[過去4〜19 回までの今月のキーワード]
2008年のメッセージ/日本発、「国境なき地球環境防衛隊」の創設を!
◇ ◇水の確保、廃棄物、省エネや大気汚染などの診断と対策実行◇ ◇
2008年明けましておめでとうございます。今年も、エネルギーと環境のテーマを大マスコミとは一味違った独自の視点から、専門誌らしく中身の濃い誌面づくりに精一杯努力しますので宜しくお願い致します。
〇なんといっても今年最大の話題はG8サミットが7月に北海道・洞爺湖で開催され、昨年12月インドネシア・バリ島で採択されたポスト京都議定書の「ロードマップ」が、主要国首脳の後押しで具体的に進展させる方向になるのかどうか。その時点で、日本は誰が総理大臣として調整役を果たすことになるのか見通しの難しい政冶状況だが、国際社会の期待を一身に背負うことになるのは間違いない。
〇ポスト京都の枠組みづくりでは、米国と中国をはじめとする途上国をどんな形で引き込むのかが最大のポイントです。ただ、米国は次期大統領選を目前にしており、残務処理ブッシュ政権の様相が強まり、大きな政冶決断が出来ないと思われ、となると途上国の実質参画にどのような道筋を日本がつけられるかが問われることになる。日本は昨年のG8サミットで、途上国向けに「志の高い途上国支援のための新たな資金メカニズムの設置」を約束しているが、まだその中身は検討中だ。
〇しかし、この新たな資金メカニズムの設置も、旧態依然のカネの力により日本の存在感を示すという域をでていない。最近のわが国の抜き差しならない財政状況をみれば、どれだけ長続きできるかまた国民から多くの支持を得られるのかどうか。そこで提案である。例えば、日本の優秀な技術力と豊富な余剰人材を途上国の環境汚染や生活環境悪化の解決に振り向ける「国境なき地球環境防衛隊」を組織し、今後5年間開発途上国や国連や国際組織等の依頼に応じて、環境問題を診断し対策を実行するシステムを作ったらどうか。すでにこうした先例は世界にあり、キューバは数年前から「国境なき医師団」を政府自ら編成し、医療水準の極めて低い近隣諸国などに派遣、その見返りに自国には乏しい石油や食料品などを輸入したり、外貨獲得の手段にしているという。何よりも、その国の不安な人々に安心感を与え大変喜ばれているようだ。
〇環境省は地球温暖化で水没の危機に瀕している南太平洋の小島嶼国・ツバルに専門家を派遣し、侵食を防ぐための堤防工事の指導や飲料水の供給、廃棄物の処理対策などを具体化するという。また、来年度はかつて日本が公害列島化した際に活躍した団塊世代の技術とノーハウを、こうした国々に役立てる「国境なき環境調査・協力団」の構想を検討中だ。
しかし、そのための予算計上がたったの1000万円にすぎず、思いつき程度の施策としか思えない。日本が環境の世紀である国際貢献として本気にやるならば、100億円位の予算を用意して、一省庁の枠にとらわれない、かつ一時の大臣の手柄話しにするのではなく、中長期的な国益も追求した大胆な政策として展開して欲しい。7月の洞爺湖サミットでは、日本発として国際社会にこうした斬新な計画を是非発信してもらいたいものである。
偽メール事件に現れた民主党の体質、質問準備にカネと手間をかけよ
◇ イチローの「さめた人間」発言に学ぶべきではないか ◇
〇野球の世界一を決めるWBCで、王監督率いる日本チームが強豪のキューバを10−6で破り、よもやの優勝、世界一に輝いた。決勝進出までは試合の流れが悪く、その上、米国審判のズル(ミスジャッジ)などがあって、ストレスのたまっていた我々日本人にとってはまさに溜飲を下げた。イチロー選手による日本チームを鼓舞するための悪役ぶりも見事だった。イチローが残したコメントで特に印象的だったのが、日本のプロ野球が大リーグに学ぶべき点を問われた記者に、「さめた人間がいないこと」と答えた点だ。
そこで連想したのが、「偽メール事件」で、まだ進退をぐずぐずしている民主党の永田寿康衆議院議員の問題。功名心が先にたったのか、十分な裏づけもしないまま薄っぺらなネタに跳びつき、最終的には謝罪広告まで出した不始末は、イチローの語った「さめた人間」が民主党執行部にはおらず、ただネタの大きさに有頂天になってしまった愚かな状況を物語っている。
〇今回のWBC大会で言えば、出場した米国やキューバは横綱級であり、それを突破して優勝するのは、容易なことではない。国会質問に例えれば、政府自民党はあらゆる権力機構を持つ政治の世界の横綱であり、予算委員会の質疑にしても、一つぐらいのたまたまのネタで馬脚を現すほど、ヤワではない。
鋭いかつ政府が立ち往生するような質問は、それこそ手間隙と労力そして十分なカネを事前にかけなければ生まれてくるはずがなく、永田議員の質問はガセネタというよりも、そうした周到な準備がまったく見えなかった。
〇「偽メール事件」は永田議員の軽率さもさることながら、民主党という組織の体質と構造に問題があると見るべきだろう。それは野党として最大の武器であるはずの国会質問に十分なコストと時間をかけずに、大半が付け焼刃の勉強程度で、しかも事案の問題点すら、政府関係者やマスコミ等に教えてもらうような実態では、最大野党としての資質を疑わざるを得ない。
一方で、国会議員には等しく立法準備費や国政調査の名目で月額約150万円以上が支払われているという。それでいて、質問のために普段の情報収集や勉強にカネと時間を十分にかけているという話を聞いたことがない。
〇かつての社会党時代に、カミソリのように頭が切れると言われた石橋正嗣氏と爆弾質問男と怖れられた楢崎弥之助氏という二人の論客がいた。その二人が予算委員会で質問するときは、今度は一体なにが飛び出してくるか、与野党超えてある種の楽しみと緊張感があったし、マスコミも周到な事前取材を余儀なくされた。その石橋氏が、公害問題関連で独自ネタでの質問を予算委員会で行った時、事前に想定していなかった当時の通産省の課長が答弁資料を片手に役所から全速力で国会に走ったというエピソードがあるくらい真剣そのものだった。
