今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去244〜259 回までの今月のキーワード]


創刊にあたって
 ◇ 時代を映す鏡の役割に全力 ◇
2010/09/30(Thu) 文:(水)

 国民の多くの期待を担って民主党政権が発足しておよそ1年が過ぎ、9月17 日には菅直人首相の下で改造内閣がスタートしました。なんの因縁か、週刊「エネルギーと環境」の姉妹誌として、再生エネルギーの動向をくまなくウォッチする「時報PV+」も時を同じくして船出しました。
 創刊の動機の一つは、民主党政権の象徴ともいうべき日本が掲げた「温室効果ガス2020 年25%削減」の行く末を見届けることにあります。25%削減目標を実現すれば、もちろん国民の暮らしがそれだけでハッピーになるわけではありませんが、今の経済社会の姿が革命的に変化するのは間違いないでしょう。
 「PV+」がテーマとします太陽光・太陽熱・風力など再生可能エネルギーの導入・拡大はその25%削減方策の大黒柱であり、これから展開される政策と技術革新が失敗すれば世界から取り残されるでしょう。しかし、次期首相を決める先の民主党代表選では、政府と経済界で是非論が続く排出量取引制度や新エネルギーの買取制度などは、論争にもなりませんでした。国民に大きな負担を課すテーマにもかかわらずその説明をしようとしないのは、あまりに政治の無責任というほかありません。
 「PV+」は単に太陽・風・水などがもたらすエネルギーを電気と熱に変換する産業・技術・制度・市場の動向をキャッチ・報道することに留まるのではなく、もう一つの役割として時の政治・行政・経済・社会の変遷を公正に映し出す「鏡」の役割を果たしていきたいと思っております。同時に、そうしたプレーヤーの息遣いが聞こえてくるような誌面に致したく、関係者の皆様の叱咤激励とご支援をよろしくお願いいたします。
 
 「時報PV+」編集長 清水 文雄

参考リンク:http://www.enekan.net/image/kusakawa-giin-shukuji.pdf


年頭に際して、民主党政権運営への期待と課題を考える
 ◇ 2010年年頭所感 ◇
2010/01/06(Wed) 文:(水)

 2010年という節目の年。明けましておめでとうございます。
 「エネルギーと環境」は本年も公正中立、読みごたえのある専門情報誌として決意新たにスタートしますので、変わらぬご支援をお願いいたします。

 主要各紙の元旦一面トップ記事は、「財務省と組む『脱官僚』路線選択、ガバナンス国を動かす、第一部政と官(1)」(毎日)、「眠る力引き出す、ニッポン復活の10年(1)」(日経)、「動く世界と共に、地域の支えはアフガン医師、日本前へ(1)」(朝日)、「小沢氏から現金4億円、土地代の相談後」(読売)などで、企画記事あり特ネタ的な社会記事ありで、多様な紙面でした。元旦のトップ記事は新聞各社もことのほか力を入れるので、過去から未来への社会を映す鏡とも言われており、確かにそうした予兆を感じさせるに十分な切り口だったと思います。

 さて、連立民主党政権はハネムーン期間といわれた100日間が過ぎ、新しい年の出発とともに、まさにその真価がきびしく問われることになりそうです。そこで政権運営の中で極めて重視され、かつ弊誌も主要テーマの「環境政策」の展開を中心にこれまでの政権運営の課題と問題点を指摘しておきたい。

 (1)政権前の公約と政権後の公約実現の違いを明確にすべき
年末の予算編成や税制改正作業では、公約実現と現実の財政危機のはざまで右往左往する姿が垣間見られた。選挙前のいわば人気取りと支持拡大を目的に策定したマニフェストと、現実に政権内の様々なしがらみを踏まえた公約実現とは全く性格が異なるのは当たり前の話し。そのことは、昨年の主要紙による世論調査結果を見ても明白で国民の方がよく理解しており、むしろ民主党の対応の仕方がお粗末だったと言えよう。まずはその違いを丁寧に国民に説明すべきであり、公約実現の優先順位と工程表の整理が先決。

 (2)政策決定のプロセスを充分に明らかにすべき
 鳩山政権が昨年世界を引っ張るとして打ち出した温室効果ガス25%削減の中期目標は、COP15が最低限の政治合意にとどまったことで、日本の意欲的な世界トップレベル目標も空振り気味だ。民主党の環境問題第一人者である福山哲郎議員(現外務副大臣)とジャーナリスト仲間との内輪の勉強会があった昨年12月、この25%削減目標の根拠と理由を問われた際に、「選挙公約として明確に掲げたから」「IPCC報告の科学的知見として提示されている」という見解が示された。しかし、それ以上の具体的な根拠等の説明はなく、鳩山政権の25%削減方針も推して知るべしで、十分な国民的議論とそのメリット・デメリットを踏まえた合意形成がなされておらず、政策決定のプロセスもまだ明らかにされていない。
 この環境問題に限らず、これまでの政権運営では政策決定プロセスがどんな認識と物差しで決められたのか不透明そのものであり、積極的な情報公開もない。政策決定ではその前に必ず案件が政務三役会議にかけられ、そこでの議論を経て方針が決まるが、これもブラックボックスの世界となっている。 
 そもそも政務三役が全プロセスを熟知した上ですべてを取り仕切り、マスコミ対応までこなすという役割自体に物理的・能力的限界があるわけで、まずそこから改める必要がある。このままでは、審議会方式(業界の利益代表らの議論という側面が強すぎたが)や官僚への役割分担、与党の独自性を認めていた自民党政権の方が、政策決定プロセスの透明度がましだったということになりかねない。

 (3)短慮な発想の官僚組織への切り込み
 民主党政権の一部では事務次官の廃止をはじめ官僚の人事機構の見直しを検討中という。しかし、これも現行の官僚機構は「悪しきもの」という偏見ありきの中で生まれてきた短慮としか思えない。そういう面が全くないとはいわないが、これまでの政治のだらしなさに比べれば、まだここには日本を支えうる組織力と人的資源が存在する。
 特に、事務次官の廃止という考え方は、ある意味で自己犠牲も強いる官僚のピラミッド型世界の否定であり、それを失うことの混乱と再構築するエネルギーを考えれば、官僚との協働と新たな発想による活用に腐心すべきではないか。省内の人事権を一手に握る事務次官を新政権の政策展開のためにどう充分に活用するかにこそ知恵を出すべきだろう。

