今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去199〜214 回までの今月のキーワード]


安全・安心・安価な“純国産エネルギー”普及を目指せ
2014/06/18(Wed) 文:(崎)

 地熱発電所と小水力発電所の建設準備を進めている福島市土湯温泉町を訪ねた。土湯温泉は16軒の旅館があったが、2011年3月の震災による建物の倒壊で4軒が休廃業、さらに原発事故による風評被害で、先の見通しが立たないことから3軒が廃業した。このままでは町が立ち行かなくなるとの危機感から11年10月に有志が土湯温泉町復興再生協議会を結成。基本理念に「自然エネルギーが支える、先進の町」を掲げた。
 6月1日号で紹介したように、湯遊つちゆ温泉協同組合などの出資により12年に元気アップ土湯を設立、同社が130℃の源泉によりペンタンという低沸点媒体を蒸発させてタービンを回すバイナリーサイクル発電を手がけることになった。15年7月に400kWの発電を始める。東鴉川の砂防堰堤を活用した落差50m、総延長300mの小水力も15年3月に140kWの発電を始める予定だ。
 元気アップ土湯の加藤勝一社長は「計画を発表してから海外も含め1500人が視察に訪れた。観光資源としての役割も果たせることが分かった」という。地熱と小水力を合わせても一般家庭600世帯分の電気量だが、地域の人たちが、自分たちの町の復興再生のツールとして再生可能エネルギーを取り上げたことは意義深い。
 だが、加藤社長が「地熱は国産機器を使おうとしたが、結局、実績のある米国オーマット社製を採用した」といったことが気になった。温泉はさまざまな成分が混じり合っており、泉質は温泉によって多様なため、熱交換器の目詰まりなどに不安があったようだ。日本では長い間、地熱開発がなかったことが原因かもしれない。
 これは地熱だけの問題ではない。固定価格買取制度開始以降、販売が急増する太陽電池も海外メーカーがシェアを高めている。4月に開所した産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所は太陽電池のコスト低減のために基板の厚さを半分にする研究を国内メーカーと進めている。
 日本の再生可能エネ関連機器のメーカーはこうした産学連携などによる技術開発とものづくり力で、海外勢を圧倒する性能とコストを実現してほしい。日本の機器メーカーが国際競争力を付けることが、安全安心に加えて安価な、真の“純国産エネルギー”の普及を加速するためには欠かせない。



持続させたい「定着節電パワー」
2014/06/04(Wed) 文:(水)

今年もまもなく暑い夏がやってくる。心配なのは大震災前に電力供給の30%程度を占めていた原子力発電が再稼働する見通しになく、稼働ゼロの状態で夏季にピークとなる電力供給危機を乗り切れるかどうかだ。
先月、政府は「2014年度夏季の電力需給対策について」をまとめた。需給の逼迫状況を乗り越えるため、電気ヘルツの異なる東日本から西日本への周波数変換装置を使った東西融通(約60万kW分)が実施されれば、西日本エリアの供給予備率をギリギリ3%確保することができ、節電の数値目標は設定しない方針を示した。実はこのときあまり報道され
なかったが、大震災以来わが国では節電行動が定着してそのトータル量が今夏の需給緩和に大きな役割を果たしている事実だ。
至近3年度の全国電力需要実績をみると、対前年伸び率は震災前の2010年度に5.6%もあったのに対して、震災後となる11年度は△5.1%、12年度は△1.0%、13年度は△0.4%と、景気の上向きなどを反映して少しずつ数字が小さくなっているものの3年連続の減少となった。今回の夏季需給見通しにおいても、節電影響による需要抑制効果を10年度に対
して△1435万kW分見込んでおり、これは100万kW級の原発約14基に相当する大変な数字だ。
しかもこの数字にはしっかりした根拠があり、電力会社がそれぞれ顧客に対してアンケートを実施して節電意向を事前に調査、その結果ではこれまでに何らかの節電対策をとった人・企業の80%以上が引き続き同様の行動をとると回答したという。加えて、節電効果を定量化する際には政策当局が想定規模に一定の安全係数を乗じて固めの見通しを算定、実現の確実性に配慮した。こうして算定した節電の定着率については、需給検証を検討した委員からは安全係数を乗じる必要がないのではないかという意見すらあったようだ。
つまり大震災から3年経ち、一部では節電意識が風化してきたとの見方もあったが、どっこい国民の間にはまだきっちり根付いており、それが「定着節電パワー」といえるほど、原発停止などにより綱渡り状況の電力需給を緩和する大変な戦力になっている。もちろんこうした節電行動には最近の電気料金値上げに対する節約やコスト削減、さらには地球温暖化対策に役立つという意識もあるだろう。最近は高度な機器を使ったエネルギーシステムの採用による省エネ等の実現が主流になっているが、むしろ今の「定着節電」を持続化させ、さらなる節電量が実現するような施策の展開こそ重視されるべきではなかろうか。



気候変動の危機をビジネスチャンスに変えよう
2014/05/15(Thu) 文:(崎)