〇しかも質問は多くの場合、半年くらい前からチームを組んで勉強や調査をするのは当たり前、また議員自ら現地調査や料亭のおかみさんにまで聞き歩くことも珍しくなかったようだ。そうした熱心さや真剣さが人々を動かし協力者も次第に出てくる訳で、永田議員のようなメール一枚をただかざしただけとは訳が違う。しかも、民主党は調査や情報収集などにカネをかけないだけではなく、協力者などを使い捨てにすることが多いという。
今回の不始末を永田議員だけの問題に終わらせるのではなく、是非ともイチローが言った「さめた人間」として党の関係者は見るべきであり、党組織の体質改善に向けた大きな糧にして欲しいものである。
記録的な大雪に見舞われて2006年が幕開け
◇ 雪国の電源地域で温排水利用ができないものか ◇
〇明けましておめでとうございます。「エネ環」の編集陣は今年も張り切って 独自の視点と切り口で斬新な記事を読者の皆様にお届けします。この1年間よろしくお願い致します。また、記事づくりのヒントや参考情報、さらには新しい読者などを紹介いただくと大変光栄です。
この年末年始は、地球温暖化と言われているのに、日本列島の裏日本を中心に何十年ぶりという大雪に見舞われ、大変な思いをした方も多かったのではないでしょうか。
〇特に、昨年12月22日〜23日に発生した大雪による新潟地方の広域停電は、ことのほか大変だったようです。県都の新潟市を中心に最大約65万戸が雪の重みによる送電線のたわみショート、さらに絶縁体の役割を持つ碍子が吹雪で運ばれた海の塩分の影響で機能不全となり、大規模な供給支障に発展したということです。猛吹雪と感電死の危険、さらには高いところで厳寒下の復旧作業を行った東北電力の関係者には頭が下がりますますが、一方で電気にあまりに多く依存する脆さも見せつけてくれたようです。
〇停電になると、食事はおろか上下水も止まり暖をとることも不可能となり 生活そのものが成り立ちません。最近は民生分野においても、電気・都市ガス・石油・LPG間の市場競争が激しくなって、オール電化住宅などが相当のシェアを獲得していますが、本当に単一のエネルギーに頼るのがよいのかどうか、もっと広い視点から議論すべきと思います。例えば、こんな話しがあります。アラブ諸国から憎悪の標的となったイスラエルは、いつでも戦時体制を維持するため送電ネットワークが必要な大規模な発電所建設よりも、10数年前はまだ非常に高価だったのですが、戸別に設置できる太陽光発電の設置を奨励・支援し、いざという時に備えたようです。今では、日本が太陽光発電の設置数は世界のトップですが、当時は大変な普及台数になったということです。様々な災害の多い無資源国・日本にとっては考えさせられる話です。
〇もう一つ雪の被害で考えさせられたことがありました。新潟県は日本でも 有数の電力の供給県であり、県内に東京電力の柏崎刈羽原発や東北電力の東新潟火力など大規模な電源地帯を抱えています。にも拘わらず広域停電になったため、地元からは強い不満が出ているようですが、地域への貢献という観点から、例えばこれら発電所から毎日出る膨大な量の温排水を融雪や除雪に活用できないものだろうか。温排水はもともと折角のエネルギーをただ捨てているだけに加えて、そこから発生する水蒸気は温室効果係数が高い物質といわれており、それを逆に有効活用できるメリットがあるはずです。新潟県や青森県などの豪雪地域では、大変な雪下ろしに悲鳴をあげ、これら自治体は数億〜数十億円の除雪費用が底をつきはじめたというニュースも出ています。この機会に是非ご検討のほどを。
行く年・来る年に日本の憂いと希望
◇ 小泉チルドレンらに国政の向かう先委ねられるか ◇
〇来年2月にイタリア・トリノで冬季オリンピックが4年ぶりに開催されることもあり、ウインタースポーツ花盛りのシーズンを迎えている。なかでもスピードスケートはその花形で、女子500m競争で驚異的な復活を遂げつつある岡崎朋美選手の活躍に大変期待している。彼女は7年前の長野五輪で銅メダルに輝いた。その後は若手の有望選手に押され、泣かず飛ばずの選手生活だったが、過酷なスピードスケート競技では珍しく34歳という年齢ながら、再び脚光を浴びる存在に復調した。
何よりも競技が終わった後のあの笑顔がすばらしい。おそらく、一流の選手としての寿命を維持することの艱難辛苦は想像を絶するものがあったと思うのだが、そんな様子は微塵も感じさせない。
〇12月は政冶・行政の世界も慌しい。恒例の来年度予算編成や税制見直しに加え、今年はエネルギーと環境分野でも特別会計制度改革、環境税導入問題、アスベスト被害者対策など重要政策課題が目白押しの状況だ。しかし、今年は9月の総選挙で政界地図が激変したことから、永田町や霞ヶ関の意志決定プロセスがこれまでと大きく変わっているという。いわゆる族議員による影響力行使型から、総選挙で当選した新人議員80余名の小泉チルドレンと呼ばれる「新勢力」が、これまでの族議員らのパワーを大きく薄めているという。
〇しかし、ある省庁の幹部の話しによると、小泉チルドレン議員のほとんどは国政上重要な課題についての識見もなく、基礎的な知識や責任感も薄く国会議員としての品位と資質に欠けるような「先生」が圧倒的という。各省庁は少しでも自らの影響力を高めるため、抱えている政策課題についてこぞってレクチャーに歩いたが、大半の議員の理解と反応が鈍くがっかりしたようだ。現に、自民党内では特別会計の見直しや税制改正、さらには昨年から激しい対立となっていた環境税導入などいずれについても、80余名の議員が積極的に関わって議論を展開したという話しはまったく聞こえてこない。
とはいっても、議案の決定や省庁が示す施策課題に対する方向付けをまとめる意味では、この80余名の数がことのほか大きい。それら議員が「ただ今勉強中」や「研修中」としながら、議案の採決や政党の方針を結果的に左右する構造が一般化するのであれば、国政の形骸化がますます進むことになる。行政で長年苦労してきたプロがほとんど何も分っていないこうした素人集団に御せられるというのも、何とも皮肉な話しではある。
