今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去169〜184 回までの今月のキーワード]


石炭火力の新増設とバイオマス利用
2015/08/18(Tue) 文:(水)

 来年4月実施の全面自由化に伴う小売事業者の届出が今月から始まったが、小売事業者に電気を供給する発電事業者の電源開発を巡って環境省と経済産業省の対立が深まっている。従来の10電力会社の供給エリアを越境する自由化競争で新たな顧客を獲得するためには、安い電源コストの電力を調達することが不可欠で、その代表格が石炭火力発電だ。大手電力に加えて新電力も続々と石炭火力新増設を具体化、環境アセスメントの手続きに入っている。
 環境省によれば、大手電力の石炭火力新増設計画は現在約1300万kW、環境NGOなどの調査では中小規模も含め約2000万kWに達し、先ごろ経済産業省が決めたエネルギーミックス30年目標の石炭火力発電割合を大きく上回り、わが国が年末の気候変動次期枠組み交渉向けに提案した国際約束のCO2等削減目標達成に著しい支障を及ぼすという。発電量当たりのCO2排出量が圧倒的多い石炭火力計画に対しては両省が約2年前に関係局長間で合意、電力業界全体によるCO2削減のための自主的取組みの枠組みをつくるとしていた。先日、大手電力と新電力が合意したその枠組みが公表されたが、環境省は中身に実効性がなく不適切、経産省は最低条件を具備しており今後さらに肉付けしていけばよい、との認識だ。両省の評価は大きく異なっており、このままでは個別案件として手続きされている環境アセスのクリアが事実上ストップ、計画中止という事態も予想される。
 それにしても不可解なのは、石炭火力の導入拡大計画においてバイオマス混焼など排出CO2を一定程度減らせる有力方策の議論が一向に出ていないことだ。いま出ているのは最先端の発電技術である超々臨界圧や石炭ガス化発電などの採用や燃焼効率の改善による技術的な対応ばかりである。石炭とガスの混焼や一定の再生エネ電源の採用義務化、あるいはバイオマスエネルギーとの混焼など、この際開発中技術の採用だけではなく多様な方策を検討したらどうか。石炭火力のバイオマス混焼にしても、既設では3〜5%程度が設備面から限界とされたが、技術的な工夫が可能な新設では2〜3割の混焼が本当に不可能なのか。
 これが可能となれば、政府が「バイオマスニッポン」を閣議決定したのに関係省庁の縄張りから10年経ってもあまり成果のみられないバイオマス利用が抜本的に拡大され、安倍政権が力を入れる地域再生や地産地消にもつながると思うが、どうだろうか。



火山国の恵み、もっと活用を
2015/07/15(Wed) 文:(滝)

 JR東日本が年に数回売り出す「大人の休日倶楽部パス」は、中高年用の「青春18きっぷ」といったところか。18きっぷは普通列車限定だが、休日倶楽部パスは福沢諭吉と樋口一葉(つまり1万5000円)で、管内なら新幹線も4日間乗り放題だ。使わない手はない!
 梅雨空の今月初め、盛岡駅からレンタカーで国立公園・八幡平に向かった。山肌に残雪が残る緑深い道をくねくね登っていくと、巨大な電気スタンドの笠のような建造物が現れた。
 1966年10月に運転開始した商業用では日本で最初の、世界でも4番目という松川地熱発電所の冷却塔だ。地中1000〜1600mまで10本の蒸気井戸を掘り、約5万世帯分にあたる電気を生み出している(出力2万3500kW)。発電に使われた高温の蒸気は復水器で温水になり、高さ45mの冷却塔から自然落下して冷やされる。
 構内のあちこちから白い蒸気が噴き出し、シューシューと音がする。付属の資料館では、ビデオ映像やパネルで地熱発電の仕組みなどを紹介。中でも井戸掘削の苦労がしのばれる当時の記録映像が興味深かった。戦後間もなく松尾村(現・八幡平市)が温泉を掘ろうとしたところ、温泉の代わりに高圧・高温の蒸気が噴出したことが建設のきっかけという。運転開
始の66年といえば、ビートルズが来日して武道館でコンサートを開いた年。それから半世紀近くも地下のエネルギーを利用して発電を続けている。
 また、発電所の温水は八幡平市を通じ、パイプラインで地元の農業組合や温泉旅館、保養所、別荘などに供給されている。12km離れたハウス団地では温水がチューブで野菜・花きのビニールハウス内を流れ、冬期は周囲の融雪にも使われるという。
 200近い火山がある日本。昨年の御嶽山噴火で多くの犠牲者を出し、今年も口永良部島では島民全員が避難、箱根でも観光に悪影響を及ぼしている。だけど日本列島から逃げ出すわけにはいかない。禍わざわい
は最小限に切り抜け、恵みを最大限に生かしたい。日本の地熱発電の資
源量は世界3位、しかし実際に発電しているのはその50分の1程度にすぎない。見えない地中深くの熱利用、開発は長期になり技術的トラブルもあると聞くが、地元住民・環境と共生した地熱開発をもっともっと進めてほしい。