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の三つの作業部会が4月までに相次いで第5次評価報告書を公表した。これらをまとめた統合報告書は10 月以降に公表される。自然科学的根拠をまとめた第1作業部会報告書が「気候システムの温暖化については疑う余地がない」と断定するなど、2007 年の第4次評価報告書に比べ、地球温暖化が一層進んでいるとの見解を示している。
 影響・適応・脆弱性を検討した第2作業部会は「温暖化の進行がより早く大きくなると、適応の限界を超える可能性がある」と指摘した。気候変動の緩和を扱う第3作業部会は「2030年まで緩和の取り組みが遅延すると、産業革命前から気温上昇を2度C未満に抑えるための選択肢の幅が狭まる」とし、「緩和の遅れは中長期的な緩和コストを増大させる」と報告している。
 二酸化炭素などの温室効果ガス排出削減による気候変動の緩和には一層、力を入れなければならない。だが、それだけでなく気候変動に対する適応も組み合わせた取組を講じなければならない段階に入っているということだ。第2作業部会報告書は「よりレジリエント(強靭)な社会の実現」が必要としている。
 日本の産業界は温室効果ガス排出削減に大変な努力をしている。こうした努力を自主目標達成のために仕方なくやるのではなく、率先垂範することでビジネスに結びつけることが重要なのではないだろうか。温暖化は文字通り地球規模の問題であり、低炭素社会への移行、温暖化に適応するための強靭な社会づくりはどの国にとっても重要な課題であるからだ。
 排ガス規制対応で飛躍し、現在も環境対応車で世界をリードしている自動車産業の例をあげるまでもなく、日本の産業界は石油危機や円高など危機をバネに成長を遂げてきた。
 現在、原発事故による電力危機が足かせになっているが、この危機も再生可能エネルギーやコジェネレーションなどの分散型電源にITを組み合わせたスマートコミュニティーなどの普及のきっかけにしたい。
 地球規模の危機は地球規模のビジネスチャンスなのである。企業には低炭素生産や強靭なインフラづくりに積極的に取り組み、これをビジネスとして世界に広めていくことで人類のリスクを軽減することに力を入れてほしい。



青息吐息の市民共同発電所とPV企業の利益
2014/04/16(Wed) 文:(水)

 約10年前から心ある市民の寄付を募って、地域での太陽光発電(PV)事業の橋渡し
業務を小さな組織でこなしてきたNPO法人・太陽光発電所ネットワーク(PV−Net、
都筑 建代表理事ら) が、運営費など資金のやりくりに苦労しているという。再生可能エ
ネルギー普及加速化の政府方針とともに、固定価格買取制度という高・中リターンを保証
した仕組みに恵まれ、再生エネ導入全体の95%以上を占めるPVビジネスと同様に順風
満帆と思いきやそうではなかった。
 近年、長野県飯田市のおひさまファンドを筆頭に、北海道や秋田県などの市民グループ
が自然エネルギー建設のための投資資金を公募。予定額を上回って事業着手に漕ぎ着けた
成功例も出ているが、地域での寄付型事業の場合はせいぜい1件あたり500万円程度の資
金確保が限界で、これでは数kW程度の個人用住宅にしか導入できない。その限界を乗り
越えるため、地域の市民グループは疑似私募債の発行などによる元金保証と一定の利回り
を配当する方式など、様々な事業方式の工夫を取り入れつつあるようだ。
 そうした事業での技術的対応や事業化の相談に乗り、様々なアドバイスや支援を行って
いるのがPV−Netで、運営資金は会員からの安い会費収入が大半という。特別な相談
案件ごとのコンサル料をとっているわけではない。
 最近では地域の地場企業や自治体がこうした「市民共同発電所」に目を向け、積極的に
参画するケースも増えているようだ。現在、市民共同発電所は全国に458件、その発電規
模は約52メガワットで、まだ日本全体の発電規模からすれば微々たるものに過ぎない。
しかし、地域にとっては貴重なミニ発電所であり、その周りにさらに新しい発電所を設置
してそれらを連系、電気の相互融通や災害時の非常用電源として重要な役割を持たせ、さ
らにそれを中核とした地域貢献・振興策を具体化する「コミュニティ協働発電所」に昇華
させたいと、都筑代表理事は語っていた。
 一方で、名だたるPV大手メーカーやソフトバンク系企業などの新興企業は計数百件の
メガソーラー事業を展開、大きな利益を計上している。反対に市民活動を軸においたPV
−Netは青息吐息の運営状況という矛盾をどう考えたらいいのか。かつての東京電力な
どは、こうした市民的活動に対して人や資金面などで積極的に支援、それが地域の底上げ
に繋がると認識していた。ところが、最近のPVメーカーや太陽光発電協会のような公益
団体すら利益至上主義であり、社会の立て直しのための支援をしようとする姿勢が全く見
られない。電力大競争時代を前に、市民共同発電所などとの友好関係を築くような度量の
大きさが求められよう。



