技術革新さらには量産効果などにより現在のコスト水準を確実に低下できるという。50年に再生エネが70〜90%になると今問題となっている送電系統の負荷制御をどうするかだ。これは供給制御をコスト0.7円/kWhと試算した蓄電池が全面的に担い、この先期待される日本の優秀な蓄電池の技術革新からみればほとんど心配することはないとする。ちなみに、再生エネが50年に70〜90%になるとCO2排出量
は05年比で15〜22%相当に激減、上述の国際的な削減要請も十分可能になるという。
 ミックス論議は短期的な安定供給のみにとらわれるのではなく、わが国のエネルギーと環境問題への将来道筋をしっかりとつけてほしい。



遅れた春、いよいよ風力の出番だ
2015/02/04(Wed) 文:(滝)

 会場は熱気にあふれていた。先月21日に開かれた日本風力発電協会の賀詞交歓会、前年を大幅に上回る430人が集い、衆参国会議員6人が次々と祝辞と風力発電応援の弁を語った。
 FITに“置き去りにされた”風力発電に遅い春がやってこようとしている。風力発電は2006年度から10年度にかけて、毎年度18万kW〜40万kWが新規導入され、順調に伸びてきた(10年度の累積導入量247万kW)。しかし、FIT施行前年の11年度は8万1000kWにガクッと落ちた。12年度は8万6000kW、13年度も6万5000kWと3年続けて10万kWに届かなかった。その間に太陽光発電(PV)が爆発的に増え、14年10月現在で住宅・非住宅合わせて6893万kWもが設備認定されている。
 風力発電協会によると、風力の導入が進まないのは皮肉にもFITによってだ。FIT以前は建設費の3割前後の補助金が出ていたが、固定価格で買い取るFITが施行されるからと11年3月末で打ち切りになった。12年7月にFITがスタートしたが、同年10月には環境アセスが義務付けられ、それまでの自主アセスに比べ倍となる4年以上かかるようになった。環境省はアセスの迅速化に乗り出しているが、軌道に乗るにはまだ時間がかかりそうだ。現在、なんと620万kWもの風力がアセス待ちとなっている。
再生エネ先進地の欧州では風力が主流だ。デンマークやスペインでは風力だけで国の年間電力使用量の2〜3割をまかなっている。再生エネの発電量比率が約28%のドイツでは、そのうち風力は12%でPVの7%を上回る。コストが安い風力から普及が進み、足りなければ別の電源を利用するのが基本だが、日本ではそうはならなかった。「主役」が足を引っぱられ、「脇役」が一気に突っ走ったということだろうか。
 風力発電にも問題はある。景観、騒音、そしてバードストライクだ。日本野鳥の会の研究で、01年から14年3月までに確認されただけで国内で300羽がバードストライクで死んだという。うち天然記念物のオジロワシなど絶滅危惧種が6種計42羽だった。私はこの程度はやむをえないと思うのだが…。
 FITの省令・告示改正が1月26日に施行され、PVの“道連れ”で風力も出力抑制対象になった。ただ、買取価格は下げられずにすみそうだ。14 年度の風力導入量が21万5000kWと前年度の3倍以上になる見通しなのは明るい兆しだ。
 4日は立春、風力発電の『春』が待ち遠しい。



ゴミ発電の最大限活用に知恵を絞ろう
2015/01/15(Thu) 文:(水)

 再生可能エネルギーの普及拡大は昨年後半における送電系統の制約問題から、従来の太陽光発電偏重が見直され、風力や地熱などの事業展開の環境整備に政策展開の軸足が移りそうだ。ただ、風力発電の拡大は依然として系統強化や環境アセスの制約、地熱は大型案件の場合に国立・国定公園との調整が難しく、かつ発電開始まで最低5年以上要するなど時間がかかる。
 そこで、再生エネ拡大の即戦力となりかつ電力供給と熱利用の両方が容易に可能となる一押しの施策として「廃棄物発電」の抜本的な拡充を提案したい。焼却となる廃棄物には、生活系ゴミなど自治体が責任を持つ「一般系」のゴミ焼却施設が全国に1188施設、うち回収エネルギーを発電等に活用しているのは約27%の317施設。総発電能力は約175万kWに過ぎない。導入割合はまだ小さいが、近年は中都市以上の日量200〜300t規模のゴミ処理を行う自治体では発電等エネルギー回収設備をつけるところが増えている。再生エネ固定価格買取制度でゴミ発電からの電気が買取の対象になっているという追い風もある。
 しかし、廃棄物焼却におけるエネルギー回収利用にはまだまだ多くの課題がある。一つは、かつてダイオキシン対策として整備した焼却炉の老朽化(築20年超=379施設、30年超=169、40年超=9)が著しく、更新時期を迎えているものの予算措置のきびしさや周辺住民との軋轢などにより建て替えが順調に進んでいない。二つは、中都市以下のゴミ処理量が相対的に少ない自治体でのエネルギー回収事業がほとんど実現していない。三つ目は、稼働中のものも含め焼却施設の発電効率が10〜16%程度と極めて低く、これを最新鋭の設備に更新して21%まで引き上げ、投資回収を高めることが課題だ。この発電効率の低さは大半が発電だけで熱利用のスキームがないことにも原因がある。また一般ゴミは季節によって水分を多く含み燃焼効率が著しく悪くなるという特性もある。
 近年は公共的な施設などを街中に集約してスマートなエネルギー利用を実現するコンパクトシティ構想が進められているが、その中に地域分散エネとして活用できる発電・熱回収設備つきの最新の廃棄物焼却炉を組み込んだらどうか。最近の焼却炉は高性能化が進み環境対策も万全で、近隣に迷惑をかけるような事態は皆無に近いという。運搬・搬入の問題は残るが、街中に設置されれば電気・熱利用もロスなく効率的に利用できてそれが地域への貢献にもなるのではないか。――今年も変わらぬご愛顧のほどを。