販売する電気に“色”をつけられるか
2015/07/01(Wed) 文:(水)

 電力・ガスシステム制度改革の総仕上げとなる電気事業法等改正案が6月17日の参院本会議で可決されて成立、来年4月から家庭用等の電力販売が全面自由化され、エネルギー大競争時代に突入する(ガスは17年度実施)。法律改正では20年に現在の大手電力会社を小売・発電・送配電部門に法的分離、22年に大手ガス3会社も導管事業部門が分離・独立する。
 こうした制度改革により今の電力・ガスの企業名も変わるほか、電力会社や一定規模以上の再生可能エネルギー事業者も小売と発電のライセンスを改めてとりビジネスを展開することになる。当然ながら、自由化競争では顧客のニーズを踏まえた目線に立ち、満足度を常に満たすサービスが必要となる。そうしたなか、国際環境NGOとして名高いグリーンピース・ジャパンが資源エネルギー庁と消費者庁に対して、小売会社を消費者が選ぶ判断材料として、販売する電気の「電源構成」「二酸化炭素排出量」「放射性廃棄物量」の提示を義務化するよう求めた。同団体が5月から集めた1万1556筆の賛同署名つきだ。
 3つの情報提供は技術的にはそう難しいことではない。ただ電気という商品は品質の違いで色分けできるものではなく、自分が使う電気がどんな電源によって生み出され、送電系統の中でどうミックスされ、どんな品質になっているかを正確に特定することは相当困難だ。どうしても一定の割り切りが必要となる。かつて東京都が再生エネ導入施策として、
青森県の風力発電からの電気を使用した事業者を優遇するような措置をとったことがあるが、それも電気に判別できる色がついているわけではなく、あくまでクリーン電気を使ったという「みなし規定」によるものだった。
 こうした事前情報の開示義務はすでに電力改革の制度を検討してきた経産省の審議会でも議論されており、委員になっている消費者団体などの代表は「分かりやすい商品を判断するのに不可欠な情報」の提供を要望していた。今後の審議で、経産省がこうした要望を認容するかどうかだが、仮にグリーンピースの主張を入れると原発やCO2の排出量が圧倒的に多い石炭火力から電気の供給を受けた電力販売会社は圧倒的に不利になりかねない。
 かといって、この時代に「品質表示」のない商品販売は許されない。
電気にどのようなみなしの「色」をつけるのか見ものだ。



痛快“啖呵”2連発
2015/06/17(Wed) 文:(滝)