新誌名でエネルギーの“S+3E”を追求します
2014/04/02(Wed) 文:(崎)

いつも「時報PV+」をご購読いただきありがとうございます。「時報PV+」は4月1日号(第75 号)から誌名を『創 省 蓄エネルギー時報』に変更いたしました。略称は「創エネ時報」です。新誌名とともに表紙のデザインも一新しました。
「時報PV+」は2010 年6月と8月に創刊準備号を発刊し、10 月1日に創刊しました。当時はエネルギーに関して、供給安定性(エネルギーセキュリティ)、経済性(エコノミー)、環境保全(エンバイロンメント)の“3E”が重要であるとの議論が盛んでした。
私たちは、純国産エネルギーであり、二酸化炭素(CO2)を排出しない再生可能エネルギーを増やすことが、3E達成の道であると信じて、再生可能エネ普及に有益な情報を発信しようと、「PV+」を創刊しました。経済性の点では大規模電源に劣っていたわけですが、長い目で見れば、必ずや克服できると考えました。そこで、再生可能エネの代表格の太陽光発電つまりPVとそれに風力発電などほかの再生可能エネを加えるという意味で「+」を付けた誌名にしました。
創刊から半年足らずの2011 年3 月11 日に東日本大震災に見舞われ、多くの方々が犠牲になると同時に、東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融という大事故が起きました。エネルギーのキーワードは安全(セイフティ)を加えた“S+3E”となりました。
系統電力が途絶する中で、再生可能エネが威力を発揮しました。またその後の原発停止による電力危機により、省エネやコジェネレーションなども加えた自立分散型電源、蓄電、さらに地域や住宅のスマート化の重要性に認識が深まったのはご存じのとおりです。政府は2012 年7月に再生可能エネ電気の固定価格買取制度を開始、また電力システム改革に踏み出しました。
私たちはこれらの情報を発信する中で、当然ながらPV以外の創エネや省エネ、蓄エネ、スマート化についても幅広く報道してまいりました。再生可能エネもPVだけでなく、風力やバイオマスなどへの関心も高まっています。そこで今回、報道内容に合わせて誌名を変更し、エネルギーの“S+3E”を追求されるより多くの皆様に有益な情報をご提供したいと考えました。
今後とも末長くご愛読いただきますよう、お願い申し上げます。



水素エネルギー時代へ日本発の橋渡しを
2014/03/12(Wed) 文:(水)

 「次は、水素だ」のキャッチコピーの後には、「水素はもう夢ではない。扱いにくいエネルギーではなく、安全で運びやすく貯蔵も可能。CO2を出さない水素はすぐにでも世の中の役に立つことができる“今のエネルギー”なのです」という文字が踊っていた。
 千代田化工建設が自民党の水素社会推進小委員会会合(3月6日)で、配布した資料にこうした内容があった。同社は長年にわたり利用のネックとされていた輸送・運搬プロセスで、常温・常圧の形で水素を運べる「SPERA(スペラ)水素」を開発、この技術によって超低温液化やボンベで圧縮することなく、低コストによる長距離輸送と大量貯蔵が可能になるという。開発した技術のシステムは、天然ガス田や炭坑の現場で大量に発生する副生水素をトルエンに吸収させて液体化(MCH)、それを需要地まで輸送。消費地では大規模な脱水素設備を拠点とするほか、小規模需要ごとの小型脱水素設備を設置して小口需要に対応する。
 この技術のミソは、MCHから水素を取り出す際にナノテクノロジーを応用した脱水素触媒を開発したこと。これによっていつでも必要な量の供給が可能になったという。
 もう一つが同じ自民党の小委員会で報告された、川崎重工業が具体化中の豪州で豊富にある褐炭を水素原料とした大量製造・長距離輸送方式による「CO2フリー水素チェーン」というシステムだ。取り出した水素成分をマイナス253℃まで低温にして液化水素化、気体状態の容積は1/800 まで縮小させて大量運搬・貯蔵が可能となり、コストも大幅に削減できるようだ。こうした水素供給システムの実用化が燃料電池や発電、さらには車などにも用途が大きく広がって、同社の長期想定では2020 年頃に本格導入が始まり、35 年には2100 万tに増えて一次エネルギー供給量の20%、50 年には3400 万tとなって同40%を占めるまさに「基軸エネルギー」になるという。
 2020 年および35 年頃となれば、地球温暖化による気候変動のリスクが一層高まり、国際的にも各国のCO2削減目標への達成がきびしくチェックされる状況下にあるだろう。わが国は今夏にも原子力発電の再稼働が数基出てきそうだが、今月中にも決まるエネルギー基本計画では原発利用を可能な限り少なくする方針が示され、30 年以上続いた原発を基幹エネギーとした時代が終焉を迎える。しかし、そうした原発の代役が可能となる基幹エネルギーは未定のままだ。水素の製造は今のところ化石燃料系に依存しているが、技術的には再生可能エネや水力発電、さらには無尽蔵の海水からも得ることが可能と言われている。
 関係者による日本発の水素エネルギー時代への橋渡しを大いに期待したい。