 (4)極めて不十分な説明責任とマスコミへの対応
 昨年末の予算編成作業と税制改正では、道路財源の暫定税率廃止や温暖化対策税導入などの最終決定で漂流を続け、最後は小沢一郎幹事長による裁断でことがようやく決まり、年内編成が間に合った。しかし、この幹事長裁断のペーパーはA4三枚で問答無用を思わせる結論しか書いていないものだった。しかもその中には、当初方針が大きく変わったものも多いが、その変わった経緯や理由などまったく説明されなかった。となると、何日間も議論された政府税制調査会などの審議はいったい何だったのか。これでは必死の努力をしてきた利害関係者も浮かばれないし、組織にどんな説明をしたらと路頭に迷う。とても民主主義の政治とは思えない。これら事例だけではなく、おしなべて新政権はショー的な事業仕分けのようなやり方には熱心だが、政権運営の全体的な透明性は極めて低い。
 また、マスコミへの対応や説明も不十分そのものだ。大臣や政務三役が超多忙ということもあるが、予定時間を30分遅れて会見時間が10分15分という例もざらにあり、その説明も厚みのあるものではなく、旧政権時代のマスコミ対応の方がレベルは高かった。これでは、マスコミを単なる「情報の運び屋」としか見ていないのではないか。

    ◇          ◇         ◇
 いろいろ民主党政権運営の問題点を書いてきたが、要は国民の利益と共通認識醸成に繋がる政治と行政を心がけて欲しいということである。そのためには現在ある日本の組織、人的資源、経済の仕組み、財政力などを最大限に活用できる体制と仕組みを1日も早く構築すべきであろう。
国民が民主党政権を選択したのは、民主党という政党組織のさらなる拡大を望んだからではなく、少しでもましな国にして欲しいと期待したからではないのか。

                                                    2010年1月  編集発行人   清水 文雄



温暖化対策アセスメントの必要性と米国への対応
 ◇ ポスト京都中期目標の策定で必要な日本の独自性は ◇
2009/04/30(Thu) 文:(水)

今年12月に決定する予定の温暖化対策次期国際枠組みに関して、最大の争点になっている各国の温室効果ガス(CO2等)の中期削減目標(2020年頃)策定内容が注目されている。日本は首相官邸に設置された「地球温暖化問題に関する懇談会」(座長;奥田碩トヨタ自動車取締役相談役)が六つの削減目標案をまとめ、パブリックコメントを実施中で、国民意見を踏まえて麻生太郎首相が6月までに決定する。

六つの案は、1990年の日本のCO2等総排出量に対して2020年に「+4%、+1〜−5%、−7%、−8〜−17%、−15%、−25%」削減というもので、きびしい数値を採用するほど経済成長に打撃を与え、国民負担も大きくなりその「覚悟」のほどを問うている。削減を裏付ける対策も省エネ型の電化製品や自動車への大幅な転換と買い換え、省エネ住宅普及、太陽光発電など新エネの加速的拡大などだ。しかし、これら大量の耐久消費財等の新規導入や買換えによるCO2等の排出バランスや使用されるエネルギー、資源利用の効率性には一切触れられていない。

かつて日本は経済成長一辺倒が作り出した「大量生産、大量消費、大量廃棄」が廃棄物の不法投棄や最終処分の問題を引き起こし、資源の非効率的利用が蔓延し物が巷に溢れかえるという時代を経験したことがある。「省エネ型製品」への買換えやリサイクルの徹底とはいうものの、今後10年という短期間に物のストックとフローを劇的に転換するやり方が「低炭素社会づくり」に適っているのか、廃棄物の最終処分場の寿命があと5〜6年といわれている問題も含めて、是非とも「戦略(計画)アセスメント」を実施して欲しい。戦略アセスの必要性は政府が数年前から自らその必要性を提起し、検討中であればなおさらのことであろう。


温暖化対策の中期目標設定を巡る国際交渉で、もう一つ提起したい問題は、腫れ物に触るような対応に終始している米国への対応である。承知のように米国は現行の京都議定書を途中で離脱、今回の中期目標交渉でも離脱後に排出量が大幅に増加している実態もあって2020年に90年比横ばいというあまい目標を提示している。

本来ならば、世界一の排出量でありながら勝手に離脱して排出削減を果たさなかった米国に対しては相応のペナルティ論があって当然のはず。しかし、日本をはじめ先進諸国は、米国のご機嫌を損ねて次期枠組みに不参加となっては困るという思いが強く、きびしい要求を示していない。特に日本の政府や産業界は、乾いた雑巾を絞るような省エネ対策の実行と海外に1兆円以上にものぼるCDMクレジット費用を支払う状況にありながら、米国に対する主張を遠慮している。

政府は今回の中期目標の設定で、国民に経済的負担などの「覚悟」を問うならば、米国のような“ゴネ得”に対する強い姿勢と、削減対策をまじめに実行してきた日本のような「正直者が馬鹿をみる」ことのないように、毅然とした対処方針を示す責任があるのではなかろうか。日本政府の主張する「各国間の公平性確保」という面からも重要なはずである。



新年の雑感
 ◇ 激動の流れを社会変革のチャンスに ◇
2009/01/07(Wed) 文:(水)

明けましておめでとうございます。今年こそ良い年でありますように、と願わずにはいられない幕開けです。

○昨年このコーナーは開店休業中のようにサボっておりましたが、今年は心を入れ替えてホットな話題や水面下の動き、時には建設的な主張もしていきたいと考えております。従来は「今月のキーワード」として、エネルギーと環境問題に関する新たな動向などを取り上げてきましたが,今後はあまり構えないで片意地を張らないソフトな読者諸兄姉との交流の場にしたいと考えております。

○昨年の7月31日、「エネルギーと環境」は2000号を突破、この新年号は2021号となっています。読売や朝日などの日刊大手紙はすでに30000号を突破している例も多いのですが、週刊専門誌の場合はその時代の経済社会情勢に影響されて意外と廃休刊が多く、長続きが困難です。

創刊は1968年(昭和43年)でその時のテーマが「具体化してきたSO2の環境基準値」。今年の新年号記事は地球温暖化問題や太陽光発電、省エネルギーの規制強化に関する記事となっており、40年という時の流れを感じます。

2000号突破記念のパーティを昨年12月、東京麹町で行い、国会議員・中央官庁・自治体関係者、企業や大学、NGOやマスコミ関係者などが全国から駆けつけてくれました。一番嬉しかったのは、大分県佐賀の関から来てくれて、「エネルギージャーナル社の報道支援もあって石油コンビナート立地のための埋立て計画が中止となって自然の海岸線が残り、今ではその沿岸に海亀が来るようになった」と、挨拶してくれたことでした。右であろうと左であろうと、社会的な存在の意義を認めてもらえることは嬉しい限りです。

○今年は文字通り「激動の1年」となります。2008年度第二次補正や2009年度本予算、そして不可欠な関連予算法の攻防でほぼ間違いなく総選挙になだれ込み、与野党勢力の逆転現象も十分現実化する可能性があります。すでに霞ヶ関はそうした事態を予測して、民主党とのバイプを太くするための"対応"に腐心しています。むしろ、遅れているのは経済界や産業界の方でしょう。

どうやら今年のキーワードは「環境経済社会への変革と構築」となりそうです。未曾有の経済危機となっている今の状況を「環境ビジネス」や「資源循環を行う静脈産業」、そして新エネルギーや蓄電池技術などを導入して内需拡大しようというもので、環境省や経済産業省がすでに動き出しています。