 青、紫、赤錆色…アジサイが梅雨空に揺らぐ季節になった。
今月1日開かれた経済産業省の「長期エネルギー需給見通し小委員会」。「原発比率20〜22%」とする2030年のエネルギーミックス(電源構成)が事実上決まる大詰め会合とあって、多くの報道陣がつめかけた。
 役所が人選することで、役所の意見を公正に見せるための“隠れ蓑
みの”とも批判される審議会。会合では積極的賛成や「不満だけど…」が続いた中で、橘川武郎委員(東京理科大教授)ただ一人が「反対です」と明言した。「原発依存度低減と(より安全な)最新炉へのリプレースをセットにすべき。原発比率は15%程度とすべき」との意見には説得力があった。本誌冒頭の100号記念座談会にも出席いただいているので、ぜひ読んでいただきたい。
 その翌日は自民党本部で「原子力規制に関するPT」があり、旧原子力安全委員会委員長や原子力国民会議代表理事らはヒアリングで、「原子力規制委員会の審査に時間がかかりすぎている」「40年原則廃炉ルールは廃止すべき」などと話した。
 河野太郎議員が立ち上がって発言を求めた。「ちゃんとした有識者を呼んでほしい。原子力の世界は有識者もどきのような人がたくさんいて、俗に原子力村といわれるところで利権をむさぼる末席につながった人間がたくさんいる。またぞろそういう輩やからがはいだしているのが現実。そういう原子力村の人間を有識者と呼ぶのは誤りだ。3.11の反省に基づいて
原子力規制委員会をつくったのであって、しっかりと支えていくことが大事」「どの世論調査をみても国民の7割はどこかの時点で脱原発してほしいと願っている。自民党も東京電力福島第一原発事故のあと、責任を感じて特命委員会を立ち上げて30回以上議論してきた。そこでとりまとめたものが今の政権でないがしろにされている。喉元過ぎれば熱さを忘れる、でいいのか」原子力規制委による再稼動に向けた新規制基準適合審査、さらに審査書決定後、運転までの安全チェックに予想以上に時間がかかっているのは事実。これは、3.11以前はいかに規制当局と電力会社が“まあまあ”でやってきたかということの裏返しではないか。
 アジサイの花言葉は移り気、高慢など。原発政策に関してのどこかの政党のようだ。



両立するか、エネミックス実現と全面自由化
2015/06/03(Wed) 文:(水)

 2030年度のわが国におけるあるべきエネルギーの需給構成と温暖化ガスの削減目標達成を裏付ける「エネルギーミックス」(電源構成)が近く決定する。
 今回の長期エネ需給目標は、過去10回以上改定・見直ししてきた計画とは明らかに異なる事業環境が前提となる。目標の達成にはそこに向かう具体的な施策の展開とそれを担うプレーヤーが不可欠となるが、まだ見えていない。これまで供給に要するコストが総括原価方式によって保証され、参入等規制に守られて事業展開してきた大手の電力会社は、16年度から、ガス会社は17年度から小売り事業分野が完全自由化となって市場競争に突入、20年度からは免許制等による発送電分離、22年度からは大手ガス会社の導管部門分離が実施され、現在の事業形態が一変する見通しだ。
 事業環境の構造変化によってエネルギーミックスの実現が困難となる要素としては、第一に実効性ある具体的な施策の展開が可能かどうか、第二に業界に強い影響力を持つ主役プレーヤーが不在となる状況がある。前者については、従来は電力会社が10年間の電力供給計画( 需要見通しと電源構成) を策定して経済産業省に届出、その際に国の政策方針との整合性がチェックされていたが、制度見直しによってその担保措置が極めて弱くなった。
 後者については、この4月に火力建設・燃料調達新会社として誕生した東京電力と中部電力による共同出資の「ジェラ」を見るまでもなく、原子力部門を含めて業界の統合・再編成が進む見通しで、主役プレーヤー不在という状況も十分予想される。主役不在となれば、国の政策を実現する牽引力が著しく弱くなってしまう。
 国のエネルギー環境政策とは整合しない企業行動はすでに顕在化している。例えば相次いでいる大手電力や新電力による石炭火力計画の急増だ。コストの安い石炭火力立地を先行させて自由化競争で有利に立とうとするものだが、企業論理からすれば至極当然の対応ということになる。しかし、政策当局者からすれば、少なくとも30年以上にわたって稼働
する石炭火力は今回決める30年度のCO2削減目標26%(13年度排出量比) 達成の足を引っ張り、また環境アセスメント逃れの中小計画が20件以上あり、発電効率や環境保全面から危惧がある。果たして、エネミックスの実現と全面自由化は両立するだろうか。