工夫こらし電力自給目指す、会津の挑戦
2014/12/17(Wed) 文:(滝)

 たわわに実った柿の実が雪をかぶっている。1月後半になると山沿いで2m、町中でも50〜60cm は積もるという。市民ファンドで出資を募った会津電力鰍フ現地見学会に参加、12月上旬の福島県・会津を訪れた。
 10月末に完成したばかりの雄国ソーラーパーク(喜多方市)は、会津盆地を見下ろす丘に3740枚のパネルがうねる。出力1000kW、会津初のメガソーラーで一般家庭約300世帯分の電力を生み出している。木造の体験型学習施設も併設され、再生可能エネルギーについての説明などが掲示されている。
 特徴的なのがパネルの高さと傾き。真冬でも雪に埋まらないよう、全てのパネルが高さ2.5mのパイプの上に設置されている。また、太陽光を直角に受けるほど発電効率は高いため通常は5〜6度だが、ここでは30度で設置されている。「夜に雪が降って朝太陽が出るケースでは、30度傾斜だと11時ごろに雪が滑り落ちる。35度にすると10時に早まるが、春から秋にかけての効率を考えると冬季の1時間は仕方がない」と若い社員が説明、「実際にパネルを設置して1年半かけて試験した。雪国でも十分PVができることが証明できた」と顔を輝かせる。さらに、雪が滑り落ちやすいようにパネルの溝をシリコン樹脂で埋めた。土台も費用がかかるコンクリートではなく、パイプを地中深く打ち込むことで十分な強度になることを確認したという。
 社員14 人の会津電力が立ちあがったのは昨年8月。その中心になったのは、喜多方市にある「大和川酒造」の佐藤彌右衛門社長(63)。江戸時代の寛政2(1790)年創業という造り酒屋の9代目だ。「水と食料さえあれば大丈夫と安心していたが、3.11の原発事故では会津も放射能でダメになるかと思った。それまで原発を止めてこなかった責任は私たちにもある」「エネルギーを電力会社任せではなく、自分たちに取り戻すことが大切。まずは入りやすいPVから始めたが、これからは風力や小水力にも取り組む」と熱く語った。
 会津は見みしらず不知柿の産地として知られるが、夜の交流会で摘果など世話をする人手がなく放置されたままの柿の木が多くなっていると聞いた。息子や娘は首都圏や仙台に出たまま戻らず、人口は毎年減っているという。白い雪と赤い実、日本の原風景のような美しい風景の裏で進んでいる過疎化に胸が痛んだ。蔵の町・喜多方には10軒の造り酒屋がある。ニ
シンの山椒漬けを肴に地酒をちびちびいただく。酔いが回ってきた頭で、豊かな会津のエネルギー自給と地域の活性化を願った。



総選挙で再生エネ関連票が動く?
2014/12/03(Wed) 文:(水)