〇だいたい一般庶民から見ればはるかに高い歳費による報酬を得ながら、国会議員になって勉強中とか研修中ということ自体がおかしい。最低限の常識や知見の習得は議員になる前にやっておくべきであろう。暴論をいうならば、国会議員にも高い方の年齢制限を議論するだけでなく低い方の年齢制限や最低限の資質規定を設けたらどうか。
冒頭の岡崎朋美選手の話しに戻れば、彼女が10年以上も名実ともに一流選手を維持しているそのプライドと、毎日毎日の血の滲むような努力の爪のあかでも小泉チルドレンには煎じて欲しいものである。日本のこれからの運命を担っているという知力と行動を早く示してもらいたい。よいお年を。
衆院選挙でこそ、環境税などの環境政策を問うべきでないか
◇ 「刺客」騒ぎは面白いが大事な争点を隠す効果 ◇
〇小泉首相が「郵政民営化」という個別テーマを国民に問うた衆議院総選挙も間もなくその結果が出る。こうした特定のテーマの是非を第一の争点にした解散総選挙は、極めて異例といわれる。勝手な予想だが、おそらく小泉自民党は解散前の議席を相当上回る勝利を収めるだろう。それは、郵政民営化を国民の多数が望んだ結果ではなく、小泉政冶というやや乱暴ながらもこの閉塞感の著しい日本社会をなんとか変革してくれるのではないか、という期待票と思われる。つまり、リスクを冒してでもやる気のある指導者に国民は賭けたのかもしれない。
〇その小泉首相は郵政民営化に反対した自民党議員を公認しなかったばかりか、当該選挙区に賛成派の対立候補すなわち「刺客」を躊躇なく立てるという劇場型の話題つくりを行い、マスコミの注目を一気にひきつけた。これで、あの橋本派による1億円受領事件という「政冶とカネ」の問題や、明らかに失点と思われた北朝鮮による拉致問題の停滞もどこかに飛んでしまった。
〇「刺客」の先導役と主人公を務めたのは、意外にも小池百合子環境相で近畿の比例区から転出、郵政民営化反対派の東京10区で立候補している小林興起前議員の対立候補にあてたのは読者諸兄姉ご承知の通りである。おそらく、この選挙戦も小池環境相が圧勝するだろう。その理由は、表向きかどうかは別として、やはりリスクを冒しても「改革」を進める旗手というイメージが選挙民の心を強く捉えたからである。
〇この「小池vs小林」にはもう一つの因縁対決が潜んでいる。小池氏は環境大臣に就任以来、環境税の導入・創設を最大のテーマとして機会あるごとにその実現を訴えてきた。また、地球温暖化の進行を食い止めるための経済政策の軌道修正や環境政策の強化を指摘するとともに、最近ではアスベスト被害問題についても、早急な取り組みの必要性を主張していた。
対して、小林氏は旧通産省から政界入りしその後商工畑を長く歩いた有力者であり、国際通でもある。いわば、環境省対経済産業省の番外編という様相だが、当の両氏はそうした政策論争を一向にする気配がない。特に小池氏の場合は、環境税という国民に新たな負担を課す税制を自ら主導してきただけに、そうしたことを選挙に際してほとんど示さないというのはおかしい。
環境問題は、選挙では争点にはなりにくいといわれるが、近年の環境政策は経済優先主義をどうするか、道路づくりにほとんど予算が回される道路特別会計制度をどうするかなど、経済や財政政策と競合するテーマが多い。
「刺客」は、対立候補を倒すだけではなく、大きな歴史の変革を阻害する相手にも、立ち向かって欲しいものである。
「もったいない」と相反する新たな政府の温暖化対策
◇ どうしても解せない「耐久消費財買い換えのすすめ」 ◇
○今月下旬にも、約1年以上にわたって政府が検討してきた新たなわが国の地球温暖化対策が「京都議定書目標達成計画」として閣議決定する。その中身は、端的に言えば、地球温暖化を促進させる原因物質のCO2等排出量を、1990年比に対して2010年までに現状よりも13.6%削減する様々な対策と施策を決めるもの。対策と施策は産業、民生・業務、運輸の各部門に広範にわたっており、今後の産業活動や生活全般への影響が少なくない。
大きな争点だった環境税の導入措置は、昨年の議論よりやや後退した様相だが、達成計画には例えばハイブリッドや天然ガス方式などクリーン自動車への買い換え転換計約260万台、高効率給湯器の普及約520万台、省エ型ネルギー家電製品(エアコン、テレビ、冷蔵庫など16種)への買い換え促進強化など、その多くが耐久設備や機器の買い換えを促す対応策となっている。
○ちょうど、上記の達成計画づくりの調整中に、ケニアの環境副大臣だったワンガリー・マータイさんが2004年のノーベル平和賞を受賞、日本にもこの3月に来て、各地で講演し、長年続けてきた植樹など環境問題の重要性を強く訴えた。その彼女の環境問題に対する謳い文句が「もったいない」という考え方の提唱であり、小池百合子環境大臣や小泉純一郎首相もそうしたポリシーに共鳴、支持していた。
誰が、そうした考え方を授けたのかは明らかではないが、この「もったいない」思想は、古くからわが国では生活の知恵として、また環境問題のためという意識が特になくても、自然や資源との共存関係を大切にしながら経済活動や日常生活を過ごす一種の自律的なモラルであった。今の若年層は別として、少なくとも50代以上の大半の人は、それが身体の一部に染みついた当たり前の行いと認識していたが、マスコミはこぞって大々的に取り上げていた。
○ところが、環境省をはじめ政府の上記達成計画は、古くなったエネルギー効率の悪い家電製品等を最新型の省エネルギー製品に早く買い替えることを最大の奨励策としており、そのための補助制度も導入する仕組みになっている。まさに、物を大切に使いできるだけ長持ちさせるという「もったいない」思想とはまったく逆の方策を打ち出している。これはおそらく、地球温暖化対策が物の生産や販売などの経済活動に悪影響を及ぼさないため、という理屈と思われるが、きのうまでそれらを大事大事に使ってきた、特にお年寄りや買い替え資金のない人達は多分戸惑うばかりだろう。人為的に物の買い替えを急速に行えば、リサイクルや廃棄物も急増するはずである。