 「さよなら原発」と言い続けたい
2015/05/13(Wed) 文:(滝)

 5月の連休中に2冊の本を読んだ。
 1冊は「ご当地電力はじめました」(岩波ジュニア新書)。著者の高橋真樹さん(41)とは昨年暮れ、市民ファンドで太陽光発電(PV)に取り組む会津電力(福島県)の現地見学会で知り合った。電話すると誠実そうな声が返ってきた。
 高橋さんは3年かけて国内外の再生可能エネルギーの現場を歩いたという。著書では、神奈川県小田原市の「ほうとくエネルギー」(行政と市民が手を結んでのPV事業)、過疎地で「小学校を残そう」と進める小水力発電(岐阜県・石徹白「いとしろ」集落)、一軒の屋根から始まっ
たPV事業「相乗りくん」(長野県上田市)――など多くの事例を紹介。「大企業が地方の遊休地にメガソーラーを作っても、その地域は変わらない。そこに住む人たちが自分たちのこととしてエネルギーを考えることで変わっていく」と高橋さん。「人も地域もそれぞれ違う“色”が感じられた。ただ、そうした地域に共通して住民同士の絆があった」と振りかえる。
 もう1冊は、27人のメッセージと写真からなる「NO Nukes ヒロシマ ナガサキフクシマ」(講談社刊)。広島と長崎に原爆が落とされた66 年後に福島原発事故が発生、ヒロシマ、ナガサキに続いて福島がフクシマになった。27人は、「8月のあの日」を忘れられない被ばく者、福島で有機農業に取り組む農家、物理学者、詩人、俳優、大学生たち。生い立ちも職業も年齢も違うが、核兵器と原発をなくしたいとの思いは共通している。
 坂本龍一さんは訴える。「人類は、兵器としてであれ発電としてであれ、核とは共存できないことを全世界に訴えることが、三度も大きく被ばくした唯一の国としての、国際社会に対する貢献であり、責任だと思います」。
 渡辺謙さんは書いている。「『原子力』という人間が最後までコントロールできない物質に頼って生きていく恐怖を味わった今、再生可能エネルギーに大きく舵を切らなければ、子どもたちに未来を手渡すことはかなわないと感じます」。
 吉永小百合さんは記している。「原子力発電の恐ろしさがほんとうに分かったのは、福島第一原発の事故があってからのことです。それまでは、たとえば核のゴミということについてもよく知らずに暮らしていました。私は、そのことへの反省の気持ちも込めて、『さよなら原発』と言い続けたい」



地域創生にエネルギー収支見直しを生かせ
2015/04/23(Thu) 文:(水)