 消費税10%への引上げ先送りや経済政策の一枚看板としていた「アベノミクス」などに対する国民の信を問うとして衆議院が解散され、今月14日に投開票が行われる。
 今回の総選挙では原子力発電の是非が与野党間での一つの争点になっているが、再生可能エネルギーが今後の政策としてどう展開されるかも投票で支持者を決める重要な判断材料になりそうだ。特に、この9月から大手電力会社(北海道、東北、四国、九州、沖縄)による系統接続保留措置が実施され、年内にその再開方針が示される予定であり、中小の事業者にとってはこれが死活問題にもなる。一方で、電力各社への接続申し込みでは多く
の与党議員が紹介や仲介の労をとった経緯もあり、支持者のつなぎ止めの面からも早期の決着が必要という事情もある。
 現在の再生エネ設備の認定規模は、累計で約7000万kW超と10年先の暫定的な導入水準を上回る勢いとなっており、それに応じて再生エネ関連の市場も今や大きな経済圏になっている。例えば太陽光発電市場の場合、経産省調べによるとパネルの2013年度出荷量は約900万kW、累積では1800万kW あり、その市場規模は約2.5兆円にものぼるという。これの雇用創出効果は約20万人といわれ、末端の施工工事関係や家族なども含めれば3倍以上
になるかもしれない。今回の選挙で、こうした関連事業に関わる有権者が今後の政府や与野党の対処方針を自らの利害得失と絡めて、重要な判断材料とすることは想像に難くない。
 その結果、「再生エネ関連」というまとまった票が動き当落に影響する可能性もある。
 総選挙に臨む与野党もそうした重要性を十分意識してか、解散の直前に系統連系の保留問題などへの対処方針を公表、自民党は原子力政策・需給問題等調査会が「できる限り多くの接続可能量を確保し早急に保留解除」などの方針を示した。また、原発対策の一環としていた再生エネの検討機関を独立させ、安倍政権が重視する地方創生とイノベーションの柱にすることも決めた。一方、民主党も直嶋正行・エネルギー総合調査会長らが会見、「即時の接続保留解除と接続保留に関する要件の厳格化」などを求めた。
 エネルギー問題での争点は「脱原発」だけではない。資源のないわが国はこの先何十年も再生エネと付き合わざる得ないのは自明であり、すでにここまで成熟してきた産業になってきた今こそ、部分的な系統連系問題を超える思い切った“重要電源”としての方策を示してもらいたいものである。



原発再稼動・・・「地元」とは?
2014/11/19(Wed) 文:(滝)

 帰りの電車で酉の市の縁起熊手を持った人を見かけたら、家には喪中ハガキが届いていた。年の瀬までもうすぐ、いつの間にかそんな季節になった。年明けと見られる九州電力川内原発の再稼動に鹿児島県の伊藤祐一郎知事が同意を表明した。薩摩川内市の同意が先月28日、宮沢洋一経産相が鹿児島県を訪れて協力要請したのが3日、九電社長が周辺8市町を回って地ならしを終えたのは4日、そして県議会とそれを受けての知事同意が7日。9月10日の審査書決定から2ヵ月足らず、レールに乗って突っ走ったかのようなスピード合意だった。法律で定められていない地元合意の範囲について、伊藤知事は「原発が立地する薩摩川内市と県だけ」と早くから主張、知事が臨時県議会の早期開催を強く働きかけたという。まるで地元合意のモデルケースにしたいかのようだ。
 しかし、原発の最大の問題点は重大事故が起きた場合に影響が広範囲に及ぶことにある。東京電力福島第一原発事故の際には30`圏外の多くの人たちも避難を余儀なくされた。千葉県内にある私の居住市もわずかだが汚染され、いまだに草木は一般ゴミとして出せない。
 最新の朝日新聞世論調査では「再稼動同意は立地自治体と県だけ」としたのは14%で、「30`圏内の自治体と県」は72%となった。当然で健全な世論だと思う。
 私自身は再稼動そのものに反対ではない。原発の危険性は現実的にはかなり低いだろうし、地元を含めた国全体の経済への影響も考慮しなくてはならない。ただ、原発なしで今年の冬も夏も乗り切ったのは事実。国内の原発16原発48基のうち、運転から40年前後の古いものは廃炉にし、残りの原発も安全で効率の良いものに絞って再稼動に動くべきではないか。その際には少なくとも30`圏内の自治体・住民に説明すべきだ。同意の範囲が広がって再稼動のハードルが高くなっても、時間をかけて説明し納得してもらうしかない。
 一方、「30年以内に中間貯蔵施設から福島県外に搬出して処理します」、そんな法律が先日衆院で可決された。30年後に汚染土などを受け入れる自治体があるのか、海に捨てるわけにもいかないだろう。「やはり他は受け入れてくれません。30年前に約束したのですが当時の関係者はいないし…」とか言って、“あめ玉”を差し出すのではないか。本誌前号の「イチオシ施策」に福島県が登場、「震災復旧へ再生エネ先駆けの地を目指す」と意気込みを示してくれた。しかし、いま再生エネには暗雲がかかっている。真に福島の復興を考えるなら、原発再稼動に血道をあげるのではなく、わずか2.2%の再生エネ普及の環境を整備し、福島を始め全国で10 倍、20倍に増やしていくことではないだろうか。