○近年の環境問題対応では、こうした跛行的な政策が目立つ。政策当局者は恐らく現在の生活の質のレベルを落とさずに環境政策を推進するという認識だろうが、それはないものねだりを追っかけているようなものだ。もう少し深みのある政策、そして国民全体が率直に肯定できる一つの方針の押し付けではない、複数の選択肢を提示してほしいものである。
京都議定書の発効を新しい価値創造の契機に
◇ 市場競争万能主義の軌道修正が可能か ◇
○地球の温暖化防止を世界規模で推進する気候変動枠組み条約の京都議定書が、国連本部のある事務局の現地時間の2月16日午前0時に発効した。発効を記念した様々なイベントが各地で開催されているが、小池百合子環境大臣も出席した京都市の会場には小泉首相をはじめ、各国首脳等から今後の取り組みへの強いメーセージが寄せられた。わが国の都市名を冠した初の国際条約といわれる「京都議定書」は、1997年の12月11日に採択されたが、その日に国際合意するまで各国の対立がきびしくことのほか難産だった。
当時、筆者もその会場にいたが、最後の最後までCO2等の各国削減目標などを巡って交渉が難航、予定された会期内に終わらず、最終日は徹夜となって会議が了したのは翌日の朝10時過ぎになっていた。途中、国連事務局が派遣していた通訳者は契約時間が切れたことや、予約していたフライト時間に間に合わないとして、帰ってしまうというハプニングもあった。
○京都議定書の発効の意義やその重要性、そして日本にも適用されたCO2等削減目標の達成の困難さなどについては、すでに多くのメディアが大々的に特集しており、読者諸兄姉も食傷気味と思うので、いずれ次の機会にとりあげたい。ただ、それらの中で印象に残った一つに、環境税を検討している政府税政調査会の石弘光会長が「京都議定書の順守は痛みを伴う。テレビ番組を見たいだけみてマイカーも使い放題。そんな生活を続けていては温暖化防止はできない。(中略)税や排出枠が嫌なら、温水洗淨便座を禁止するなど生活スタイルを強制的に規制するしかない。それは不可能だと思うが」(2月13日付け読売新聞朝刊)との指摘があった。
石会長の認識は、昨年から争点になっている環境税の導入是非を意識したものと見られるが、極めて温暖化問題の本質を衝いているように思われる。
○政府は議定書の発効を踏まえ、現行の地球温暖化対策推進大綱を強化・昇格させ、法律上の「京都議定書目標達成計画」とする作業を進めているが、そこで提示されている対処方針の基本方針をみると、石会長の指摘する「国民に痛みを求める」という方向ではなく(環境税の導入だけが“痛み”にあらず)、我々が現在どっぷり浸かっている便利で豊かな生活や、基本的に市場経済に支障を及ぼさないことを前提にしている。素朴な疑問を提示すれば、トップランナー基準を達成した自動車や家電機器等が既存のものから代替されたとしても、いったいそこから出てくる膨大な廃棄物の処理処分は大丈夫なのか。車を一家に2台以上も所有することが当たり前になりつつある状況に何らのペナルティもなしで、本当に運輸部門のCO2総排出量の削減目標を達成できるのか。公共交通へのシフトというが、国際的にも割高といわれる日本の交通料金体系を放置したままで、実現できるのか。燃料電池の開発競争がヒートアップしているが、これを製造する際に要するエネルギー使用や寿命が尽きた時の廃棄物発生を考えた場合、これまでのような大規模拠点供給方式の方が環境面から優れているのではないか、などなどがある。
○今後の温暖化対策は現在の市場経済や生活水準を維持しながら、技術的なブレークスルーで対処するのがもっとも効果的である、という考え方が主流になっている。しかし、こうした対処で果たして長期的に必要とされるCO2等排出量を現状の6〜7割程度に削減できるのだろうか。やはり、国民や市場経済にも痛みを伴う社会全体の環境面からの構造改革に踏み出し、それを契機とした新しい時代の「価値観の創造」にトライすべきではなかろうか。
人類にとって未知の挑戦・どこまで社会構造を変革できるか
◇ 京都議定書の発効はあらゆる経済活動にインパクト ◇
21世紀に入って5年目の新しい年が開けました。まずは読者の皆様、明けましておめでとうございます。「週刊エネルギーと環境」はこの専門誌を創刊して以来37年目になりますが、今年も精一杯話題性のある記事づくりに邁進しますので、皆様からも遠慮なく材料やヒントをご提供ください。1年間よろしくお願い致します。
○今年のエネルギーと環境問題の話題は、何と言っても2月16日に発効する気候変動枠組み条約の京都議定書です。国際条約として採択されたのが1992年のいわゆる「地球サミット」ですから、批准した各国に温室効果ガス(CO2等)の義務的な削減規制を適用するのに13年の長い交渉年月を要したことになります。それだけ、この議定書に規定されたCO2等の削減目標が各国の政治・経済活動に与える影響が大きく、いわば地球という共同体を各国の様々な利害を超えて再生できるのか、が試されていく。大げさに言えば、今年は人類がこれまでの現代文明を修正する新たな文明を築くための挑戦が始まる年といえそうです。
○昨年暮れには「スマトラ沖地震津波」により、たった2〜3時間の間におよそ10万人以上の人が犠牲者となる空前絶後の痛ましい大惨事が発生しました。日本人の方も被害者になってしまいましたが、津波の発生した海域がよく知られているリゾート地であったせいか、犠牲者はオーストラリア約5000人、スエーデン1000人以上、ニュージーランド700人以上など、まさに地球規模の災害に拡大しています。
この津波惨事で思い出したのが、元日本学術会議会長の近藤次郎先生が地球温暖化のもたらす自然的影響を比喩的に解説した時に使っていた一枚のスライドです。それは葛飾北斎(?)が昔の東海道道中で今の浜松あたりの海側から富士山を描いた有名な絵ですが、猛々しい大波がひときわ大きく正面にあって、背後に画いている富士山を飲み込むような構図でした。それは地球の温暖化が進んで海面上昇がひどくなるとそうした情景もありうるという近藤先生のわかりやすい指摘でした。