 自立的な地産地消を目指して再生可能エネルギー導入に取り組んでいる徳島県佐那河内村という農村地域がある。徳島市に隣接、人口2700人・933 世帯の小さな村だが過疎化が進行、村経済は崩壊の危機にあるという。そこで「村風車」と呼ぶ、風力発電事業(1300kW×15基)による村おこしに奔走したのが、花屋さんと自治体職員OBと徳島再生可能エネルギー協議会の豊岡和美理事だった。花屋さんは商売でのノウハウを生かした先行投資のリスク分析、OB職員氏はかつてこなした補助金事務、これに地元金融機関も全面的に協力、年間20億円の経済効果をもたらす事業に発展させた。「佐那河内みつばちソーラー発電所」(計100kW)と名付けた地域還元型PVも昨年3月に発電を開始、30軒分の電気を創り、年間8500万円の経済効果と約50tのCO2削減に貢献するという。
 「環境首都水俣創造事業」を2012年から進める熊本県水俣市は市内におけるひと・もの・カネの流れを通して地域の経済循環を分析、電気やガソリン代等で年間約86億円が市外流出していることを突き止めた。そこで、これら費用を市内に還流させるべく住民参加によるバイオマス発電所やPVを設置、地域の雇用創出と産業クラスター形成によるエネルギー
収支改善に挑戦中だ。環境省が発表した地域エネルギー収支評価=「経済の健康診断」(全国1800自治体を対象にした地域経済循環分析) に発展した。もう一つ、東北経済産業局がPV設置による地域経済への波及効果を調査したところ、事業総額の80%相当が東京などに本社のある大手企業・メーカー関連に流れ、域内経済に還流したのはたったの20%程度しかなかったという。同局の関係者は今後の再生エネ事業展開には、国の認定業務に地元優先枠の設定や地元企業出資の条件付けなど、何らかの制度見直しが必要と指摘する。
 現在のFITには一般の人や企業が薄く広く負担した賦課金を大企業やメーカーなどに配分、長期間にわたって利益を保証するという一方通行の構図がある。これでは地方は大資本に利用されるだけで、地域経済活性化のためにひと・もの・カネはうまく還流せず、本当の意味での地産地消にはなりえない。上に見たように、地域自ら是正しようとする動きが始まっているが、それを一過性に終わらせることなく、全国大にしていくことは地方創生を進める国の大きな責務でもあろう。



お彼岸に手向けられた花…福島で考えたこと
2015/04/01(Wed) 文:(滝)

 除染を終えて3月1日に全線開通したばかりの常磐自動車道を仙台まで車で走った。福島県の常磐富岡―浪江IC間14.3km 中、大熊・双葉町内の帰還困難区域9kmを通過する。
 沿道には汚染土壌などが入れられた黒い袋が整然と積まれ、点々とつらなる。また、空間線量率の表示板が数キロおきに立てられ、最大値は5.4 マイクロシーベルト(μSv/h)だった。パーキングの掲示説明によると、「広野〜南相馬IC(約49km)を時速70kmで走ると0.37μSvの被ばくを受ける」計算で、これは胸部のレントゲン撮影の約160分の1レベルだという。放射能に対しては“正しく恐れる”ことは必要だが、過剰な反応は戒めるべきだ。
 高速を降りて6号線を走ると、立ち入り禁止の柵が並び、入れる道では警官がチェックしている。お彼岸の墓地に並ぶ墓石の1つだけに白い花が手向けられていた。理不尽にも住まいを追われ、今も帰れない人たちのことを考えると胸が痛んだ。
 一方、県内の汚染土壌などの中間貯蔵施設への搬入が13日から始まった。両町内に運び込まれる汚染廃棄物は2200万m3、東京ドーム18杯分にもなる。それを30年後には県外搬出すると法律でも明記した。しかし、県外のどこに持っていくのか。「取りあえずなんとか言いくるめよう。努力はするけど、30年後のことは知らないよ」という政治の無責任さが聞こえてくるのだが…。現実的に考えてこの地を最終処分場にするしかないし、誠意を込めて地権者に粘り強く説明し、十二分な補償を行うべきだろう。宮城、栃木など5県の最終処分場建設問題も難航しているし、候補地の反対住民を「地域エゴ」とは言えないだろう。福島の「中間貯蔵施設」に運び込むのが一番すっきりすると思ってしまう。
 老朽原発5基の廃炉が決まった。原発が危険なのはいったん事故が起きるとその被害は広範囲で数世代にもわたることだ。使用済み核燃料など「核のごみ」処分地選定も全く見通しがたっていない現状からも、原発の再稼動は最小限にとどめるべきではないか。
 温暖化問題を考えると、その分を埋めていくのは火力よりも再生可能エネルギーだろう。
 しかし、再生エネの比率が3割前後と高いEU諸国に比べ、まだまだ低い日本で「変動型の太陽光や風力はお天気次第、不安定で当てにならない。接続制限しなければ停電を引き起こすこともありうる」との批判がなされてきた。最近は「15年度の賦課金は標準家庭で月額474円、前年度の2倍になった」との批判も加わった。考えようによっては500円玉1個、脱原発のためなら安いものではないか。原発と再生エネを対立させて考えるのではなく、将来世代を考えた現実的で理念のあるエネルギー政策を期待したい。