命預かる現場で産学の不祥事、徹底解明を
2014/02/26(Wed) 文:(崎)

 東京地検特捜部は製薬大手のノバルティスファーマに薬事法違反(誇大広告)の容疑で強制捜査に入った。ノバルティスは高血圧治療薬「ディオバン」(一般名:バルサルタン)の臨床研究を京都府立医科大学など5大学で実施、一部の論文は「ディオバンがほかの薬よりも効果が高い」とした。同社はこれを医師向け広告などに活用していた。だが、論文作成に元社員が関与していたことが昨年3月に発覚した。
 同社の不祥事は一部社員が起こしたとしてトカゲのしっぽ切りで片づけてはならない問題だ。上層部がどこまで関与していたかはともかく、企業内に不祥事を容認する風土があったと疑わざるを得ない。会社ぐるみの不祥事と受け止めるべきであろう。当局の徹底した捜査により全容を解明してほしい。
 医薬品は言うまでもなく人の命を預かる仕事である。企業のブランドは本来、消費者にとっての「安全」、「信頼」を保証するものでなければならない。またノバルティスのケースでは各大学が論文に不正やデータ操作があったとの調査結果を発表した。国民の多くが信頼できると思っている「大学教授の研究」の不正は、大学のブランドをも失墜させる。
 さらにこの問題は同社と関連大学だけにとどまらず、産学連携の問題点も浮き彫りにした。大学の研究成果を産業に移転していくことは“知の大競争時代”といわれる今日、国力を高めるために重要なことだ。でも、今回のケースのように産学の癒着があってはならない。大学の研究はあくまでも真実の追求である。大学側が真実を捻じ曲げてまで、資金
を提供する企業の言いなりになってしまっては、何のための産学連携かということになってしまう。
 同社はまず消費者の命を預かる仕事をしていることを肝に銘じるべきだ。そのうえで、社内を隅々までチェックして二度と不祥事が起らないように、企業の体質を抜本的に改善しなくてはならない。さらに産学連携の際の、企業から大学への資金の流れをより透明化する必要がありそうだ。



都知事選結果から見えた脱原発論
2014/02/12(Wed) 文:(水)

 脱原発と今後のエネルギー政策の進め方が一大争点となった東京都知事選が終わり、原発の段階的縮小を主張した元厚生労働相の舛添要一が210 万票余を獲得して圧勝、新しい知事に就任した。原発の再稼働に反対、即時廃止を前面に押し出して小泉純一郎元首相の応援を得た細川護熙氏らに大差をつけた勝利だった。意外な選挙結果と指摘されているのは元航空幕僚長で保守系の論客、原発再稼働論も示した田母神俊雄氏が61 万票を獲得したことだ。
 この知事選の結果について、日本原子力発電の東海第二原発が立地する茨城県東海村で4期村長を務めた村上達也氏は、脱原発を主張した細川氏らが敗れたことを念頭に、「極めて残念。東京都民は目先の経済だけを追い、歴史的な大きな間違いを犯した」と語っている(2月11日付東京新聞)。及ばずながら小生も一都民であるが故この言に反論してみたい。
 仮に細川氏が当選したとしても東京都知事が原発を廃止することができるか、それは否である。そもそも東京には原発が立地していないので稼働を止める権限はまったくない。
 確かに、都は東京電力の株を所有し経営内容に口を挟めるが、僅か1.3%程度の持株ではほとんど影響力を行使しえない。逆に東京都は、3.11前には東電から年10億円以上の配当金を受けとっており、むしろ株主として原発推進経営を何十年にわたって容認してきた責任こそ問われかねない。
 首都である東京が都知事を先頭にして全国の脱原発を主張する首長と組み、さらに世論を喚起して政府に強く迫れば実現可能という主張もあるが、原発廃止後の代替策を含めてその具体的な方法論がほとんど示されておらず、幻想に過ぎない。故・山本七平の名著「空気の研究」ではないが、反・脱原発を声高に主張する知識人や大手メディアの「空気の醸成」に乗っかっただけ、という見方もできよう。
 ただ、都知事として原発廃止を可能にする手立てはいくつかある。それは法律論や技術的な可能性は別として、原発で発電された電気を独自条例によって使用禁止にするか、原発以外の自然エネルギー等だけを認める措置をとることだ。当然ながら、こうした対応は知事の政治生命を賭けたものになってこよう。都知事選で見えたことは、反・脱原発の主
張はその代替策をどう組み立てどう実現するのかという具体策がなく、そこを都民の多くが見破ったのではないか。決して村上氏のいう歴史的な間違いではなく、反・脱原発を唱えた候補者がそれを果たせると信頼しなかっただけと思われる。重要なのは、原発を今後どうするかは電力の大消費地での運動もさることながら、常に不安とともに生活している
立地地域がまず自ら決めることであろう。



画期的技術のエネルギーキャリアに期待
2014/02/05(Wed) 文:(崎)