○今回のスマトラ沖津波被害は、地球温暖化の現象と直接的な関連性は指摘されていませんが、それにしても近年は異常気象や台風、そして様々な災害など、その規模や「異常」さが極端に大きくなっている気がします。
それは統計的にも裏付けられているようですが、気候変動の十分な科学的因果関係の究明を待っていたのでは、遅きに失したということになりかねません。京都議定書の発効というこの機会を捉えて、国際社会はもう一度「確実に忍び寄る人類へのリスク」に、どう具体的に対処すべきかを改めて議論する必要があると考えます。
○地球温暖化を食い止めるためには、世界のCO2排出量を現在の50〜60%以上削減する必要があり、しかもその効果が現れるまでにはこの先100年以上かかる、と科学者は指摘しています。京都議定書の発効により削減できるCO2排出量は、そのうちのせいぜい数%どまりと言われており、国際的な努力はまだまだスタート台に立ったに過ぎません。
最終的にCO2等排出量を50%減らすということは、一日のエネルギー使用量を半分に減らして、生活や社会経済活動を行うことを意味しています。おそらく今の現代文明のままでは到底無理でしょう。そこには従来とは全く異なる価値観に基づく社会の構造的変革が必要となります。それにしても、嘆かわしいのは政冶レベルでの温暖化問題に対する認識の低さです。自民党だけではなく、野党の民主党すら従来の価値観の延長でしか政策を打ち出していません。今年は温暖化問題に対する政冶レベルでの底上げをいかに図っていくかも、大事な課題になりそうです。
プロ野球騒動と電力会社による地域への新しい貢献
◇ 仙台を本拠地とするプロ球団の進出を好機と捉える ◇
○米国の大リーグにおけるイチロー選手の1シーズン最多安打数の世界記録達成や、日本のプロ野球史上初のストライキ実施→仙台を拠点とする新球団の創設など、野球の話題に事欠かない日が続いている。ストライキは9月18日と19日挙行されたが、それへの非難は少なく、逆に選手らを激励するファンが多かったというのは、これまでのプロ野球経営でいかに球団側(経営者)がファンらに信頼されていなかったかを物語っていよう。
しかも、心情的にはストライキ自体に反感を持つ人が近年は多くなっているのに、リーダー役の古田敦也選手会長らの生真面目さが共感を呼んだのか、おもしろくなくなったプロ野球への危機感が共有されたのか、結果的には意味のあった「抵抗」と理解されたようだ。
○球団経営側と選手会の交渉の成果として、一旦は決まりかけたパリーグの来期5球団制が「楽天」あるいは「ライブドア」の新規参入意向によりこれまでと同様の6球団となることが濃厚で、その本拠地を仙台とするための両社による地元への理解活動が展開されている。
ただ、その交渉をみるとフランチャイズの整備協力とか地元への“お土産”レベルの話しにとどまり、折角のみちのく・プロ球団誕生を地域の娯楽資源、もう少し広げて地域文化の発信や地方活性化の好機にするという取り組みが見られない。直接的な売上と経費の損得勘定に終始しているように見える。せめて、新規参入者と受け入れ側は関係する自治体や地元企業、関係団体、ファンなど一般市民らと議論する「×××協議会」でも発足させて、時間をかけて新しいプロ球団の姿を模索して欲しいものだ。
○実はプロ野球と電気事業にはいくつかの共通性がある。一つはどの球団も地域の代表性が強く、対象エリアの大きさの違いはあるもののその顧客は大半が地方(地元)の人々だ。また、東京周辺や大阪周辺にフランチャイズを持つ複数の球団もあるが、それ以外は「地域独占的企業」という共通点もあるし、両者とも公益性を持った企業という点も同類である。さらに、最近は電気事業の自由化路線が進められているが、つい最近まではプロ野球経営陣と同様に新規参入者に排他的だった。
余談になるが、今回の新規参入で「楽天」側は神戸を本拠地にと当初望んだが、競合することになるオリックス会長の宮内義彦社長は「神戸以外にするなら反対しない」と言ったという。周知のとおり、宮内社長といえば、電力自由化をはじめ長年にわたり政府の規制緩和政策を進めてきた御当人なのに、いざ自らの企業に火の粉がかかると、「圧力」をかけるというのでは二重人格そのものだ。問題があまり大きくならなかったのは、おそらく政冶部記者と運動部記者という畑の違いがあったからか。
○仙台を本拠地にしてプロ野球に新規参入しょうという「楽天」と「ライブドア」の競争はまだ決着がついていない。これまでのところタナボタ的出番になった浅野宮城県知事の嬉々とした顔は目立つが、東北地方最大の企業である東北電力は音無しの構えだ。電力会社は来年4月からの自由化拡大に伴う料金引き下げなど、経営の効率化努力でそれどころではないということも分かる。が、東北地方の人々が長年待ちわびていたプロ球団進出という折角の好機なのだから、従来の発想を変えて健全な地方文化や娯楽資源の共有のため、積極的に関与してはどうだろうか。
これまで電気事業は地方を代表する公益企業でありながら、地域の文化や芸能・芸術、さらには広い意味での地方の風土を高める事業にほとんどカネを使ってこなかったといわれる。最近は企業の社会的責任が国際的にも注目されており、その一方で横並び意識が支配する電力会社どうしの競争化も強く指摘されている。もちろん本業での競争も重要だが、それ以上にこうした文化的な事業などで競い合うことも、それぞれの電力会社が独自性を高めることとなり、それが自らの顧客との普段のコミニュケーションを高め、自由化時代を乗り切る要素になるのではないか。
「熱い」夏の大きな要因は人為的? 問われる都市計画行政
◇ 指摘されていた熱汚染問題、いたちごっこで解決見えず ◇
○「熱い」夏が続いている。今年7月の熱さは記録破りとかで、わが国の気象観測以来最高を記録し、平均気温が33.1℃となり平年を実に4.1℃上回ったという。7月20日には都心の最高気温が39.5℃、場所によっては軽く40℃を越えたところもあったとみられ、これも観測史上最高だった1994年8月の39.1℃を突破した。本誌にも、北海道の網走に住む読者からは「話のタネに一度でいいから体験してみたい」という声が寄せられた。