所沢・エアコン住民投票で問われたもの
2015/03/18(Wed) 文:(水)

 埼玉県の所沢市で先月、小中学校の教室にエアコン設置を認めるべきかどうかの住民投票が実施され、設置に賛成票が有効投票数の64.8%を占めた。市議会が議決した住民投票条例には「結果の重みを斟酌しなければならない」との規定があるが、その前提の有効投票数が投票資格者の1/3という条件に満たなかったため(投票率は31.54%)、藤本正人市長は今後の方針をまだ示していない。終戦前後生まれの昭和世代には窓を閉め切った冷暖
房付き教室なんかとても思い浮かばない光景だが、時代が変わったと言うことか。
 この住民投票では3つのことを考えさせられた。1つは、便利さと省エネルギー( 減エネ)のバランスをどうとるかという問題だ。29校のエアコン導入に待ったをかけた藤本市長の「東日本大震災を経験し、快適さと便利さを求める生活習慣を見直すべきだ」とする主張も同調できる。おそらく、市長は3.11後の不安定な電力供給と福島原発事故による多数の被
害者に思いをはせ、電力大消費地はより多く節電・省エネを実行すべきと考えたのだろう。
 対して、エアコン導入派の市民グループは近くにある航空自衛隊入間基地の騒音問題を念頭に、「エアコンがないと騒音で勉強に集中できない」と住民投票に持ち込み、市民多数の賛成を獲得した。確かに、入間に限らず横田など駐留米軍基地も含めて、戦闘機の往来や訓練などによる基地騒音は今も尋常ではない。その地域に行くと分かるが、手の届くような高さを黒っぽい巨大戦闘機が爆音とどろかせながら何機も飛んでいき、その周辺では日常的な会話すらできない。2つ目だが、わが国の基地騒音問題は沖縄県内での深刻さを見るまでもなく、この10年来行政的な対応が遅々として進んでいない。
 3つ目の思いは、経済産業省が検討中の中長期的なエネルギー構成のあり方で、省・減エネルギー社会の再構築を是非とも今後の施策の柱にしてもらいたい。従来の省エネ施策は「我慢を強要せず、快適な環境を維持して実践」を基本方針としていたが、そうしたやり方でよいのかどうか。3.11発生から4年目になったが、未だに22万人余の避難生活者や行方不明者2584人もいる。そうした犠牲者に報いるため、そしてさらなる深掘りを目指す意味からも“快適な省エネ実践”はもう一度考え直してみるべきではないか。



環境大臣殿、再生エネ普及の熱意が疑われます
2015/03/04(Wed) 文:(滝)