 2015年にはトヨタ自動車やホンダが燃料電池(FC)車を商用化する計画である。FC車は発電機を搭載した電気自動車で、水素の供給インフラが普及のカギを握る。すでに販売が始まっている家庭用コジェネレーション「エネファーム」は30年に530万台の普及を目指す。エネファームは天然ガスなどの炭化水素を改質した水素を使い、空気中の酸素との反応により発電する。
 水素が注目されるのは、FCのように水素を直接使う機器だけでなく、再生可能エネルギー発電が増えているからだ。化石燃料の燃焼は資源の枯渇につながり、地球温暖化を促進する。原子力は安全性に疑問符が付き、使用済み核燃料の処理処分もままならない。長期的には再生可能エネに頼る社会を構築することになるだろう。
 ところが、再生可能エネは地域的に偏在し、天候次第で出力変動が激しい。風況や日射量などの優れた地域に立地することが望ましいが、電気は貯蔵や長距離輸送が困難だ。すでに風力やメガソーラーが多い北海道ではすべてを系統に送ることが難しくなりつつある。そこで電気を化学エネルギーに変換して長期間の貯蔵や長距離輸送を行う技術が注目されている。これをエネルギーキャリアといい、常温、常圧で液体の有機水素やアンモニアが有力視されている。
 環境省は長崎県五島市沖の浮体式洋上風力発電の余剰電気を使って水を電気分解、水素に変換して貯蔵、利用する実証を行う予定だ。産業技術総合研究所は4月に開所する福島再生可能エネルギー研究所で再生可能エネ電気を有機水素に変換しエンジンや燃料電池に使う研究を行う。経済産業省と文部科学省は再生可能エネの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出プロジェクトに着手した。科学技術振興機構(JST)や産総研、広範な分野の大学研究者に加え、企業がメンバーの半分くらいを占める「出口を見据えたプロジェクト」という。
 海外の再生可能エネ適地で発電した電気を有機水素やアンモニアに変えれば、石油と同じようにタンカーで運べ、備蓄も可能だ。技術的問題だけでなく、ライフサイクルでの環境負荷やコストなど課題も少なくないが、解決すれば、日本だけでなく世界のエネルギーと環境問題の解決につながるだろう。エネルギー小国・日本から画期的なエネルギー利用技術を発信してほしい。



今年建設ピークの防潮堤事業に一考を
2014/01/15(Wed) 文:(水)

 2014年を迎え、弊誌はお陰様で4年目に入りました。メディア界の常識では創刊した雑誌は3年持てば見通し立つといわれていますが、読者諸兄姉のご期待に違わぬようさらに磨きをかけた誌面づくりと、新鮮な情報発信に力を尽くしますので宜しくご支援ください。
 お正月、運動がてらに東京の中奥を流れる一級河川・多摩川の堤防を2時間ほど散策した。川幅は広いところで500m以上あるが、急峻な奥多摩の山々から流れてくる水量の豊かさに加え、最近では鮎つりも見られるほどのきれいさに回復している。この堤防で改めて驚いたのは、河川の両側に高さ5m以上はありそうな洪水防止のための土手。さらに緩衝緑地を挟んで外側に深い堀を巡らし、その脇には高さ15mほどもある大木が整然と並んでいた風景だ。おそらく一昔前に先人たちが知恵を絞り、何度も襲う洪水からの危機を防ぐため、自然の力を最大限活用した地域協同の土木事業で造ったに違いない。
 翻って、今年最大の建設ピークを迎える大震災で損壊した岩手県と宮城県の防潮堤事業を考えた。昨年の12月、自民党の環境部会ではこの事業の進め方が問題となり、地域住民代表や専門家からは、旧防潮堤を倍近くにするピラミッドのような画一的なコンクリ性構造物の建造に見直し要求が出ていた。家内野党と言われる首相夫人の安倍昭恵さんも出席、「現場に何度も足を運びました。必要もない所に14.5mの防潮堤が建とうとしています。もう一度精査して見直し、計約8000億円という予算を大事に効率的に使ってもらいたい」と、真摯に訴えていた。
 しかし、問題はそう単純ではない。行政側からみれば言語を絶するような被災を回避するためには100年に1回の大津波から早く人命と財物を守ることが最優先という。集中復興期間とする2015年までに予算を消化する構えとなり、望ましい防潮堤の姿の検討は後手に回ってしまう。逆に地域住民からすれば、100年の大半を海が見えない隔離された巨大構造物と暮らすのはかなわないとして、計画見直しを迫ることになる。専門家もまず街づくりプランが先で、それにあった防潮堤の形態を住民合意で進めるべきと強く批判する。
 岩手、宮城県の防潮堤事業は現在410ヵ所以上で計画または着工中だ。なかには国立公園区域もあれば、漁業との共存すべき海域もある。そこでどうだろう。こうした特別な公共事業は全国から造り方のコンペを行い多種多様な形態を地元とともに考えたらどうか。先の多摩川の先人の知恵に習ってもいいし、再生可能エネルギー施設との共存もできるかもしれない。要はもう少し時間をかけて100年の計を再検討することではないか。