もちろんこの熱さで、電力消費量はうなぎ登りとなっており、久し振りに電力会社の売り上げが大きく伸びそうだ。ただ、この熱さがトラブル隠しにより大半の原子力発電所が止まった昨年だったら、停電という事態に遭遇し、大変なパニックになっていたのではないかと思うと、東京電力にはまだツキがある。
○この熱さの要因は何だろうか。異常気象的な要素もあるだろう。それ以上に、世界の年平均気温のもっとも高い温度レベルが1990年代に集中したことに象徴されるように、地球の温暖化が加速しつつあるのかもしれない。異常気象と温暖化は密接な関連性があるというのが有力な説だから、両方による相乗作用なのかもしれない。しかし、これに加えて人為的な要因も極めて大きいといわざるを得ない。大都市に見られる「ヒートアイランド現象」であり、その科学的な警告は約20年前から「熱汚染問題」として提起されていた。
要するに熱汚染は、都市にこもった熱がコンクリート舗装化や樹木の消失、中高層ビルなどに邪魔されて地中に逃げられないばかりか、空中にも容易に拡散しない現象であり、都市計画や環境対策での無策が引き起こしていると言えよう。
〇さらに、最近の報道等によると、汐留の再開発で建設された超高層ビルなど東京湾の内岸沿いに林立する建物が東京湾からの浜風を遮る「壁」となり、ヒートアイランドを緩和する空気の流れを阻害していることが明らかになっている。超高層ビルが50年以上持つとすれば、それによって多くの都民がそれだけの期間、熱汚染による我慢を強いられるわけであり、冷房のためのエネルギー消費とそれに伴うCO2排出増も相当なものとなる。
これだけ地球温暖化問題の重要性が指摘されたきたのに、汐留の高層ビルを設計した建築士等は今回のような問題に全く気がつかなかったのか。あるいは問題意識があったとしても、経済合理性を最優先せざるを得なかったのか。また行政にも責任がある。数年前から規制緩和という名のもとに、建築基準法の容積率大緩和を行い、次々と狭い再開発地域で巨大ビルが登場する素地をつくったからである。
〇都市づくりやまちづくりにおいては、以前から「風のみち」や「緑」のオープンスペース確保、さらには緑の回廊づくりが欠かせないといわれてきた。国土交通省は今年の通常国会で新たな都市計画行政として、景観保全やみどり3法を制定したばかりだが、現実の都市の姿は温暖化対策とは逆の方向に進み、それが人為的な温室効果をさらに増大させている。いわばいたちごっこである。こうした悪循環を、旧来の都市政策や経済価値のあり様を大転換させることで変えないと、温暖化防止対策はいつまでも有効なものになっていかないと思われる。
2030年目標のエネルギーと環境像・産業益から「地球益」を
◇ 原発の役割・天然ガス・分散型エネをどう評価 ◇
○経済産業省は昨年12月に着手した「長期エネルギー需給見通し」の検討作業とは別の議論の舞台として、産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会の合同会議による「エネルギー環境政策の長期戦略」検討を立ち上げ、2030年までの政策の方向性を集約する。
通常は、長期ビジョン的な検討となると、あまり差し障りのない形で需給計画の見通しや技術開発目標などを掲げるパターンが多いが、今回の合同会議作業は様相がやや異なる。長期の2030年目標といっても、自由化が進展した場合の原子力の扱い、地球温暖化問題への対応、天然ガス化シフト、分散型エネルギーの役割評価など、いずれもエネルギー企業における今後の経営方針等に大きく影響するテーマが予定されており、その意味で議論の展開に注目が集まっている。
○例えば、地球環境問題では当面は京都議定書の発効時期が焦点となっているが、それに加えて議論の始まっている2013年以降の「第二約束期間」に対するわが国としての方針をどうするかも重要課題。政府関係者の見方では、第二約束期間の温室効果ガス削減目標は2013年からの10年間という形で国際協議がなされる可能性があるとしており、となると合同会議の政策の方向性を審議する時間軸とほとんど重なることになる。
すでに、第二約束期間問題に日本としてどう対応すべきかの議論は、経済産業省や環境省の審議会でも昨年から進められており、その検討結果を両省が別々に英文にして海外で配布するという独自行動を行っている。
○今回の2030年エネルギー需給像検討は一見すると、現実の政策展開との関連性が希薄になりそうに見えるが、例えば原子力発電の計画から運転開始までの期間が、10年から20年かかる実態を見れば決して長いスパンではない。経産省が企図しているといわれる天然ガス化へのシフト→分散型エネルギー本格導入・普及への条件整備も最低10年はかかると見られる。
電力自由化がさらに進められても原子力発電は従来ペースで建設可能なのか、あるいは2010年頃から現実味を帯びる高経年原発の稼働はどうするのか、サハリン天然ガスプロジェクトや国内幹線パイプラインの扱いは?いずれも相当際どいテーマばかりである。
○合同会議の検討テーマは、一方でわが国として温暖化対策に長期的にどう取り組むかに答えを見出す作業でもある。環境省の2月に開催した審議会では、産業革命以来の地球規模で増え続けるCO2濃度を、今後30年から50年かけて安定化させるためには世界の現CO2排出量の50〜70%減らす必要がある、とする科学的知見が提示された。気の遠くなる話ではあるが、しかし人類はそして日本も、この問題からは逃げられない。
合同会議の議長は、業界の利害が直接及ばない日本経団連の奥田会長が務めるが、これからの日本の進路に誤りなきよう、産業界の利益という狭い了見ではない、「地球益」という大所高所からの見識を示して欲しいものだ。しかし、議長としての采配を見ていると、そうした意欲はほとんど感じられないのである。
小泉首相の産廃処分場視察は思いつき? それとも環境重視?