 「自分でつくった電気を使うのはわくわくする。節電はしても我慢はしていません」。2月中旬のある日、横浜市内で開かれたオフグリッド住宅の見学会に参加した。
 JR東海道線戸塚駅からとことこ歩いて、田畑が見え始めたあたりにSさん夫妻の木造2階建て住宅が建っていた。昨年9月に完成した住宅の屋根には太陽光発電(PV)パネル8枚が取り付けられているが、送電線には接続されていない。「お天気が悪い日が続いたら停電するのでは?」と聞いたら、家の裏にある物置を見せてくれた。大きな鉛蓄電池が24本、「全てフォークリフトで使われていた中古品で合計27kWh蓄えられる。わが家の4日分です」「リチウム電池の新品なら数百万円するけど、中古の鉛電池なので約55万円。パネルや工事費など電気の完全自給費用はひっくるめて220 万円ほど」。
 30代前半の2人、きっかけはやはり東京電力福島第一原発事故だという。「原発や(CO2を出す)石油・石炭で発電された電気を使うことに後ろめたさがあった。でも、電気は暮らしに便利。自給することでそうした思いから開放されて使える」と話す。室内にはエアコンも冷蔵庫も洗濯機もある、それでも便座ヒーターは切っておくなど節電に努めている。
本誌で好評連載中の「足元からeco!」でも感じるが、「電気は電力会社から買うもの」との“常識”から「自分でもつくってみる」にしたら視野が違って見えるのだろう。
 エネルギーミックスの議論が経済産業省の審議会で始まった。再生エネも原発もそれぞれの特徴を生かして“共存”が図れると思うのだが、審議会を傍聴していて委員の構成や事務局資料など原発推進派に有利な“さじ加減”で進められているように感じてしまう。
 そうした中、納得できない出来ごとが報道された。環境省が昨年12月に開いた再生エネの普及可能性検証検討会に提出した内部資料では、20年のPVの設備量は5283万kW(経産省は2369万kW)、30年の風力は2280万〜 3250万kWで経産省の620万〜1250万kWの数倍となっている。環境省が電力の広域運用を前提にして原発も昨年5月までに再稼動申請をした分で計算しているのに対し、経産省は3.11前と同じ前提で計算していることなどが原
因という。どっちの数字がより信憑性があるのか、堂々と議論を戦わせればいい。だが、国会で質問された望月義夫環境相は「数字が一人歩きすると他の省庁となぜ違うのかとなる」として資料を明らかにしなかった。国民の再生エネへの期待より、他省庁から批判されるのが怖いのだろうか。情けない話だ。



2050年に再生エネ70〜90%可能という提案
2015/02/18(Wed) 文:(水)

 経済産業省の有識者会議で中長期的なエネルギーミックスの議論が始まった。この議論では昨年4月に政府が決めたエネルギー基本計画に基づき、「原子力発電の依存度低減」と「再生可能エネルギーの最大限導入」という方針を具体化させ、地球温暖化の進行を食い止める火力・原子力・水力・再生エネの構成割合とその道筋を明らかにする必要がある。
 ミックス策定の対象時期は2020〜30年頃と想定されているが、50年も地球温暖化の進行を阻止するためには重要なターニングポイントであり、それへの対応も視野に置いたものにする必要がある。温暖化ガスの排出削減を検討中の国際交渉では、当面30年目標の各国削減対策が焦点になっているが( 今年末にパリで決定予定)、IPCCは温暖化による被害を緩和するためには、50年以降全世界CO2等排出量を現在の50〜80%まで減らす必要があるという科学的な根拠を示している。我々が使う末端のエネルギーは大半が現在は火力発電や石油・ガス会社等から供給されており、そのための発電・供給インフラ施設は道路や住宅等を新設するのと同様で30〜40年間も稼働し続け、期間途中での改廃が極めて難しいからである。
 2月3日、自民党の再生可能エネルギー普及拡大委員会(柴山昌彦議員・委員長)が開かれ、講師として出席した三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏(LCSセンター長) が再生エネの中長期的な導入可能性を述べ、十分安価な価格と低コストで30年には全発電量の20%以上、50年には70〜90%程度の供給が可能であると断言した。これの実現には当然ながら前提条件があり、例えば太陽光と風力の発電コストは30年には9.8円/kWh 程度、50年に
は9.1〜10.6円程度と、パネル等の技術革新さらには量産効果などにより現在のコスト水準を確実に低下できるという。50年に再生エネが70〜90%になると今問題となっている送電系統の負荷制御をどうするかだ。これは供給制御をコスト0.7円/kWhと試算した蓄電池が全面的に担い、この先期待される日本の優秀な蓄電池の技術革新からみればほとんど心配することはないとする。ちなみに、再生エネが50年に70〜90%になるとCO2排出量
は05年比で15〜22%相当に激減、上述の国際的な削減要請も十分可能になるという。
 ミックス論議は短期的な安定供給のみにとらわれるのではなく、わが国のエネルギーと環境問題への将来道筋をしっかりとつけてほしい。



遅れた春、いよいよ風力の出番だ
2015/02/04(Wed) 文:(滝)