アナログの“技”が日本のモノづくりに必要だ
2013/12/18(Wed) 文:(崎)

 3次元CADのデータをもとにプラスチックや金属の素材を1層ずつ積層して直接造形する「3Dプリンター」が急速に普及している。パソコンと同価格帯の機種が登場して、テレビコマーシャルが流され、個人レベルまで広がってきた。モノづくり分野にもデジタル化の波が押し寄せている。
 3Dプリンターは、以前はラピッドプロトタイピング(高速試作)と呼ばれていたが、最近ではアディティブマニュファクチャリング(付加価値製造技術)と呼ばれるようになった。試作だけではなく、実際の製品の製造にも入りつつあるからだ。消費者の好みに合わせたカスタム製品づくりに向いていそうだ。また家電品などの補修部品やその金型の在庫を抱える負担を減らし、何十年たっても部品を供給することができるようになるかもしれない。
 一方、日本のモノづくり産業は精密機械加工や、機械加工による金型を使った造形を得意にしている。もちろん、この加工分野にもコンピューター数値制御(CNC)、コンピューター支援製造(CAM)などデジタル化の波は押し寄せているが、現在でも職人の技能がものをいう世界だ。
 ではモノづくりのデジタル化によって、技能によるモノづくりの差別化は過去のものとなるのだろうか。もちろん、デジタルで短納期、低コストでできるモノはそうなるだろうから、メーカーはデジタルスキルを磨くことが必要だ。しかし3Dプリンターで作るモノは日本でも中国でも、どこでも同じである。
 自然はすべて切れ目のないアナログの世界であり、それを一定間隔で切り取ったものがデジタルである。したがって、どんなに細かく切り取っても“0”と“1”の間に抜け落ちた部分が出てくる。その抜け落ちた部分を埋めるのが技能ではないだろうか。これは設計でもモノづくり現場でも同じだと思う。
 優れたアイデアやひらめきによる創造性豊かな製品の多くは、個人が有する感性によるところが多い。製造現場では機械の音やにおい、切削くずの形状、加工表面の触感など常に五感を働かせることが重要だ。デジタルのモノづくりでもアナログのモノづくりを体得した技能者が力を発揮すると思われる。その意味で、デジタル時代でも技能の伝承は欠かせない。
 技能をしっかり身につけた感性豊かな人材が必要であり、そうした人材がこれからも日本のモノづくりを支えていくのだと思う。デジタル一辺倒ではなく、特に感性豊かな若い時期にしっかり技能を身につけることがデジタル時代でも望まれる。



COP19に登場した歴史的排出責任論
2013/12/11(Wed) 文:(水)

 毎年11月から12月にかけて開催される国連の気候変動枠組み条約の締約国会議(COP19)が終わった。帰りの飛行機の時間が迫ってこないとまとまらないといわれるほどの会議で、今回も先進国と途上国が鋭く対立、会期を予定より1日延長しての決着となった。
 決まった内容はまだ詳細が明らかになっていないが、再来年のCOP21で決めることになっている2020年以降の新たなCO2等削減スキームについては、各国が国内準備を開始して早く自主的な約束草案を示すこと。資金拠出では先進国がさらなる気候資金の拡大に向け戦略的な対応を用意すること。また、気候変動の悪影響による損失・被害(ロス&ダメージ)を検討するための「ワルシャワ国際メカニズム」を設立する合意が新しい動きだ。
 特に注目されるのは、新しい削減目標の設定などで一部の途上国が「歴史的なCO2等排出量」をメルクマールにすべきという主張を展開した点と、大規模な台風被害となったフィリピンなどの事例から、気候変動によると思われる損失等にどう対応すべきかの議論が白熱したことだろう。歴史的な排出量責任論は、9月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第5次報告書の一部として公表した温暖化進行の科学的な新知見に出てきたもので、産業革命以降の各国によるCO2の累積排出量の大小が、温暖化の進行度合いを示すCO2濃度のプロットとほぼ一致したことが根拠になっている。
 ちなみに、主要国の累積排出量をみると、ダントツが米国の3554億t-CO2、以下はロシア1445億t、中国1326億t、ドイツ835億t、英国709億tの順で、日本は6番目の526億tだ(期間は原則1840〜2010年)。ただ、この約170年間という期間ではこうなるが、各国の排出量は産業革命以降から最近の30〜40年前までは大きくなく、それ以降に急速に増えたのが共通している。特に中国の排出量が急増しているのは周知の通りで、今では世界一の排出国となっている。途上国による歴史的責任論の主張がもう一つ強まっていないのは、こうした中国への配慮が働いているようだ。
 気候変動の原因となるCO2は一旦大気中に拡散すると森林等に吸収される分を除き、未来永劫に蓄積して減少しない安定的な物質といわれ、歴史的な排出責任論もそれが背景にある。世界で6番目のわが国が、COP19では2020年の排出削減目標を見直し、現状からの排出量が増加することになる3.8%減を表明した。歴史的な責任から言えば、いつまでも一時の原子力発電稼働状況を前提にする削減計画であってはならず、一刻も早く大胆な省・創エネを軸とした低炭素社会の構築を提示すべきではなかろうか。