◇ 今年の参院選後に政局変動も。色あせる小泉内閣 ◇
○明けましておめでとうございます。2004年という新しいページが開かれ、皆様も張り切っておられることと存じます。私たち「エネルギーと環境」のスタッフも、昨年にも増して身を引き締め、取材・編集そして業務に当たる決意ですので、引き続きご協力のほどよろしくお願い致します。
今年いただいた賀状によりますと、昨年の“珍事”の一つだった「阪神優勝」はいつも? 景気の転換点になるそうで、今年のアテネオリンピック、そして来年の愛知万博で回復軌道間違いなしだそうですがどうでしょうか。それでCO2排出量が大きく伸びても困ります。
○さて、今年は7月に参議院選挙が予定され、昨年の衆議院選挙に続いて小泉内閣に対する国民の支持度合いが明確になる。支持率がひと頃から大きく下がり、規制改革の実現も高速道路建設問題の決着に見られるように、相当な後退を余儀なくされるなど、かつての勢いがなくなり、新たな政策課題の提示も「ネタ枯れ」という様相になっている。政局に敏感な霞ヶ関幹部の一部には、自衛隊のイラク派遣によるマイナス材料を抱え、このままで参院選を乗り越えられるかという懐疑論もでている。
○また、参院選で小泉自民党が勝てるかどうかは、昨年の衆院選で見られた公明党による強力な選挙協力を得られるかどうかにかかるとの見方が強い。しかし、公明党は連立を組む自民党に対してより影響力を発揮する意味では、自民党が単独で参議院の過半数を得る事態になることは好ましくなく、選挙協力は一定の距離を置くのではないかと思われる。そうなると、今年の7月以降は政局が流動化する可能性が極めて高い。
○そんな小泉首相が新年早々、わが国最大級の産業廃棄物不法投棄現場として知られる香川県の豊島(てしま)など環境問題の現場を珍しく視察した。視察の目的については「自分が厚生大臣をしていた頃から関心があった」、また周辺には愛媛県の今治市などにタオル製造産業などが多いことから、「沈んでいる中小企業を元気づけるため」という声が聞こえてくる。ただ、これが表向きの理由なのか、本心なのか、それともタカ派イメージが国民にますます強まるマイナス面を、クリーンイメージとなる「環境政策」により薄めようという政治的な狙いなのか、まだその背景は不明だ。
○ただいずれにしても、「環境と経済の統合」の具体化や「環境産業の振興」を今年の政策展開の柱にしようとしている関係省庁にとっては、単なる思いつきや一過性の首相視察に終わって欲しくないというのも事実。
果たして、今後はどのような展開を見せるのだろうか。
外交官の痛ましい死は、「不戦の誓い」崩壊の前触れか
◇ 国民総意問う手続きが必要。なし崩しを排せよ ◇
○政党公約(マニフェスト)競べといわれた衆議院の総選挙も終り、この1年もあっという間に師走を迎えました。イラクへの自衛隊派遣問題で揺れる中、将来を期待されていた若き外交官2人が犠牲になる痛ましい事件が発生、改めて日本の国際政治における対応が我々にも突き付けられています。人によっては、日本は戦後憲法で「不戦の誓い」を世界に発信したが、この先おそらく10年のうちに戦争に巻き込まれるという見方もあるほどです。
○そこで一つだけ言っておきたいことがあります。小泉首相は「テロとの闘いのため日本も行動しなければならない」と主張しますが、それはきちっと国民的合意とそれに相応しい手続きを踏んでもらってからにして欲しい。極めて単純な話ですが、例えば、イラクに自衛隊を派遣するならば、まず「自衛隊」という今の名称を変えてからにすべきです。どこから見ても、「自衛」という言葉の意味するところからは、海外に出掛けて軍事的な活動を容認しているとは理解されません。また自衛隊員自身も、採用の際に海外での軍事的行動が本来の任務としてありえると説明されていなかったことも問題です。
○今回の自衛隊の海外派遣に限らず、わが国の為政者は国の命運を左右するような重大な事案について、直接的にその是非を国民に問うことをせず、なし崩し的に既成事実化したきた歴史があります。なし崩し的なやり方は、それを維持し正当化し続けるのに膨大なエネルギーと手間ひまがかかるとともに、最大の問題点は責任の所在が常にあいまいなことと、国民自身が自分の問題と受け取らず他人任せとなり、政治への成熟度がいつまでも上がらないことです。
○総選挙で政党の公約が初めて大々的に取り上げられ、議論されたのは確かに従来から見れば大きな前進でしょう。しかし、このやり方の欠陥は、国民向けに耳当たりのよい公約メニュ−は並ぶものの、例えば今回のような自衛隊の海外派遣や原子力問題、環境問題など国民自身の今の快い生活に我慢や場合によっては制約が必要な課題については、正面から提示されることが極端に少なくなります。
自衛隊のイラク派遣問題は、一方で東京などわが国への報復があるかもしれないと報道されています。つまり、そうした事態の起きる可能性も含めて、例えば国民投票とか全都道府県議会での議決を得るとかで国民的な総意を明確にし、その時点で意志決定した国民の責任とともに国としての方針決定をすべきではないでしょうか。
環境省はこのイラク問題でほとんど何も発言していませんが、戦争が最大の人為的な環境破壊であることは誰しも認めるところです。
日本の選択と官僚たちの反乱
◇ ◇小泉首相の官僚バッシング手法とマニフェスト対決◇ ◇
○日本道路公団の藤井治芳総裁は、第二次小泉改造内閣で就任した石原伸晃国土交通相の辞任勧告を拒否、徹底抗戦の構えを見せたことが大きな話題を呼んでいる。確かに、予め用意したシナリオ通りにいかなかったこと自体はマスコミをびっくりさせたが、任免権を持つ大臣といえども実力ある官僚の首を簡単に取れない時代になってきたという意味から、これを一つの「霞ヶ関官僚たちの反乱」という見方もできよう。
○道路公団の民営化問題は郵政事業の見直しと並んで、小泉首相による国民向け構造改革をアピールする二枚看板である。どちらも、従来から官僚機構が一部の政治家と組んで排他的な行政を展開してきた領域であり、そうした意味では、国民受けする「反官僚」「反利権政治」を演出する小泉首相にとって、藤井総裁の辞任問題は恰好の材料だった。これまでも見られたが、さらし者はなるべく時間を掛けて処理するという手法である。しかし、今回はそうした手口が少しずつ読まれてきており、藤井総裁の功罪は別として、もらえるはずの退職金2,600万円余を捨ててまで、公然と官僚が反旗をひるがえした形となった。
○この前兆は小泉改造内閣の人選にすでにあった。派閥からの一本釣りはもちろんのこと、自民党総裁選での対抗勢力は水に落ちた犬のごとく徹底的に叩き、当の石原国交相にしても実父の石原慎太郎都知事が政界再編に打って出ることも予想して人質に取ったのではないか、と言われる。この組閣の顔ぶれには、総選挙を小泉人気で勝つための見栄えのよいキャストを揃えただけで、政策の具体化や党務などで汗水流してきた人がほとんど登用されなかったとの不満が渦巻いており、選挙が終わるまで「忍」の一字という自民党の関係者も多い。