再度問う!リニア中央新幹線建設の愚
2014/11/05(Wed) 文:(水)

 「夢の超特急」といわれた品川〜名古屋間のリニア中央新幹線の工事実施計画が太田明宏国土交通相により先月17日に認可された。今回の認可は「その1」として沿線計画区間におけるトンネルや橋梁などの土木構造物を中心としたもので、新設される6つの駅の建設など開業関係設備については、「その2」として、今後JR東海からの申請を待って認可を行うことになる。
 しかし、同区間の延長距離約285.6kmを最速40分程度で走るという、世界初の超電導磁気浮上方式による総事業費約5.5兆円におよぶ世紀の大事業が、着工態勢に入ったことはいうまでもない。環境省はこの事業に対して「低炭素・循環・自然共生が統合化された社会に向け、環境保全について十全の措置を行うことが本事業の前提である」とのきびしい大臣意見をつけたが、国交省の認可にはそのことが全く示されていない。同省意見はこのほか、路線の86%が地下40mとなる大深度から危惧される地下水系の切断による水資源や生態系への影響、大量の土砂発生と処分地の確保など30 項目にわたっていたが、JR東海は工事が竣工するまでに対応すればよいとの考えだ。
 環境への悪影響だけではない。橋山禮治郎著による「リニア新幹線 巨大プロジェクトの『真実』」によると、事業の高コストと採算性などから歴史上失敗した巨大プロジェクトは国内外で「東京湾横断道路、諫早干拓、超音速機コンコルド、英仏海峡トンネル」などがあり、リニアはこれに匹敵する大赤字となる事業でもあるという。さらに、首都直下型や東南海地震が予想されるなか、大深度地下という未知の空間の安全確保対策に十分な保証がないままだ。福島第一原発事故で最大の教訓となった「安全神話信仰」に再び寄りかかっている。東京一極集中を一層加速させることのマイナスもある。
 特に問題と思われるのは、リニア新幹線の供用時に膨大な電力を消費することである。3.11以降原発の大半が停止、代替の火力発電の稼働によりCO2を大量排出しながら何とか電力の供給力を確保しているというのに、供用時には最大約27万kWの電力消費になるという。27万kWという規模は、住宅用太陽光発電の設置数に換算すると約7万件に相当し、東北電力が供給エリアとする7県の人々が行う全節電量の想定規模に匹敵する大きさだ。
 こうした大量の電気を事業で消費するJR東海には、自ら使う電気についていっそのこと全て再生エネでの電源調達を義務付けてはどうか。早さと便利さを従来エネルギーに求めてきた時代は、3.11以降確実に変わったはずである。



再生エネ普及へ、政府の「本気度」が試される
2014/10/22(Wed) 文:(滝)

 夜空に輝いていた満月が左下から欠けはじめ、1時間後にはすっかり地球の影に隠れた。8日に見られた3年ぶりの皆既月食のように、再生可能エネルギーに暗雲が広がっている。
 系統接続の中断は九州電力から一気に北海道電力、東北電力、四国電力、沖縄電力へと広がった。「再生エネをもっと導入しなくては。そのためにFITで一定期間決まった価格で買い取ります。どんどんやってください」との国の“お墨付き”を信じた事業者や出資者はショックだったろう。九電や東北電が行った説明会には事業者らが詰めかけ、「土地を
手当てし、銀行の融資も受けたのに」「あまりに突然、もっと早く分かったはず」など怒りと不安の声が渦巻いたという。当然だと思う。
 どうしてこうした事態に陥ったかが、なかなか理解できない。日本の再生エネの発電量に占める比率はまだ2.2%(2013年度、水力除く)にしかすぎない。再生エネ先進国のドイツやスペインは2割を超え、ドイツは30年には50%を目指している。こんなに低いレベルで中断に追い込まれてしまうのか。また、水力や地熱では比較的安定した発電が見込まれるが、太陽光発電(PV)の設備利用率は約12%、風力では20%にしか過ぎない。設備容量に比べて実際の発電量は少なく、現実的はまだ余裕があるのではないか。もし、供給量が使用量を上回ることが予想される場合はPVや風力発電の送電を外す出力抑制ルールも使えるはずだ。受口を大きく広げながら工程を広げなかった政策当局の対応の遅れなどが指摘されるが、根本的な原因としては、日本のエネルギーのあるべき方向性を示さない政府の責任ではないか。不安定な再生エネ、安全性が問われる原子力、コストが高くCO2排出量も大きい火力……いずれも一長一短あるこれらをどう組み合わせていこうとするのか、いわゆるエネルギーミックスをはっきりさせるべきだ。
 再生エネへの逆風の一方、原発に対する風向きが違ってきた気がする。エネルギー基本計画では原発を「重要なベースロード電源」とする一方で「依存度を可能な限り低減させる」と位置づけている。安倍総理や小渕経産大臣、同省の原子力小委員会での論議を聞いていると、「重要なベースロード電源」としての“復権”を目指す動きが強まっているように感
じられる。再生エネはCO2排出が少ないという環境面のメリットだけでなく、自分たちで電気を生み出せるという市民に身近なエネルギーとしての側面もある。系統の強化に税金を投入することに国民の理解は得られるはずだ。政府は本格的な普及のために本腰を入れて、この問題に取り組んでほしい。 