もっと意欲的な温室効果ガス排出削減目標を掲げよ
2013/11/20(Wed) 文:(崎)

 地球温暖化抑制の対策を話し合う国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)が11日からポーランドで始まった。日本は2020年までの温室効果ガス削減目標を05年に比べ、3.8%減にする方針を固めた。COP19で表明する見通しだ。
 09年に当時の鳩山由紀夫首相が「すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意」を前提に、20年に1990年比で25%減という温室効果ガス排出削減目標を公表した。しかし安倍晋三首相は1月25日にこれをゼロベースで見直すことを指示した。
 その後、原子力発電所の稼働が見通せない中で、削減目標が決められない状況が続いていた。確かに電力の二酸化炭素(CO2)排出量は原発が事故を起こした11年度に増え、12年度はさらに増えている。だが京都議定書を脱退したうえ、20年の削減目標も示せないとあっては国際的に信頼を失うとしてCOP19の直前になって急遽、目標を設定したようだ。
 ただし、この目標は京都議定書の基準年である90年と比べると3%以上増えることになる。森林の吸収分を含めると、何もしないことになるのではないか。いくら原発事故があったからといっても90年より増える削減目標では諸外国の理解を得ることは難しいだろう。
 まして気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会が「気候システムの温暖化については疑う余地がない」と断定した第5次評価報告書を公開したばかりである。今年は異常な高温、大雨、竜巻、巨大台風という極端な気象現象に見舞われた。これは日本だけのことではない。すでに気候変動は始まっているのかもしれない。
 原発が稼働すれば削減目標を上乗せすることもあるようだ。原発の是非はさておき、ないものねだりをしても仕方がない。原発が稼働していない現状を前提にもっと意欲的な削減目標を掲げるべきではないか。そして、その目標に向かって省エネ・創エネ・蓄エネなどのあらゆる手段を講じることだ。それが諸外国の信頼を失わないことであり、将来世代を気候変動の悲劇から守ることにもつながるのではないだろうか。



「減災ふろしき」普及にかける一人の研究者
2013/11/06(Wed) 文:(水)

 未曾有の被害をもたらした東日本大震災からまだ2年半というのに、伊豆大島(東京都大島町)では台風26号による記録的な大雨によって大規模な土石流が発生、多くの島民が寝込みを襲われ痛ましい犠牲者が多数出た。町長が当時出張中で避難勧告を発令しなかったこと、気象庁や東京都による警報発令システム運用の不備などが指摘されているが、2年半前のあれだけの犠牲をはらった教訓が十分に活かされなかった。
 幸いにも、次の台風27号では島民全員が他の地域に避難、一人の被害者も出なかった。災害対策においては、経費と手間暇が多くかかり無駄な部分もあるかもしれないが、事前の周到な対策がいかに重要かを示したといえよう。そうしたいつ来るかしれない災害による犠牲と被害を地域コミュニティの力で少なくさせるという「減災する社会」の普及活動を実践している人が保田真理さんだ。東北大の災害科学国際研究所に勤務するれっきとした防災の専門家だが、東北での大震災を目の当たりにして防災を必死に研究、そこで辿り着いた一つの結論が「減災ふろしき」の普及だった。
 M9という3.11の大震災では宮城県沖の太平洋プレートが南北500km、東西200kmにわたって沈み込みそれが巨大津波を引き起こした要因といわれている。観測された津波は岩手県の宮古市姉吉地区で最大40.5m、宮城県の名取市館腰地区では陸側最奥遡上域が地震発生30〜70分後に5.4kmまで到達、ほとんど逃げる間もなかった。「災害は忘れた頃にやってくる」は言い古された言葉だが、保田さんは調査を重ねた結果、3.11が文字通りそれに該当することを知った。すでに明らかにされているが、3.11級の大震災は869年に発生した貞観地震や1611年の慶長地震などの繰り返しだった。さらにその前兆と目される宮城沖地震は、この約200年余の間に6回発生、その活動期間が平均37年だったことも判明。しかし、保田さんが最大の問題と認識したのは、繰り返えされた大災害がその地域の自治体や地域社会に記録や伝承として残され、それが常に目に見える形で住民に意識され事前の防災対策にほとんど活かされていなかったことだ。
 そこで保田さんは一つの結論にたどり着いた。災害は必ずやってくるのだからそれを前提に、事前の防災対策を人々が自ら日常的に実践することで「減災」を目指す。その心がけと実践の必須事項を、持ち運びに便利でいざとなればバッグ代わりにもなる「減災ふろしき」に印し、それを地域共通の「結」(ゆい)として広げる地道な活動を続けている。政府は今後の大震災対策として、海側に巨大な防潮堤の設置などハードの設備対応による国土強靭化方策をとろうとしているが、こうしたソフト対応こそ急がれるべきではないのか。