○今月20日に民主党を与党として正式発足する米国オバマ新政権が「グリーンニューディール構想」を打ち出し、百万人にのぼる新規雇用や環境産業による需要拡大を政策の柱にしようとしています。今年12月にはコペンハーゲンでCOP15が開催され、先進国において一人削減義務を果たしていない米国がその軌道修正を行うための前触れとも見えますが、米国はダイナミックな新経済政策を指向し始めています。

日本もこれに刺激され、上述の対応となっていますが、この機会に米国の猿真似ではない独自の社会経済構造改革を具体化すべきです。例えば、昨年あれだけ大騒ぎして法律改正や使途に関する閣議決定までした道路特定財源の廃止も結局はほとんど何も変わらず、依然として道路整備に向けられます。これをすでに始まっている少子高齢化社会の礎となるような地域の新しい公共交通システムの整備や自動車依存型(高齢者は車に乗れなくなるし、地域社会の荒廃が進行中)からの脱却など、やるべきことは五万とあります。

環境行政は国民に耳障りのよい「なんとかエコ」に精出すだけではなく、こうした社会の構造改革に本腰を入れて欲しいものです。 (編集長 清水文雄)

(なお、年頭挨拶のところで恐縮ですが、昨年12月に弊社で「バイオマス読本2008〜2009」を刊行しました。世にもてはやされているバイオマスですが、その本当の実力と温暖化対策などが今後どうなるかを考える、よき"相棒"となると思いますので、是非そばに置いてください。)

参考リンク:http://www.enekan.net/image/biomass2008-2009.pdf


2008年のメッセージ/日本発、「国境なき地球環境防衛隊」の創設を!
 ◇ ◇水の確保、廃棄物、省エネや大気汚染などの診断と対策実行◇ ◇
2008/01/04(Fri) 文:(水)

 2008年明けましておめでとうございます。今年も、エネルギーと環境のテーマを大マスコミとは一味違った独自の視点から、専門誌らしく中身の濃い誌面づくりに精一杯努力しますので宜しくお願い致します。

 〇なんといっても今年最大の話題はG8サミットが7月に北海道・洞爺湖で開催され、昨年12月インドネシア・バリ島で採択されたポスト京都議定書の「ロードマップ」が、主要国首脳の後押しで具体的に進展させる方向になるのかどうか。その時点で、日本は誰が総理大臣として調整役を果たすことになるのか見通しの難しい政冶状況だが、国際社会の期待を一身に背負うことになるのは間違いない。

 〇ポスト京都の枠組みづくりでは、米国と中国をはじめとする途上国をどんな形で引き込むのかが最大のポイントです。ただ、米国は次期大統領選を目前にしており、残務処理ブッシュ政権の様相が強まり、大きな政冶決断が出来ないと思われ、となると途上国の実質参画にどのような道筋を日本がつけられるかが問われることになる。日本は昨年のG8サミットで、途上国向けに「志の高い途上国支援のための新たな資金メカニズムの設置」を約束しているが、まだその中身は検討中だ。

 〇しかし、この新たな資金メカニズムの設置も、旧態依然のカネの力により日本の存在感を示すという域をでていない。最近のわが国の抜き差しならない財政状況をみれば、どれだけ長続きできるかまた国民から多くの支持を得られるのかどうか。そこで提案である。例えば、日本の優秀な技術力と豊富な余剰人材を途上国の環境汚染や生活環境悪化の解決に振り向ける「国境なき地球環境防衛隊」を組織し、今後5年間開発途上国や国連や国際組織等の依頼に応じて、環境問題を診断し対策を実行するシステムを作ったらどうか。すでにこうした先例は世界にあり、キューバは数年前から「国境なき医師団」を政府自ら編成し、医療水準の極めて低い近隣諸国などに派遣、その見返りに自国には乏しい石油や食料品などを輸入したり、外貨獲得の手段にしているという。何よりも、その国の不安な人々に安心感を与え大変喜ばれているようだ。

 〇環境省は地球温暖化で水没の危機に瀕している南太平洋の小島嶼国・ツバルに専門家を派遣し、侵食を防ぐための堤防工事の指導や飲料水の供給、廃棄物の処理対策などを具体化するという。また、来年度はかつて日本が公害列島化した際に活躍した団塊世代の技術とノーハウを、こうした国々に役立てる「国境なき環境調査・協力団」の構想を検討中だ。
 しかし、そのための予算計上がたったの1000万円にすぎず、思いつき程度の施策としか思えない。日本が環境の世紀である国際貢献として本気にやるならば、100億円位の予算を用意して、一省庁の枠にとらわれない、かつ一時の大臣の手柄話しにするのではなく、中長期的な国益も追求した大胆な政策として展開して欲しい。7月の洞爺湖サミットでは、日本発として国際社会にこうした斬新な計画を是非発信してもらいたいものである。



偽メール事件に現れた民主党の体質、質問準備にカネと手間をかけよ
 ◇ イチローの「さめた人間」発言に学ぶべきではないか ◇
2006/03/23(Thu) 文:(水)

 〇野球の世界一を決めるWBCで、王監督率いる日本チームが強豪のキューバを10−6で破り、よもやの優勝、世界一に輝いた。決勝進出までは試合の流れが悪く、その上、米国審判のズル(ミスジャッジ)などがあって、ストレスのたまっていた我々日本人にとってはまさに溜飲を下げた。イチロー選手による日本チームを鼓舞するための悪役ぶりも見事だった。イチローが残したコメントで特に印象的だったのが、日本のプロ野球が大リーグに学ぶべき点を問われた記者に、「さめた人間がいないこと」と答えた点だ。
 そこで連想したのが、「偽メール事件」で、まだ進退をぐずぐずしている民主党の永田寿康衆議院議員の問題。功名心が先にたったのか、十分な裏づけもしないまま薄っぺらなネタに跳びつき、最終的には謝罪広告まで出した不始末は、イチローの語った「さめた人間」が民主党執行部にはおらず、ただネタの大きさに有頂天になってしまった愚かな状況を物語っている。

 〇今回のWBC大会で言えば、出場した米国やキューバは横綱級であり、それを突破して優勝するのは、容易なことではない。国会質問に例えれば、政府自民党はあらゆる権力機構を持つ政治の世界の横綱であり、予算委員会の質疑にしても、一つぐらいのたまたまのネタで馬脚を現すほど、ヤワではない。
 鋭いかつ政府が立ち往生するような質問は、それこそ手間隙と労力そして十分なカネを事前にかけなければ生まれてくるはずがなく、永田議員の質問はガセネタというよりも、そうした周到な準備がまったく見えなかった。