定着節電と原発再稼働と温暖化の進行
2014/10/01(Wed) 文:(水)

 今夏の電力需給は供給力全体の約28%もある原子力発電が1 基も稼働しなかったにもかかわらず、トラブルなく終了した。5月頃の政府の見通しでは、供給力のきびしい関西電力や九州電力など西日本エリアへ東日本から周波数変換装置を通して数10万kWの応援融通も想定されていたが、その必要もなかった。最大需要規模(ピーク)と供給予備率の推移をみると、東電管内は最高気温36.1℃を記録した8月5日の需要が4980万kWで予備率8%
強、関電は7月25日に最大電力を示し設備使用率は94%程度だった。
 今夏の需要が想定を下回ったのは例年よりも平均気温が低めに推移したのに加え、8月にあった広島市北部の集中豪雨など西日本全体の天候不順、それに「定着節電」の効果があったという。定着節電とは、福島第一原発事故が発生した3.11以降から顕著になった需要減傾向を指し、例えば東電管内は事故前の2010年最大需要規模約6000万kWが今夏は5000万kW弱に、関電管内も3.11前に比べ約400万kWも落ち込むなど、全国的な傾向となって
いる。
 ただ、需要想定を行う経済産業省はこの定着節電に対していつまで続くかとまだ懐疑的であり、想定する節電の数字に一定の安全率をかけ固めの見通しとして需要規模をはじき出していたが、今夏もこの節電が立派に持続したことになった。こうした電力需給の結果に、すでに大手紙には「今夏原発ゼロでも余力」「原発再稼働必要なし」との大見出しが躍っていた。しかし、この見方はあまりに短絡的過ぎよう。九州電力・川内原発の再稼働が年明けにも実現することへのアンチテーゼだが、ではわが国の地球温暖化対策をどう強化するのか、電気料金の高騰は、貿易収支の赤字による経済影響は、などへの言及は全くない。
 わが国は3.11以降、原発停止による火力発電の稼働拡大により先進国の中でトップクラスのCO2排出急増を続けており、きびしい削減目標の設定が予想される国際的な新たな枠組み交渉への対応も意欲的ではない。次世代にツケを回すのは原発だけではなく、気候変動が原因とされる異常気象や洪水被害、生態系の破壊などがすでに現実化しており、さらに対策を怠れば間違いなく30〜50年先にも不可逆的に顕在化するといわれている。
ならば、わが国は最低限の原発依存とする一方で、徹底的な減エネによる低炭素社会を構築する選択肢にならざるを得ない。政策当局者は原発再稼働に偏重するだけではなく、同時に今夏みられた定着節電をさらに強化・進展させるような知恵のある施策を具体化してもらいたいものである。



デング熱だけではない…深刻化する温暖化影響
2014/09/24(Wed) 文:(滝)