法人減税よりも国内需要の喚起が効果的だ
2013/10/16(Wed) 文:(崎)

 安倍晋三首相が消費税を来年4月から3%引き上げることを表明した。同時に5兆円規模の景気対策、法人税減税を打ち出した。本来、消費増税は社会保障費の増加を賄い、膨大な財政赤字を減らすことが目的のはずだ。それなのに消費増税の一方で、公共事業を増やし、企業の税負担を減らすということにちょっと違和感を覚える。
 企業の負担を軽減して利益を増やし、賃金を上げ、消費の停滞を食い止めて、景気を浮揚させようという意図は分からないではない。でも企業の7割は法人税を払っていない。その多くは中小企業だ。法人税を払えない企業は減税も関係ないし、賃上げもできない。下請け企業の多くは消費増税で材料費や燃料費が上がっても転嫁が難しいかもしれない。さらに従業者数の7割が中小企業である。そこでの賃上げがなければ、残念ながら個人消費の拡大は望めない。
 日本企業が海外に拠点を移すのは、コモディティ化した製品の場合、需要が多いところでつくるほうが低コストで、消費者のニーズに対応しやすいからだ。海外企業を呼び込むにしても、法人税を少し引き下げたところで、日本よりも少ない国はたくさんある。ようは日本の需要が見込めるかどうかだ。
 企業は消費税が8%でも消費者がほしいと思うものを国内でつくることである。それは高齢化社会を健康に過ごし、医療や介護の負担を少なくする、また環境・エネルギー問題を解決する製品やサービスなどである。あるいは消費者の意識に顕在化していないものかもしれない。政府が「経済成長と財政健全化を両立」するとしたら、こうした製品やサービスの開発、ベンチャー企業の育成、潜在的ニーズの顕在化を支援することだ。
 特に急がれるのが環境・エネルギー分野だ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が9月末に公表した第1作業部会報告書によると、人間活動により温暖化が進んでおり、世界各地で極端な高温の頻度が増加、極端な降水がより強く、頻繁になる可能性が非常に高いとしている。
 日本では原発に対する不安が払しょくされない中で、化石燃料による発電で温室効果ガスの排出削減が難しい状況になっている。徹底した省エネと再生可能エネルギーを飛躍的に増やすことが必要だ。そのためには減税よりも規制改革が必要だと思うのだが。



エネルギー制約時代下のリニア新幹線建設
2013/10/02(Wed) 文:(水)

 まず、本誌が時折転びながらも創刊丸3年を今号で迎えることができたことに、読者諸兄姉そして広告提供企業に深く感謝申し上げたい。創刊は、未曾有の災害をもたらした2011年3月11日の東日本大震災が起こる半年前だった。まだ原子力発電は全国で54基が電力供給の30%弱を担い、爆発的な再生可能エネの拡大や多様な省エネ対策もあまり具体化していなかった。創刊を応援してくださった関係者からは、「福島第一原発事故を予想していたのか」と問われることがあったが、そんな神のようなことをできるはずもない。ただの偶然だが、3.11前に誕生させたことには多少の誇りがある。
 3.11以降、わが国のエネルギー情勢は一変している。一言でいえば、「エネルギー利用の制約と多様化時代」に入っているといえよう。54基の安価といわれたベース電源の原発は現在1基も動いておらず、年内一杯この不安定状況が続く。その代替として、シェールガス革命の影響がおよびつつある天然ガス(LNG)と石炭、それに分散型の再生エネやコジェネレーション(燃料電池含む)などが大幅に導入拡大されている。が、国際的に一層の削減要請が出されているCO2等問題に対応できないし、常態化しつつあるわが国の貿易収支赤字も止められない。環境も経済も二流国に陥落する寸前である。
 こんな大事な時に総工費約9兆円という巨額をかけ、名古屋〜東京間にリニア中央新幹線を建設する事業が、来年度着工を目指して環境アセスの手続きが始まった(2027年に開業予定)。最終的には大阪まで延伸し、東京・名古屋・大阪の3大都市圏をそれぞれ最速で40分と67分(時速500km)で結ぶという。
 しかし、リニア新幹線はその構造上、電気の“缶詰” といわれるほど大量の電力が必要となる。エネルギー供給の制約時代を迎えた今日、住宅に設置されるPVに換算すると10万戸以上に匹敵するこうしたエネ大量需要家には、少なくとも再生エネ等の一定の「創エネルギー」を義務付けるべきではないか。「より遠くへ、より早く」は3.11前の発想であり、エネ供給が潤沢な時代の単一的な価値基準だった。一方で、首都圏大地震や南海トラフ地震も想定されて安全性確保に懸念が残る中、本当に国家100年の計に値する事業なのかどうか。中間駅が設置される地域への経済効果も試算されているが、今の新幹線沿線では在来線時代に比べてかえって地域が疲弊した事例も指摘されている。経済効果をいうならば、国際的にも極めて高い水準といわれるJRの運賃こそ引き下げた方が内需拡大に貢献するだろう。



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