 〇「偽メール事件」は永田議員の軽率さもさることながら、民主党という組織の体質と構造に問題があると見るべきだろう。それは野党として最大の武器であるはずの国会質問に十分なコストと時間をかけずに、大半が付け焼刃の勉強程度で、しかも事案の問題点すら、政府関係者やマスコミ等に教えてもらうような実態では、最大野党としての資質を疑わざるを得ない。
 一方で、国会議員には等しく立法準備費や国政調査の名目で月額約150万円以上が支払われているという。それでいて、質問のために普段の情報収集や勉強にカネと時間を十分にかけているという話を聞いたことがない。

 〇かつての社会党時代に、カミソリのように頭が切れると言われた石橋正嗣氏と爆弾質問男と怖れられた楢崎弥之助氏という二人の論客がいた。その二人が予算委員会で質問するときは、今度は一体なにが飛び出してくるか、与野党超えてある種の楽しみと緊張感があったし、マスコミも周到な事前取材を余儀なくされた。その石橋氏が、公害問題関連で独自ネタでの質問を予算委員会で行った時、事前に想定していなかった当時の通産省の課長が答弁資料を片手に役所から全速力で国会に走ったというエピソードがあるくらい真剣そのものだった。

 〇しかも質問は多くの場合、半年くらい前からチームを組んで勉強や調査をするのは当たり前、また議員自ら現地調査や料亭のおかみさんにまで聞き歩くことも珍しくなかったようだ。そうした熱心さや真剣さが人々を動かし協力者も次第に出てくる訳で、永田議員のようなメール一枚をただかざしただけとは訳が違う。しかも、民主党は調査や情報収集などにカネをかけないだけではなく、協力者などを使い捨てにすることが多いという。
 今回の不始末を永田議員だけの問題に終わらせるのではなく、是非ともイチローが言った「さめた人間」として党の関係者は見るべきであり、党組織の体質改善に向けた大きな糧にして欲しいものである。



記録的な大雪に見舞われて2006年が幕開け
 ◇ 雪国の電源地域で温排水利用ができないものか ◇
2006/01/11(Wed) 文:(水)

 〇明けましておめでとうございます。「エネ環」の編集陣は今年も張り切って 独自の視点と切り口で斬新な記事を読者の皆様にお届けします。この1年間よろしくお願い致します。また、記事づくりのヒントや参考情報、さらには新しい読者などを紹介いただくと大変光栄です。
 この年末年始は、地球温暖化と言われているのに、日本列島の裏日本を中心に何十年ぶりという大雪に見舞われ、大変な思いをした方も多かったのではないでしょうか。

 〇特に、昨年12月22日〜23日に発生した大雪による新潟地方の広域停電は、ことのほか大変だったようです。県都の新潟市を中心に最大約65万戸が雪の重みによる送電線のたわみショート、さらに絶縁体の役割を持つ碍子が吹雪で運ばれた海の塩分の影響で機能不全となり、大規模な供給支障に発展したということです。猛吹雪と感電死の危険、さらには高いところで厳寒下の復旧作業を行った東北電力の関係者には頭が下がりますますが、一方で電気にあまりに多く依存する脆さも見せつけてくれたようです。

 〇停電になると、食事はおろか上下水も止まり暖をとることも不可能となり 生活そのものが成り立ちません。最近は民生分野においても、電気・都市ガス・石油・LPG間の市場競争が激しくなって、オール電化住宅などが相当のシェアを獲得していますが、本当に単一のエネルギーに頼るのがよいのかどうか、もっと広い視点から議論すべきと思います。例えば、こんな話しがあります。アラブ諸国から憎悪の標的となったイスラエルは、いつでも戦時体制を維持するため送電ネットワークが必要な大規模な発電所建設よりも、10数年前はまだ非常に高価だったのですが、戸別に設置できる太陽光発電の設置を奨励・支援し、いざという時に備えたようです。今では、日本が太陽光発電の設置数は世界のトップですが、当時は大変な普及台数になったということです。様々な災害の多い無資源国・日本にとっては考えさせられる話です。

 〇もう一つ雪の被害で考えさせられたことがありました。新潟県は日本でも 有数の電力の供給県であり、県内に東京電力の柏崎刈羽原発や東北電力の東新潟火力など大規模な電源地帯を抱えています。にも拘わらず広域停電になったため、地元からは強い不満が出ているようですが、地域への貢献という観点から、例えばこれら発電所から毎日出る膨大な量の温排水を融雪や除雪に活用できないものだろうか。温排水はもともと折角のエネルギーをただ捨てているだけに加えて、そこから発生する水蒸気は温室効果係数が高い物質といわれており、それを逆に有効活用できるメリットがあるはずです。新潟県や青森県などの豪雪地域では、大変な雪下ろしに悲鳴をあげ、これら自治体は数億〜数十億円の除雪費用が底をつきはじめたというニュースも出ています。この機会に是非ご検討のほどを。



行く年・来る年に日本の憂いと希望
 ◇ 小泉チルドレンらに国政の向かう先委ねられるか ◇
2005/12/15(Thu) 文:(水)

 〇来年2月にイタリア・トリノで冬季オリンピックが4年ぶりに開催されることもあり、ウインタースポーツ花盛りのシーズンを迎えている。なかでもスピードスケートはその花形で、女子500m競争で驚異的な復活を遂げつつある岡崎朋美選手の活躍に大変期待している。彼女は7年前の長野五輪で銅メダルに輝いた。その後は若手の有望選手に押され、泣かず飛ばずの選手生活だったが、過酷なスピードスケート競技では珍しく34歳という年齢ながら、再び脚光を浴びる存在に復調した。
 何よりも競技が終わった後のあの笑顔がすばらしい。おそらく、一流の選手としての寿命を維持することの艱難辛苦は想像を絶するものがあったと思うのだが、そんな様子は微塵も感じさせない。

 〇12月は政冶・行政の世界も慌しい。恒例の来年度予算編成や税制見直しに加え、今年はエネルギーと環境分野でも特別会計制度改革、環境税導入問題、アスベスト被害者対策など重要政策課題が目白押しの状況だ。しかし、今年は9月の総選挙で政界地図が激変したことから、永田町や霞ヶ関の意志決定プロセスがこれまでと大きく変わっているという。いわゆる族議員による影響力行使型から、総選挙で当選した新人議員80余名の小泉チルドレンと呼ばれる「新勢力」が、これまでの族議員らのパワーを大きく薄めているという。

 〇しかし、ある省庁の幹部の話しによると、小泉チルドレン議員のほとんどは国政上重要な課題についての識見もなく、基礎的な知識や責任感も薄く国会議員としての品位と資質に欠けるような「先生」が圧倒的という。各省庁は少しでも自らの影響力を高めるため、抱えている政策課題についてこぞってレクチャーに歩いたが、大半の議員の理解と反応が鈍くがっかりしたようだ。現に、自民党内では特別会計の見直しや税制改正、さらには昨年から激しい対立となっていた環境税導入などいずれについても、80余名の議員が積極的に関わって議論を展開したという話しはまったく聞こえてこない。
 とはいっても、議案の決定や省庁が示す施策課題に対する方向付けをまとめる意味では、この80余名の数がことのほか大きい。それら議員が「ただ今勉強中」や「研修中」としながら、議案の採決や政党の方針を結果的に左右する構造が一般化するのであれば、国政の形骸化がますます進むことになる。行政で長年苦労してきたプロがほとんど何も分っていないこうした素人集団に御せられるというのも、何とも皮肉な話しではある。