 「近いうちに発生しなければいいのですが…」、数年前に取材した国立感染研究所昆虫医科学部長の真剣なまなざしが思い出される。今、ニュースになっているデング熱のことだ。
 8日現在で14都道府県で81人の患者が発生した。ご存知の通り人から人へは感染せず、感染した人から吸血した蚊(ヒトスジシマカ)の体内でウイルスが繁殖、別の人の血を吸ったときに感染する。戦争中の1942〜45年、東南アジアから運ばれた蚊が防火水槽などで大発生、約1万7000人が高熱に苦しんだ。その後姿を消し、感染して帰国する海外旅行者が毎年100 人前後いるが、国内感染は69年ぶりだ。媒介するヒトスジシマカは平均気温11℃以上の地域に分布、1950年ごろまでは栃木県が北限とされていたが、平均気温の上昇とともにどんどん北上、いまは青森まで達している。
デング熱は世界でもっとも多い蚊媒介性ウイルス感染症で、アジア、中南米、アフリカの約100カ国・地域で毎年数千万人が感染し、発症している。台湾南部では02年に5000人を越す大流行が発生したが、温暖化によって生息できるようになったネッタイシマカによるものだと分かっている。日本でも温暖化が進めば、大流行を引き起こすネッタイシマカが入ってくる恐れが高い。温暖化による影響は蚊だけではない。オーストラリア原産の
毒グモ・セアカゴケグモは95年に大阪の臨海部で初めて発見されたが、いまは愛知県や群馬県にも分布を広げ、毎年数人が刺されている。東南アジア原産で攻撃性が強いオオミツバチ、幼虫が毒棘を持つ中国南部原産のヒロヘリアオイラガなども国内で見つかっている。農業では、米の白濁が広がっているほかブドウの着色不良、ミカンの浮皮症などの被害が拡大している。海では藻場の消滅や魚種の変化などが各地から報告されている。
 この夏、土砂崩れで多くの犠牲者を出した広島市など各地で記録的な集中豪雨が相次いだ。つい最近に台風14号が奄美大島付近で発生したのも、日本近海の海水温が高くなっているためだ。温暖化という、全地球的で大きく複雑な変化に私たちが対応できるまでには多くの困難と時間を強いられるだろう。
 温暖化による被害が顕在化する中、今月23日にニューヨークで国連事務総長が呼びかけた気候サミットが開かれる。今年12月にはCOP20がペルーのリマで、そして来年末パリでのCOP21で排出削減の国際的枠組みづくりが期待されている。しかし、途上国は「先進国と同じように豊かになりたい」との主張を変えるだろうか、日本だって来年第1四半期までに削減目標を示せるか微妙な情勢だ。壊滅的な被害が訪れる前に、「人類の叡智」が発揮されることを願うしかないのだろうか。



驚異的拡大ペース、再生エネの本当の実力
2014/09/03(Wed) 文:(水)

 固定買取価格制度等に基づく再生可能エネルギーの認定容量がこの4月末時点で、約7100万kWを超えたという。この数字はなんと第4次エネルギー基本計画において想定していた2020 年の導入目標どころか30年目標を凌駕する水準になっている。その大半が太陽光発電で、2013年度の年間出荷量は対前年度比50%増の約900万kWと驚異的なペースによる市場拡大が進む。年度替わりの3〜4月にかけ、買取価格の引き下げ措置や経産省による認定取り消しを意識した駆け込み申請があったとはいえ、まさに太陽光発電バブルの様相だ。
 7100万kWという規模はわが国における現在の発電規模の30%強を占めることになり、原発の発電能力約4800万kWをもはるかに上回る。単純に見れば原発不要論に連動しそうだが、そうはならないしこの再生エネ設備の本当の実力を改めて認識する必要がありそうだ。最大の弱点は気象条件に左右され、年間の設備稼働率(つまり電気をつくる能力)がPVで12%程度、風力発電がよくて約20%程度であり、負荷変動が激しく電気の質もあまりよくないことだ。また、需要に追いつかない場合はCO2を排出する火力発電に応援してもらう必要がある。もちろん再生エネの導入拡大はわが国のCO2削減に一定の寄与をするが、原発100万kWを1基稼働させるとわが国CO2排出量全体の0.4%分(10基で4%)
を削減する大きさには遠く及ばない。
 その他にもいくつか致命的な問題がある。一つはすでに経産省が制度見直しに着手しているが、設備を認定されたものの事業利益の確保を狙って一定期間を経過しても運転開始しない案件が増えている。こうした案件には認定取り消しなどの処分が出されつつあり、今後も計数百万kW 規模に及ぶ見通しだ。もう一つは、PVと風力発電の新規立地計画が集
中する北海道北部や青森県と秋田県の一部地域に顕在化している既存送電系統への接続困難という問題であり、経産省は風力発電事業について「特定風力集中整備地区」として指定。風力事業者自らが送電線建設費用の過半を負担、国もその一部を特別目的会社(SPC)に補助する制度が動き始めた。しかし、こうした対応は国全体から見て社会インフラの二重投資にならないか、電気事業の中でも難しい地元交渉と言われる用地補償などを本当にこなせるのか疑問が残る。
 以上から言えることは、再生エネの本当の実力は認定容量の7100万kW のおそらく1/10以下が至当なところだろう。むしろ大事なことは、その実力を叡智を出し合って国民負担の少ない形で2倍3倍に引き上げる方策を具体化することではなかろうか。



安全って何だろう…ダモクレスの剣の自覚を
2014/08/12(Tue) 文:(滝)

