今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

「失われた10年」の環境版になるか
2023/03/08(Wed) 文:(水)

 昨年末、官邸主導で検討されてきた2030年・2050年の脱炭素化社会を目指す「GX実現に向けた基本方針案」がまとめられた。間もなく始まる通常国会にカーボンプライシング(CP=炭素の価格付け)含む関連措置を具体化した新法と10本近くの既存関連法提出を予定する。
 だいたい“GX”という横文字の言い方が気に入らないがそれは措くとして、我が国公害・環境行政の歴史的な転換点になることは間違いなさそうだ。基本方針案では今後10年間に脱炭素化対策として約150兆円の官民投資を想定、うち約20兆円を官主導で先行投資(補助金、基金、債務保証など)、CP方策として自主的な排出量取引と「炭素に対する賦課金」の導入、財源措置として「GX経済移行債」(仮称)の発行という内容だ。CP方策は概略次の結論となった。
 ▽2023年〜:GX経済移行債の発行 ▽23年度〜:自主的排出量取引の試行、26年度〜: 排出量取引の本格稼働、33年度〜:同じく段階的有償化 ▽28年度〜: 炭素に対する賦課金制の実施(化石燃料輸入者等を対象)
 このロードマップによれば、CO2の排出を実質ゼロ目指す新たな対策着手と実現に今後10年をかけるということになる。これを前提にすれば一連の措置による成果が上がってくるのは早くて5年、最長では10年かかる。環境省は我が国の気候変動対策の拡大・強化について、小泉進次郎環境相の前後から再三、大臣筆頭に「この10年の対応が極めて重要であり、1〜2年がそのための勝負の時機」と指摘。2020年には超党派による気候非常事態宣言の国会決議、さらには2020年から燎原の火のごとく拡がった全国の自治体・議会による「ゼロカーボンシティ宣言」、企業活動のカーボンゼロ目標設定などに繋がった。環境省が合意した今回のGX基本方針はそうした大きな流れに水を差すものであり、何よりもそれに費やしている巨額な予算や組織をあげて国民に要請してきた数々の地球温暖化対策への信頼性と緊要性を裏切るものではなかろうか。「失われた10年」の環境版にはなってほしくないものである。




W杯惜しくも敗退したが、ごみ集めで世界一の賞賛
2023/02/09(Thu) 文:(水)

 4年に一度開催のサッカーW杯にはテレビの前に釘付けとなった。予選リーグで世界トップクラスのドイツを破りさらに強豪スペインも撃破、悲願としてきた決勝トーナメント入りを果たし、国民から大喝采を受けた。5日の決勝トーナメント初戦はPK戦の末惜しくも敗れたが、予選リーグでは下馬評の高くなかった日本チームが強豪のドイツ、スペインを倒し、しかも後半に逆転勝ちした雄姿は最近少なくなった「日本ここにあり」を示してくれた爽快なものだった。
 実はもう一つW杯会場で世界から評判を呼んだ出来事があった。テレビの実況中継にはほんの数秒しか映らなかったが、クロアチアに負けたあと誰もいなくなった広い観客席で、数人のサポーターが一所懸命散らかったごみ集めをしていた。ついさっきまで日本チームの無念の負けを目の当たりにして、“馬鹿野郎”の一つとともに紙コップなどを投げつけたくなるであろうに、サポーターらは何事もなかったように、たくさんのごみを黙々と集め続けていた。
 こうした光景がテレビで観ていた世界のサッカーファンを驚かせ、日本人は「#えらい」「#献身的だ」「#さわやかだ」などの声がネットやツィッターの世界で次々と拡散したという。どうも海外の人々には、こうした日本人の“立つ鳥跡を濁さず”という当たり前な日本人の文化が理解されていないようだ。日本サッカー協会は組織的にやっているわけではないというが、今回W杯のいずれの試合後も同じ光景があったという。
 徳島県の東部に上勝町という人口わずか3千人あまりの小さな町がある。この町にはごみ収集車もなく、住民は徹底的にごみを再利用したあと自らごみ収集分別センターに出向き13種類45に分別、それを町がリサイクル・資源化する。この日本で初めてといわれる「上勝町ゼロ・ウエイスト宣言」はこれまで17年間も続け、今年11月には2030年に向け新たな挑戦を行うことを決めている。昨今、政府の気候変動対策には「資源循環型社会の構築」が決まり文句のように登場してくるが、もう一度こうした日本人の当たり前の文化を形にあるものとして前に進めたいものである。




常連「化石賞」の安易さと政府の沈黙
2023/01/20(Fri) 文:(水)

 エジプト東部のシャルム・エル・シェイクで開催されていた27回目の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)は当初予定の会期(2週間)を2日延長、11月20日に気候変動対策全般の強化を求める「シャルム・エル・シェイク実施計画」や2030年までのCO2等排出量削減計画の強化、途上国が強く主張していた気候変動の悪影響に伴う損失と損害支援のための「ロス&ダメージ基金」(仮称)の設置などが採択された。参加者の帰国チケット時間ギリギリまで最後の結論が出ないというのは毎度のことだが、それだけ全体合意の綱渡り状況が続いているのもこの国際会議の宿命とも言えよう。
 我が国からは西村明宏環境相を筆頭に外務省、環境省、経済産業省など10省庁の関係者、同時に開催されたサイドイベントには30以上の企業・自治体・団体・環境NGOが参加、温暖化対策への積極的な取り組みを発信した。なかでも我が国が海外環境協力事業として特に力を入れているパリ協定第6条規定の「二国間クレジット制度(JCM)」では、昨年のCOP26会合での日本主導による実施指針決定に引き続き詳細ルール(報告様式・記録システムの要件等)の策定を主導するなど、重要な役割を果たした(本誌でJCM実施企業の取り組みを連載中)。
 それにしても解せないのは国際的環境NGO(気候変動アクションネットワーク=CAN)が地球温暖化対策に後ろ向きな国にバッドジョーク賞として授与する恒例の「化石賞」の日本授与と、その妥当性をほとんど分析することなく毎回取り上げる大手メディアの報道姿勢である。同様に、授与に対して何の反応も示さない日本政府の対応だ。日本の化石賞授与は1999年のCOP5を皮切りに毎回のように受賞、今回も米国、ロシア、エジプトなどと一緒に名を連ねた。我が国はパリ協定の目標1.5℃に沿った削減対策を国あげて実施、毎年のCO2排出量は削減傾向になっているにも関わらず、恣意的な物差しで選定するというのは公平性を欠く。懸命に節電などを実践している国民からすれば授与は納得できるものでなく、環境省もその不当性を反論すべきだろう。
 ここ数年を見れば世界のCO2等排出量の約40%を占めているのは中国と米国であり、特に中国は28%強を占めしかも2030年まではまだ増やし続ける方針という。そうした世界最大の排出国・中国こそ授与国にふさわしいはずだが、最近自国に有利な国際世論形成に熱心な中国から鼻薬でも効かされているのだろうか。



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