 〇だいたい一般庶民から見ればはるかに高い歳費による報酬を得ながら、国会議員になって勉強中とか研修中ということ自体がおかしい。最低限の常識や知見の習得は議員になる前にやっておくべきであろう。暴論をいうならば、国会議員にも高い方の年齢制限を議論するだけでなく低い方の年齢制限や最低限の資質規定を設けたらどうか。
 冒頭の岡崎朋美選手の話しに戻れば、彼女が10年以上も名実ともに一流選手を維持しているそのプライドと、毎日毎日の血の滲むような努力の爪のあかでも小泉チルドレンには煎じて欲しいものである。日本のこれからの運命を担っているという知力と行動を早く示してもらいたい。よいお年を。



衆院選挙でこそ、環境税などの環境政策を問うべきでないか
 ◇ 「刺客」騒ぎは面白いが大事な争点を隠す効果 ◇
2005/09/08(Thu) 文:(水)

 〇小泉首相が「郵政民営化」という個別テーマを国民に問うた衆議院総選挙も間もなくその結果が出る。こうした特定のテーマの是非を第一の争点にした解散総選挙は、極めて異例といわれる。勝手な予想だが、おそらく小泉自民党は解散前の議席を相当上回る勝利を収めるだろう。それは、郵政民営化を国民の多数が望んだ結果ではなく、小泉政冶というやや乱暴ながらもこの閉塞感の著しい日本社会をなんとか変革してくれるのではないか、という期待票と思われる。つまり、リスクを冒してでもやる気のある指導者に国民は賭けたのかもしれない。

 〇その小泉首相は郵政民営化に反対した自民党議員を公認しなかったばかりか、当該選挙区に賛成派の対立候補すなわち「刺客」を躊躇なく立てるという劇場型の話題つくりを行い、マスコミの注目を一気にひきつけた。これで、あの橋本派による1億円受領事件という「政冶とカネ」の問題や、明らかに失点と思われた北朝鮮による拉致問題の停滞もどこかに飛んでしまった。

 〇「刺客」の先導役と主人公を務めたのは、意外にも小池百合子環境相で近畿の比例区から転出、郵政民営化反対派の東京10区で立候補している小林興起前議員の対立候補にあてたのは読者諸兄姉ご承知の通りである。おそらく、この選挙戦も小池環境相が圧勝するだろう。その理由は、表向きかどうかは別として、やはりリスクを冒しても「改革」を進める旗手というイメージが選挙民の心を強く捉えたからである。

 〇この「小池vs小林」にはもう一つの因縁対決が潜んでいる。小池氏は環境大臣に就任以来、環境税の導入・創設を最大のテーマとして機会あるごとにその実現を訴えてきた。また、地球温暖化の進行を食い止めるための経済政策の軌道修正や環境政策の強化を指摘するとともに、最近ではアスベスト被害問題についても、早急な取り組みの必要性を主張していた。
 対して、小林氏は旧通産省から政界入りしその後商工畑を長く歩いた有力者であり、国際通でもある。いわば、環境省対経済産業省の番外編という様相だが、当の両氏はそうした政策論争を一向にする気配がない。特に小池氏の場合は、環境税という国民に新たな負担を課す税制を自ら主導してきただけに、そうしたことを選挙に際してほとんど示さないというのはおかしい。
 環境問題は、選挙では争点にはなりにくいといわれるが、近年の環境政策は経済優先主義をどうするか、道路づくりにほとんど予算が回される道路特別会計制度をどうするかなど、経済や財政政策と競合するテーマが多い。
 「刺客」は、対立候補を倒すだけではなく、大きな歴史の変革を阻害する相手にも、立ち向かって欲しいものである。



「もったいない」と相反する新たな政府の温暖化対策
 ◇ どうしても解せない「耐久消費財買い換えのすすめ」 ◇
2005/04/25(Mon) 文:(水)

 ○今月下旬にも、約1年以上にわたって政府が検討してきた新たなわが国の地球温暖化対策が「京都議定書目標達成計画」として閣議決定する。その中身は、端的に言えば、地球温暖化を促進させる原因物質のCO2等排出量を、1990年比に対して2010年までに現状よりも13.6%削減する様々な対策と施策を決めるもの。対策と施策は産業、民生・業務、運輸の各部門に広範にわたっており、今後の産業活動や生活全般への影響が少なくない。
大きな争点だった環境税の導入措置は、昨年の議論よりやや後退した様相だが、達成計画には例えばハイブリッドや天然ガス方式などクリーン自動車への買い換え転換計約260万台、高効率給湯器の普及約520万台、省エ型ネルギー家電製品(エアコン、テレビ、冷蔵庫など16種)への買い換え促進強化など、その多くが耐久設備や機器の買い換えを促す対応策となっている。

 ○ちょうど、上記の達成計画づくりの調整中に、ケニアの環境副大臣だったワンガリー・マータイさんが2004年のノーベル平和賞を受賞、日本にもこの3月に来て、各地で講演し、長年続けてきた植樹など環境問題の重要性を強く訴えた。その彼女の環境問題に対する謳い文句が「もったいない」という考え方の提唱であり、小池百合子環境大臣や小泉純一郎首相もそうしたポリシーに共鳴、支持していた。
 誰が、そうした考え方を授けたのかは明らかではないが、この「もったいない」思想は、古くからわが国では生活の知恵として、また環境問題のためという意識が特になくても、自然や資源との共存関係を大切にしながら経済活動や日常生活を過ごす一種の自律的なモラルであった。今の若年層は別として、少なくとも50代以上の大半の人は、それが身体の一部に染みついた当たり前の行いと認識していたが、マスコミはこぞって大々的に取り上げていた。

 ○ところが、環境省をはじめ政府の上記達成計画は、古くなったエネルギー効率の悪い家電製品等を最新型の省エネルギー製品に早く買い替えることを最大の奨励策としており、そのための補助制度も導入する仕組みになっている。まさに、物を大切に使いできるだけ長持ちさせるという「もったいない」思想とはまったく逆の方策を打ち出している。これはおそらく、地球温暖化対策が物の生産や販売などの経済活動に悪影響を及ぼさないため、という理屈と思われるが、きのうまでそれらを大事大事に使ってきた、特にお年寄りや買い替え資金のない人達は多分戸惑うばかりだろう。人為的に物の買い替えを急速に行えば、リサイクルや廃棄物も急増するはずである。

 ○近年の環境問題対応では、こうした跛行的な政策が目立つ。政策当局者は恐らく現在の生活の質のレベルを落とさずに環境政策を推進するという認識だろうが、それはないものねだりを追っかけているようなものだ。もう少し深みのある政策、そして国民全体が率直に肯定できる一つの方針の押し付けではない、複数の選択肢を提示してほしいものである。