○10日にも解散される今回の総選挙では、民主党と自民党などによる「マニフェスト(政権公約)対決」になるようだ。その発想は大方共通しており、官僚を必要以上に悪者に仕立て上げ、あたかも政治主導で諸課題が解決するような幻想を振りまいている。しかし、公約といえども作文だけでは世の中も政治も変わらない。それを具体化するパワー、組織、人材(スタッフ)、ネットワークなどが不可欠である。これまでは自民党もしかり、民主党もそうしたことにほとんどカネを使っておらず官僚頼みが続いてきた。
○にもかかわらず、自分勝手な「官僚バッシング」をさらに続けるとすれば、第2第3の藤井総裁のような「反乱」が出てくるだろう。もちろん今の官僚世界に多くの問題があるのも事実だが、それを飲み込んで先進国でも超一流と言われる霞ヶ関官僚を国民・国家のために上手に活用する方策こそ必要なのではないか。それが人気取り先行の政治による亡国を救う道にも繋がるはずである。各政党のマニフェストには、環境税導入などエネルギーと環境関連も示されるようだが、せめて漂流しつつあるこの日本を新たにつくり替える「海図」ぐらいは示して欲しいものだ。
社会的な危険リスクの高まりを直視すべき
◇ 頻発する工場等の大事故・規制緩和の風潮があだに ◇
○三重県多度町で起きたごみ固形化燃料(RDF)発電施設の爆発事故に続き、栃木県黒磯市にあるブリジストン栃木工場での大規模火災発生など、工場や施設での重大事故が最近相次いでいる。7月以降だけで見ても、このほか新日鐵の名古屋製鉄所(愛知県東海市)と北九州にある製鋼工場、名古屋市にあるエクソンモービルの油槽所ガソリンタンク火災など、いずれも死者や重傷者を出したほか、付近住民が避難を要するほどの被害をもたらす大変な事故・人災となっている。
こうした状況は、とても会社側の管理体制のうっかりとか、ミスとかというもので片付けられるものではない。
○重大事故が相次ぐ要因は、近年の経営効率重視による製造工場・管理部門の合理化、収益重視からくる大幅リストラ、技術の過信と優秀な人材の軽視など容易に想像がつく。いずれも遠からず当たっているだろう。ただ、それ以上に重要な要素と思われるのは、ここ数年当たり前と見られ、場合によってはそのこと自体が理屈なしで“正しい”とされている「規制緩和」や「民間の自主的取り組み」重視という社会的風潮である。
景気対策や経済性重視、効率主義の徹底という要請から、かつては大議論のあった住工混在地域の妥当性や住宅地域への危険物の設置、建築物に対する容積率の緩和などが、その手続き面も含めて、あまり問題視されなくなってきている。むしろ、そうした流れに抵抗すること自体がはばかれる時代になっている。
○しかし、そうした風潮は危険である。特に、保安や安全規制の緩和や合理化は、それを実施すれば必ず事故や災害発生のリスクと確率が高まるという経験則を肝に銘ずべきである。リスクの高まりに対する何らの措置・対応もせずして合理化や規制緩和を行えば、社会的な危険性は高まるばかりだ。
最近は大事故だけではなく、例えば石油会社が保安検査で虚偽報告をしたりという考えられない事態も何件か発生している。これらは大問題となった東京電力による原発データ改ざん問題と共通するものだが、石油会社のケースもおそらく氷山の一角ではないかと思えてくる。きっとこれらも保安や案全問題は小手先の対応で十分という社会全体の風潮がいつの間にか関係者に伝染してしまったのではなかろうか。
環境対策や保安の確保は直接的な利益を生まないが、「安心」という代え難いものを提供してくれる。社会的に必要な規制は決して緩めてはならない。
物わかりのよい環境税導入であっては困る
◇ 環境省の役割は既得権税制の抜本改革 ◇
○非公開の形で環境税制の全体像を検討していた中央環境審議会の専門委員会WGが、先月25日に「温暖化対策税」としての性格や課税要件、税収の使途の考え方、温暖化対策上の効果と経済への影響などを集約した報告をまとめ、今月中に国民から意見を聞くたたき台を策定する方針となっている。WGの検討では、炭素税を化石燃料に対して低率の3,000円/tCから高率の30,000円/tCまで掛けた場合、さらには税収の還流補助金を組み合わせた場合のCO2削減効果などをモデルで試算した。
WGによる結論としては、「低率の炭素税約3,400円+税収の全額約9,500円を温暖化対策の補助金に還流する」考え方になったという。また、課税要件は条件付きながら、化石燃料の輸入蔵出し時や石油製品の製造時、あるいは発電用化石燃料の使用時、つまり最上流または上流段階が望ましいと指摘した。
○こうした温暖化対策税の素案に対して、経済産業省は昨年の石炭・石油税の改定によるエネルギー特別会計の見直しで、CO2対策は織り込み済みとして難色を示したほか、産業界も「初めに税ありき」との動きだとして反対姿勢を強めている。ところが、通常は新たな増税には常に厳しい対応を示すはずの野党である民主党は賛成方針、一部の環境NGOは早急に導入すべきとの主張を示しているほか、大手マスコミも大半が極めてよき理解者という「不思議な現象」を呈している。どちらかと言えば、反対は経済産業省+経済界で国民的には理解者が多いという構図とも見られる。
○意図的だったかどうかは別として、今回の税制案は実にうまくできている。課税額はガソリンで見れば2円/L程度で、増税負担感をあまり起こさせず、税収見込みの年間約9,500億円は全てCO2等削減のための補助事業等に使い、その結果わが国の京都議定書上の削減目標である△6%の達成に大きく貢献するというシナリオとなっている。補助事業リストには、膨大な債務を抱え国民につけ回しを続けていると強い批判のある森林整備に約2,500億円/年をはじめ、新たな省・新エネルギー事業、国土交通省がらみの対策事業など、既得権益に十分配慮したと見られるものが多い。
2005年以降に可能な限り早期の環境税導入を掲げる環境省とすれば、もちろん国民的な合意形成が先決だが、実態的には道路特定財源を所管する国土交通省、昨年大臣同士が確認書を交わしエネルギー特別会計を現状の形で温存したい経済産業省、地方に動きが出ている森林環境税や水源税などを束ねる立場の農水省、そして消費税増税が不可欠とする財務省など既得権益を死守しようとする霞ヶ関での調整が最も難しいと思われる。
○しかし、今後の具体的な検討においては、そうした既得権益省庁のよき理解者であっては困る。今回のWG報告でも、最大の課題と思われた既存エネルギー関係税との調整の考え方については、ほとんど掘り下げた検討がされていなかった。環境省が初めから関係省庁とあまり波風を立てたくないと考えたわけではないだろうが、少なくとも年間1兆円規模の増税であるからには、最低限、既存のエネルギー関係税等を地球環境保全の観点からどう見直すべきかを提示する義務があろう。すでに、環境省自身が新たな税制導入は短期的な単なるCO2の6%削減が目的ではなく、長期的な今後の社会経済構造のあるべき姿として必然の「環境と経済の完全統合」に向けた一里塚というならば、なおさらであろう。
すでに、こうした考えに近い主張は経団連や政府税調からもすでに提起されており、にもかかわらずこうした問題に環境省自身が泥まみれにならないというのは、あまりに表面的な国民理解にのっかった安易な対応と強く指摘せざるをえない。
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