 暑い夏が続いているが、なんとか原発稼動ゼロでも乗り越えられそうだ。
 先月、九州電力川内原発1、2号の審査書案が原子力規制委員会によって了承された。田中俊一委員長は会見で、「安全だとは言わない、(福島原発事故を受けて厳しくした)新規制基準に適合したということ。稼動するかどうかの判断は事業者と住民、政府で」と強調していた。しかし、世間的には「安全宣言」が行われたと受け止められ、再稼動に向けての手続きが進められている。
 福島原発事故前は「安全か」との問いに、電力会社も政府も「絶対安全。事故は起こりえない」と答えていた。いま、自らの安全対策の徹底をなおざりにしたまま規制委に「合格」をせっつく電力会社の姿勢が見られる一方、反対派は規制委定例会合の場でルールに反して「絶対反対」と叫ぶなど、福島事故の検証と教訓を学ぶより、安全についての不毛な“神学論争”が続けられている気がしてならない。
 確かに世の中に「絶対安全」はない。飛行機は落ちることがある、車は事故を起こす、食品は腐ったものが混入される。だからといって車に乗らない、食品を食べないことはできない。紛争や殺人などが絶えない社会の中で原発は事故の危険性だけでなく、使用済み燃料や放射性廃棄物の処理も決まらない。ないにこしたことはない。しかし、代替の火発の燃料費が年間3・6兆円も増え、北海道電力は昨年9月に続く大幅値上げを申請した。
 「原発ゼロのためには電気料金が高くなっても仕方がない」との国民合意がなされていない中では、新規制基準に適合した原発を再稼動することはやむをえないだろう。だが、2年前の民主党政権時代、関西電力大飯原発を動かしたときには野田首相(当時)が前面に出て再稼動する必要性を国民に説明したが、現政権は政治決断を避けたまま原発再稼動を推進、“原子力村”の人物を規制委に送りこむなどやることが姑息に思えてしまう。
 タクシーが「事故は起こしません」、レストランが「100%安全です」というのは許される。「確率的には事故を起こす可能性があります」といわれたら誰も乗らないからだ。しかし、いずれ行われる住民説明会では「最大限努力するけど、絶対安全とはいえない。しかし、稼動しないとより大きな弊害があるため再稼動します」と正直に説明してほしい。そうした緊張感こそが福島の二の舞を避ける最大の要素だと信じている。



顔の見えない事務次官の本当の役割
2014/07/16(Wed) 文:(水)

 今年も定例の霞が関人事がいろいろな話題を提供して終わった。この人事で安倍政権は内閣人事局を新設、600人以上にのぼる全府省の審議官級以上を評価して幹部異動を決めたというが、結果的には従来とたいしたかわり映えなく、女性登用が目立った程度だった。関心を呼んだのは、財務省の事務次官に、退任した木下康司氏(昭54年入省)と同期の香川俊介主計局長が昇格、さらに同期には田中一穂前主税局長(主計局長に異動)がおり、この先、3人とも次官になる可能性があるという。
 経済産業省の幹部人事は昨年大幅入れ替えの反動もあって立岡恒良事務次官(昭55年)と上田隆之資源エネルギー長官(同)が留任、主要幹部4人という小幅だった。事前には上田長官の次官昇格という説も流れたが、電力システム改革の総仕上げになる時期に、事実上のトップが変わると支障をきたすという判断もあってか流れた。 
 ただ、財務省の同期3人たらい回し次官の話しではないが、最近は「事務次官は日常的にどんな仕事をしているのか、顔がまったく見えない」とする批判をよく耳にする。ある産業人からは、新聞に出る首相と同じような「次官の1日」が分かったらぜひ教えてほしいと真顔で言われたことがある。次官は政治的な立場を重視する大臣とは異なり、事案の継続性と客観性に留意する必要がある。時には実施した政策に関する責任をとるべきであり、国民に対する説明責任を常に果たす義務がある。それが最近は大臣の顔色ばかりを伺い、本来果たすべき行政トップとしての役割を放棄、年収2000万円以上の高給をはんでいるという指摘だ。
 例えば、先日閣議決定した政治的判断による集団的自衛権の行使容認という憲法解釈にしても、一般人からみれば憲法解釈の是非を国民に問うべきというのが筋だが、常に法制度に基づく行政対応を前提にする官僚側からは何の異論も出てこない。また、原発問題もしかりだ。温暖化の原因となるCO2排出急増と電気料金の高騰、さらには国富流出という事態を2年以上招いているのに、経産省は安倍政権へのマイナスを気遣い先頭に立って問題解決に当たろうとしていない。
 かつて事務次官は必ず週1回の会見を行い、自らの対応を積極的に説明してきた。それが民主党政権時代に政治主導という言い方のもと、表に出なくなり誰がどういう判断をしたのか皆目見えなくなった。そうした国民にとってマイナスの多い悪習こそ、自民党政権下の事務次官らは自ら改めるべきだと思うのだが…。