京都議定書の発効を新しい価値創造の契機に
 ◇ 市場競争万能主義の軌道修正が可能か ◇
2005/02/18(Fri) 文:(水)

 ○地球の温暖化防止を世界規模で推進する気候変動枠組み条約の京都議定書が、国連本部のある事務局の現地時間の2月16日午前0時に発効した。発効を記念した様々なイベントが各地で開催されているが、小池百合子環境大臣も出席した京都市の会場には小泉首相をはじめ、各国首脳等から今後の取り組みへの強いメーセージが寄せられた。わが国の都市名を冠した初の国際条約といわれる「京都議定書」は、1997年の12月11日に採択されたが、その日に国際合意するまで各国の対立がきびしくことのほか難産だった。
 当時、筆者もその会場にいたが、最後の最後までCO2等の各国削減目標などを巡って交渉が難航、予定された会期内に終わらず、最終日は徹夜となって会議が了したのは翌日の朝10時過ぎになっていた。途中、国連事務局が派遣していた通訳者は契約時間が切れたことや、予約していたフライト時間に間に合わないとして、帰ってしまうというハプニングもあった。

 ○京都議定書の発効の意義やその重要性、そして日本にも適用されたCO2等削減目標の達成の困難さなどについては、すでに多くのメディアが大々的に特集しており、読者諸兄姉も食傷気味と思うので、いずれ次の機会にとりあげたい。ただ、それらの中で印象に残った一つに、環境税を検討している政府税政調査会の石弘光会長が「京都議定書の順守は痛みを伴う。テレビ番組を見たいだけみてマイカーも使い放題。そんな生活を続けていては温暖化防止はできない。(中略)税や排出枠が嫌なら、温水洗淨便座を禁止するなど生活スタイルを強制的に規制するしかない。それは不可能だと思うが」(2月13日付け読売新聞朝刊)との指摘があった。
 石会長の認識は、昨年から争点になっている環境税の導入是非を意識したものと見られるが、極めて温暖化問題の本質を衝いているように思われる。

 ○政府は議定書の発効を踏まえ、現行の地球温暖化対策推進大綱を強化・昇格させ、法律上の「京都議定書目標達成計画」とする作業を進めているが、そこで提示されている対処方針の基本方針をみると、石会長の指摘する「国民に痛みを求める」という方向ではなく(環境税の導入だけが“痛み”にあらず)、我々が現在どっぷり浸かっている便利で豊かな生活や、基本的に市場経済に支障を及ぼさないことを前提にしている。素朴な疑問を提示すれば、トップランナー基準を達成した自動車や家電機器等が既存のものから代替されたとしても、いったいそこから出てくる膨大な廃棄物の処理処分は大丈夫なのか。車を一家に2台以上も所有することが当たり前になりつつある状況に何らのペナルティもなしで、本当に運輸部門のCO2総排出量の削減目標を達成できるのか。公共交通へのシフトというが、国際的にも割高といわれる日本の交通料金体系を放置したままで、実現できるのか。燃料電池の開発競争がヒートアップしているが、これを製造する際に要するエネルギー使用や寿命が尽きた時の廃棄物発生を考えた場合、これまでのような大規模拠点供給方式の方が環境面から優れているのではないか、などなどがある。

 ○今後の温暖化対策は現在の市場経済や生活水準を維持しながら、技術的なブレークスルーで対処するのがもっとも効果的である、という考え方が主流になっている。しかし、こうした対処で果たして長期的に必要とされるCO2等排出量を現状の6〜7割程度に削減できるのだろうか。やはり、国民や市場経済にも痛みを伴う社会全体の環境面からの構造改革に踏み出し、それを契機とした新しい時代の「価値観の創造」にトライすべきではなかろうか。



人類にとって未知の挑戦・どこまで社会構造を変革できるか
 ◇ 京都議定書の発効はあらゆる経済活動にインパクト ◇
2005/01/05(Wed) 文:(水)

 21世紀に入って5年目の新しい年が開けました。まずは読者の皆様、明けましておめでとうございます。「週刊エネルギーと環境」はこの専門誌を創刊して以来37年目になりますが、今年も精一杯話題性のある記事づくりに邁進しますので、皆様からも遠慮なく材料やヒントをご提供ください。1年間よろしくお願い致します。

 ○今年のエネルギーと環境問題の話題は、何と言っても2月16日に発効する気候変動枠組み条約の京都議定書です。国際条約として採択されたのが1992年のいわゆる「地球サミット」ですから、批准した各国に温室効果ガス(CO2等)の義務的な削減規制を適用するのに13年の長い交渉年月を要したことになります。それだけ、この議定書に規定されたCO2等の削減目標が各国の政治・経済活動に与える影響が大きく、いわば地球という共同体を各国の様々な利害を超えて再生できるのか、が試されていく。大げさに言えば、今年は人類がこれまでの現代文明を修正する新たな文明を築くための挑戦が始まる年といえそうです。

 ○昨年暮れには「スマトラ沖地震津波」により、たった2〜3時間の間におよそ10万人以上の人が犠牲者となる空前絶後の痛ましい大惨事が発生しました。日本人の方も被害者になってしまいましたが、津波の発生した海域がよく知られているリゾート地であったせいか、犠牲者はオーストラリア約5000人、スエーデン1000人以上、ニュージーランド700人以上など、まさに地球規模の災害に拡大しています。
 この津波惨事で思い出したのが、元日本学術会議会長の近藤次郎先生が地球温暖化のもたらす自然的影響を比喩的に解説した時に使っていた一枚のスライドです。それは葛飾北斎(?)が昔の東海道道中で今の浜松あたりの海側から富士山を描いた有名な絵ですが、猛々しい大波がひときわ大きく正面にあって、背後に画いている富士山を飲み込むような構図でした。それは地球の温暖化が進んで海面上昇がひどくなるとそうした情景もありうるという近藤先生のわかりやすい指摘でした。

 ○今回のスマトラ沖津波被害は、地球温暖化の現象と直接的な関連性は指摘されていませんが、それにしても近年は異常気象や台風、そして様々な災害など、その規模や「異常」さが極端に大きくなっている気がします。
 それは統計的にも裏付けられているようですが、気候変動の十分な科学的因果関係の究明を待っていたのでは、遅きに失したということになりかねません。京都議定書の発効というこの機会を捉えて、国際社会はもう一度「確実に忍び寄る人類へのリスク」に、どう具体的に対処すべきかを改めて議論する必要があると考えます。