「エネルギーのしま」掲げる五島市、バラモンがんばれ!
2014/07/02(Wed) 文:(滝)

 長崎港から高速水中翼船ジェットフォイルで約1時間半、浮体式洋上風車の取材で訪れた五島列島・福江島(五島市)は豊かな自然と温かな人情に包まれた島だった。獲れたの魚介類は新鮮で、すぐに五島ファンになった。
 島は「エネルギーで活力をつくり エネルギーを生産する エネルギーのしま」を掲げており、福江港では電気自動車のPRパネルが出迎えてくれた。それならばと、レンタカーは電気自動車を選んだ。乗ったのは初めてだったが思ったよりも力があり、坂道もぐんぐん加速する。もちろんエンジン音はせず快適な静かさ。ただ、フル充電された出発時の走行可能距離は150`、営業所員から「残り20%を切ったら充電してください」と充電カードを渡された。島内には十数ヵ所の急速充電器があるとはいえ、充電には30分もかかってしまう。どう時間をつぶそう、喫茶店なんかないよな〜と気がかりだったが、何とか充電せずにすんだ。
 人口約4万人の島は5年間で人口が7000人減ったという。案内してくれた市職員は「毎年、350人ぐらいが高校を卒業しても、島に残るのは30人ほど。大半は進学や就職で島を離れる。戻るのは何人もいない…」と顔を曇らす。洋上風車がすぐ沖合いにあって、発電した電力が送られる椛島は、漁業の不振もあって過疎化・高齢化が急激に進んでいた。かつて4000人がいたという島にいまは百数十人が身を寄せ合うように暮らし、立派な校舎と広いグラウンドを持つ椛島小・中学校の在校生は小学生1人だけだった。日本列島には6852の「島」がある。そのうち、北海道、本州、四国、中国、九州、沖縄本島を除いた6847が離島と呼ばれる。このうち、人が住んでいるのは418島だが、どこでも過疎化・高齢化に共通の悩みとなっている。
 福江島の名産品に色彩豊かなバラモン凧があり、鬼に立ち向かう勇敢な武士の兜の後姿が描かれている。バラモンとは五島の方言で「元気のいい」という意味だという。島をドライブしていると、町内会が設置した太陽光パネルや陸上の風車に出会った。再生エネルギーに活性化の願いと島の未来を託す五島の人たちとバラモンが重なって思えた。



安全・安心・安価な“純国産エネルギー”普及を目指せ
2014/06/18(Wed) 文:(崎)

 地熱発電所と小水力発電所の建設準備を進めている福島市土湯温泉町を訪ねた。土湯温泉は16軒の旅館があったが、2011年3月の震災による建物の倒壊で4軒が休廃業、さらに原発事故による風評被害で、先の見通しが立たないことから3軒が廃業した。このままでは町が立ち行かなくなるとの危機感から11年10月に有志が土湯温泉町復興再生協議会を結成。基本理念に「自然エネルギーが支える、先進の町」を掲げた。
 6月1日号で紹介したように、湯遊つちゆ温泉協同組合などの出資により12年に元気アップ土湯を設立、同社が130℃の源泉によりペンタンという低沸点媒体を蒸発させてタービンを回すバイナリーサイクル発電を手がけることになった。15年7月に400kWの発電を始める。東鴉川の砂防堰堤を活用した落差50m、総延長300mの小水力も15年3月に140kWの発電を始める予定だ。
 元気アップ土湯の加藤勝一社長は「計画を発表してから海外も含め1500人が視察に訪れた。観光資源としての役割も果たせることが分かった」という。地熱と小水力を合わせても一般家庭600世帯分の電気量だが、地域の人たちが、自分たちの町の復興再生のツールとして再生可能エネルギーを取り上げたことは意義深い。
 だが、加藤社長が「地熱は国産機器を使おうとしたが、結局、実績のある米国オーマット社製を採用した」といったことが気になった。温泉はさまざまな成分が混じり合っており、泉質は温泉によって多様なため、熱交換器の目詰まりなどに不安があったようだ。日本では長い間、地熱開発がなかったことが原因かもしれない。
 これは地熱だけの問題ではない。固定価格買取制度開始以降、販売が急増する太陽電池も海外メーカーがシェアを高めている。4月に開所した産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所は太陽電池のコスト低減のために基板の厚さを半分にする研究を国内メーカーと進めている。
 日本の再生可能エネ関連機器のメーカーはこうした産学連携などによる技術開発とものづくり力で、海外勢を圧倒する性能とコストを実現してほしい。日本の機器メーカーが国際競争力を付けることが、安全安心に加えて安価な、真の“純国産エネルギー”の普及を加速するためには欠かせない。



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