 ○地球温暖化を食い止めるためには、世界のCO2排出量を現在の50〜60%以上削減する必要があり、しかもその効果が現れるまでにはこの先100年以上かかる、と科学者は指摘しています。京都議定書の発効により削減できるCO2排出量は、そのうちのせいぜい数%どまりと言われており、国際的な努力はまだまだスタート台に立ったに過ぎません。
 最終的にCO2等排出量を50%減らすということは、一日のエネルギー使用量を半分に減らして、生活や社会経済活動を行うことを意味しています。おそらく今の現代文明のままでは到底無理でしょう。そこには従来とは全く異なる価値観に基づく社会の構造的変革が必要となります。それにしても、嘆かわしいのは政冶レベルでの温暖化問題に対する認識の低さです。自民党だけではなく、野党の民主党すら従来の価値観の延長でしか政策を打ち出していません。今年は温暖化問題に対する政冶レベルでの底上げをいかに図っていくかも、大事な課題になりそうです。



プロ野球騒動と電力会社による地域への新しい貢献
 ◇ 仙台を本拠地とするプロ球団の進出を好機と捉える ◇
2004/10/13(Wed) 文:(水)

 ○米国の大リーグにおけるイチロー選手の1シーズン最多安打数の世界記録達成や、日本のプロ野球史上初のストライキ実施→仙台を拠点とする新球団の創設など、野球の話題に事欠かない日が続いている。ストライキは9月18日と19日挙行されたが、それへの非難は少なく、逆に選手らを激励するファンが多かったというのは、これまでのプロ野球経営でいかに球団側(経営者)がファンらに信頼されていなかったかを物語っていよう。
 しかも、心情的にはストライキ自体に反感を持つ人が近年は多くなっているのに、リーダー役の古田敦也選手会長らの生真面目さが共感を呼んだのか、おもしろくなくなったプロ野球への危機感が共有されたのか、結果的には意味のあった「抵抗」と理解されたようだ。

 ○球団経営側と選手会の交渉の成果として、一旦は決まりかけたパリーグの来期5球団制が「楽天」あるいは「ライブドア」の新規参入意向によりこれまでと同様の6球団となることが濃厚で、その本拠地を仙台とするための両社による地元への理解活動が展開されている。
 ただ、その交渉をみるとフランチャイズの整備協力とか地元への“お土産”レベルの話しにとどまり、折角のみちのく・プロ球団誕生を地域の娯楽資源、もう少し広げて地域文化の発信や地方活性化の好機にするという取り組みが見られない。直接的な売上と経費の損得勘定に終始しているように見える。せめて、新規参入者と受け入れ側は関係する自治体や地元企業、関係団体、ファンなど一般市民らと議論する「×××協議会」でも発足させて、時間をかけて新しいプロ球団の姿を模索して欲しいものだ。

 ○実はプロ野球と電気事業にはいくつかの共通性がある。一つはどの球団も地域の代表性が強く、対象エリアの大きさの違いはあるもののその顧客は大半が地方(地元)の人々だ。また、東京周辺や大阪周辺にフランチャイズを持つ複数の球団もあるが、それ以外は「地域独占的企業」という共通点もあるし、両者とも公益性を持った企業という点も同類である。さらに、最近は電気事業の自由化路線が進められているが、つい最近まではプロ野球経営陣と同様に新規参入者に排他的だった。
 余談になるが、今回の新規参入で「楽天」側は神戸を本拠地にと当初望んだが、競合することになるオリックス会長の宮内義彦社長は「神戸以外にするなら反対しない」と言ったという。周知のとおり、宮内社長といえば、電力自由化をはじめ長年にわたり政府の規制緩和政策を進めてきた御当人なのに、いざ自らの企業に火の粉がかかると、「圧力」をかけるというのでは二重人格そのものだ。問題があまり大きくならなかったのは、おそらく政冶部記者と運動部記者という畑の違いがあったからか。

 ○仙台を本拠地にしてプロ野球に新規参入しょうという「楽天」と「ライブドア」の競争はまだ決着がついていない。これまでのところタナボタ的出番になった浅野宮城県知事の嬉々とした顔は目立つが、東北地方最大の企業である東北電力は音無しの構えだ。電力会社は来年4月からの自由化拡大に伴う料金引き下げなど、経営の効率化努力でそれどころではないということも分かる。が、東北地方の人々が長年待ちわびていたプロ球団進出という折角の好機なのだから、従来の発想を変えて健全な地方文化や娯楽資源の共有のため、積極的に関与してはどうだろうか。
 これまで電気事業は地方を代表する公益企業でありながら、地域の文化や芸能・芸術、さらには広い意味での地方の風土を高める事業にほとんどカネを使ってこなかったといわれる。最近は企業の社会的責任が国際的にも注目されており、その一方で横並び意識が支配する電力会社どうしの競争化も強く指摘されている。もちろん本業での競争も重要だが、それ以上にこうした文化的な事業などで競い合うことも、それぞれの電力会社が独自性を高めることとなり、それが自らの顧客との普段のコミニュケーションを高め、自由化時代を乗り切る要素になるのではないか。



「熱い」夏の大きな要因は人為的? 問われる都市計画行政
 ◇ 指摘されていた熱汚染問題、いたちごっこで解決見えず ◇
2004/08/05(Thu) 文:(水)

 ○「熱い」夏が続いている。今年7月の熱さは記録破りとかで、わが国の気象観測以来最高を記録し、平均気温が33.1℃となり平年を実に4.1℃上回ったという。7月20日には都心の最高気温が39.5℃、場所によっては軽く40℃を越えたところもあったとみられ、これも観測史上最高だった1994年8月の39.1℃を突破した。本誌にも、北海道の網走に住む読者からは「話のタネに一度でいいから体験してみたい」という声が寄せられた。
 もちろんこの熱さで、電力消費量はうなぎ登りとなっており、久し振りに電力会社の売り上げが大きく伸びそうだ。ただ、この熱さがトラブル隠しにより大半の原子力発電所が止まった昨年だったら、停電という事態に遭遇し、大変なパニックになっていたのではないかと思うと、東京電力にはまだツキがある。

 ○この熱さの要因は何だろうか。異常気象的な要素もあるだろう。それ以上に、世界の年平均気温のもっとも高い温度レベルが1990年代に集中したことに象徴されるように、地球の温暖化が加速しつつあるのかもしれない。異常気象と温暖化は密接な関連性があるというのが有力な説だから、両方による相乗作用なのかもしれない。しかし、これに加えて人為的な要因も極めて大きいといわざるを得ない。大都市に見られる「ヒートアイランド現象」であり、その科学的な警告は約20年前から「熱汚染問題」として提起されていた。
 要するに熱汚染は、都市にこもった熱がコンクリート舗装化や樹木の消失、中高層ビルなどに邪魔されて地中に逃げられないばかりか、空中にも容易に拡散しない現象であり、都市計画や環境対策での無策が引き起こしていると言えよう。

 〇さらに、最近の報道等によると、汐留の再開発で建設された超高層ビルなど東京湾の内岸沿いに林立する建物が東京湾からの浜風を遮る「壁」となり、ヒートアイランドを緩和する空気の流れを阻害していることが明らかになっている。超高層ビルが50年以上持つとすれば、それによって多くの都民がそれだけの期間、熱汚染による我慢を強いられるわけであり、冷房のためのエネルギー消費とそれに伴うCO2排出増も相当なものとなる。
 これだけ地球温暖化問題の重要性が指摘されたきたのに、汐留の高層ビルを設計した建築士等は今回のような問題に全く気がつかなかったのか。あるいは問題意識があったとしても、経済合理性を最優先せざるを得なかったのか。また行政にも責任がある。数年前から規制緩和という名のもとに、建築基準法の容積率大緩和を行い、次々と狭い再開発地域で巨大ビルが登場する素地をつくったからである。

 〇都市づくりやまちづくりにおいては、以前から「風のみち」や「緑」のオープンスペース確保、さらには緑の回廊づくりが欠かせないといわれてきた。国土交通省は今年の通常国会で新たな都市計画行政として、景観保全やみどり3法を制定したばかりだが、現実の都市の姿は温暖化対策とは逆の方向に進み、それが人為的な温室効果をさらに増大させている。いわばいたちごっこである。こうした悪循環を、旧来の都市政策や経済価値のあり様を大転換させることで変えないと、温暖化防止対策はいつまでも有効なものになっていかないと思われる。



2030年目標のエネルギーと環境像・産業益から「地球益」を
 ◇ 原発の役割・天然ガス・分散型エネをどう評価 ◇
2004/03/10(Wed) 文:(水)

 ○経済産業省は昨年12月に着手した「長期エネルギー需給見通し」の検討作業とは別の議論の舞台として、産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会の合同会議による「エネルギー環境政策の長期戦略」検討を立ち上げ、2030年までの政策の方向性を集約する。
 通常は、長期ビジョン的な検討となると、あまり差し障りのない形で需給計画の見通しや技術開発目標などを掲げるパターンが多いが、今回の合同会議作業は様相がやや異なる。長期の2030年目標といっても、自由化が進展した場合の原子力の扱い、地球温暖化問題への対応、天然ガス化シフト、分散型エネルギーの役割評価など、いずれもエネルギー企業における今後の経営方針等に大きく影響するテーマが予定されており、その意味で議論の展開に注目が集まっている。

 ○例えば、地球環境問題では当面は京都議定書の発効時期が焦点となっているが、それに加えて議論の始まっている2013年以降の「第二約束期間」に対するわが国としての方針をどうするかも重要課題。政府関係者の見方では、第二約束期間の温室効果ガス削減目標は2013年からの10年間という形で国際協議がなされる可能性があるとしており、となると合同会議の政策の方向性を審議する時間軸とほとんど重なることになる。
 すでに、第二約束期間問題に日本としてどう対応すべきかの議論は、経済産業省や環境省の審議会でも昨年から進められており、その検討結果を両省が別々に英文にして海外で配布するという独自行動を行っている。

 ○今回の2030年エネルギー需給像検討は一見すると、現実の政策展開との関連性が希薄になりそうに見えるが、例えば原子力発電の計画から運転開始までの期間が、10年から20年かかる実態を見れば決して長いスパンではない。経産省が企図しているといわれる天然ガス化へのシフト→分散型エネルギー本格導入・普及への条件整備も最低10年はかかると見られる。
 電力自由化がさらに進められても原子力発電は従来ペースで建設可能なのか、あるいは2010年頃から現実味を帯びる高経年原発の稼働はどうするのか、サハリン天然ガスプロジェクトや国内幹線パイプラインの扱いは?いずれも相当際どいテーマばかりである。

 ○合同会議の検討テーマは、一方でわが国として温暖化対策に長期的にどう取り組むかに答えを見出す作業でもある。環境省の2月に開催した審議会では、産業革命以来の地球規模で増え続けるCO2濃度を、今後30年から50年かけて安定化させるためには世界の現CO2排出量の50〜70%減らす必要がある、とする科学的知見が提示された。気の遠くなる話ではあるが、しかし人類はそして日本も、この問題からは逃げられない。
 合同会議の議長は、業界の利害が直接及ばない日本経団連の奥田会長が務めるが、これからの日本の進路に誤りなきよう、産業界の利益という狭い了見ではない、「地球益」という大所高所からの見識を示して欲しいものだ。しかし、議長としての采配を見ていると、そうした意欲はほとんど感じられないのである。



小泉首相の産廃処分場視察は思いつき? それとも環境重視?
 ◇ 今年の参院選後に政局変動も。色あせる小泉内閣 ◇
2004/01/08(Thu) 文:(水)

 ○明けましておめでとうございます。2004年という新しいページが開かれ、皆様も張り切っておられることと存じます。私たち「エネルギーと環境」のスタッフも、昨年にも増して身を引き締め、取材・編集そして業務に当たる決意ですので、引き続きご協力のほどよろしくお願い致します。
 今年いただいた賀状によりますと、昨年の“珍事”の一つだった「阪神優勝」はいつも? 景気の転換点になるそうで、今年のアテネオリンピック、そして来年の愛知万博で回復軌道間違いなしだそうですがどうでしょうか。それでCO2排出量が大きく伸びても困ります。

 ○さて、今年は7月に参議院選挙が予定され、昨年の衆議院選挙に続いて小泉内閣に対する国民の支持度合いが明確になる。支持率がひと頃から大きく下がり、規制改革の実現も高速道路建設問題の決着に見られるように、相当な後退を余儀なくされるなど、かつての勢いがなくなり、新たな政策課題の提示も「ネタ枯れ」という様相になっている。政局に敏感な霞ヶ関幹部の一部には、自衛隊のイラク派遣によるマイナス材料を抱え、このままで参院選を乗り越えられるかという懐疑論もでている。

 ○また、参院選で小泉自民党が勝てるかどうかは、昨年の衆院選で見られた公明党による強力な選挙協力を得られるかどうかにかかるとの見方が強い。しかし、公明党は連立を組む自民党に対してより影響力を発揮する意味では、自民党が単独で参議院の過半数を得る事態になることは好ましくなく、選挙協力は一定の距離を置くのではないかと思われる。そうなると、今年の7月以降は政局が流動化する可能性が極めて高い。

 ○そんな小泉首相が新年早々、わが国最大級の産業廃棄物不法投棄現場として知られる香川県の豊島(てしま)など環境問題の現場を珍しく視察した。視察の目的については「自分が厚生大臣をしていた頃から関心があった」、また周辺には愛媛県の今治市などにタオル製造産業などが多いことから、「沈んでいる中小企業を元気づけるため」という声が聞こえてくる。ただ、これが表向きの理由なのか、本心なのか、それともタカ派イメージが国民にますます強まるマイナス面を、クリーンイメージとなる「環境政策」により薄めようという政治的な狙いなのか、まだその背景は不明だ。

 ○ただいずれにしても、「環境と経済の統合」の具体化や「環境産業の振興」を今年の政策展開の柱にしようとしている関係省庁にとっては、単なる思いつきや一過性の首相視察に終わって欲しくないというのも事実。
 果たして、今後はどのような展開を見せるのだろうか。



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