 会場は熱気にあふれていた。先月21日に開かれた日本風力発電協会の賀詞交歓会、前年を大幅に上回る430人が集い、衆参国会議員6人が次々と祝辞と風力発電応援の弁を語った。
 FITに“置き去りにされた”風力発電に遅い春がやってこようとしている。風力発電は2006年度から10年度にかけて、毎年度18万kW〜40万kWが新規導入され、順調に伸びてきた(10年度の累積導入量247万kW)。しかし、FIT施行前年の11年度は8万1000kWにガクッと落ちた。12年度は8万6000kW、13年度も6万5000kWと3年続けて10万kWに届かなかった。その間に太陽光発電(PV)が爆発的に増え、14年10月現在で住宅・非住宅合わせて6893万kWもが設備認定されている。
 風力発電協会によると、風力の導入が進まないのは皮肉にもFITによってだ。FIT以前は建設費の3割前後の補助金が出ていたが、固定価格で買い取るFITが施行されるからと11年3月末で打ち切りになった。12年7月にFITがスタートしたが、同年10月には環境アセスが義務付けられ、それまでの自主アセスに比べ倍となる4年以上かかるようになった。環境省はアセスの迅速化に乗り出しているが、軌道に乗るにはまだ時間がかかりそうだ。現在、なんと620万kWもの風力がアセス待ちとなっている。
再生エネ先進地の欧州では風力が主流だ。デンマークやスペインでは風力だけで国の年間電力使用量の2〜3割をまかなっている。再生エネの発電量比率が約28%のドイツでは、そのうち風力は12%でPVの7%を上回る。コストが安い風力から普及が進み、足りなければ別の電源を利用するのが基本だが、日本ではそうはならなかった。「主役」が足を引っぱられ、「脇役」が一気に突っ走ったということだろうか。
 風力発電にも問題はある。景観、騒音、そしてバードストライクだ。日本野鳥の会の研究で、01年から14年3月までに確認されただけで国内で300羽がバードストライクで死んだという。うち天然記念物のオジロワシなど絶滅危惧種が6種計42羽だった。私はこの程度はやむをえないと思うのだが…。
 FITの省令・告示改正が1月26日に施行され、PVの“道連れ”で風力も出力抑制対象になった。ただ、買取価格は下げられずにすみそうだ。14 年度の風力導入量が21万5000kWと前年度の3倍以上になる見通しなのは明るい兆しだ。
 4日は立春、風力発電の『春』が待ち遠しい。



ゴミ発電の最大限活用に知恵を絞ろう
2015/01/15(Thu) 文:(水)

 再生可能エネルギーの普及拡大は昨年後半における送電系統の制約問題から、従来の太陽光発電偏重が見直され、風力や地熱などの事業展開の環境整備に政策展開の軸足が移りそうだ。ただ、風力発電の拡大は依然として系統強化や環境アセスの制約、地熱は大型案件の場合に国立・国定公園との調整が難しく、かつ発電開始まで最低5年以上要するなど時間がかかる。
 そこで、再生エネ拡大の即戦力となりかつ電力供給と熱利用の両方が容易に可能となる一押しの施策として「廃棄物発電」の抜本的な拡充を提案したい。焼却となる廃棄物には、生活系ゴミなど自治体が責任を持つ「一般系」のゴミ焼却施設が全国に1188施設、うち回収エネルギーを発電等に活用しているのは約27%の317施設。総発電能力は約175万kWに過ぎない。導入割合はまだ小さいが、近年は中都市以上の日量200〜300t規模のゴミ処理を行う自治体では発電等エネルギー回収設備をつけるところが増えている。再生エネ固定価格買取制度でゴミ発電からの電気が買取の対象になっているという追い風もある。
 しかし、廃棄物焼却におけるエネルギー回収利用にはまだまだ多くの課題がある。一つは、かつてダイオキシン対策として整備した焼却炉の老朽化(築20年超=379施設、30年超=169、40年超=9)が著しく、更新時期を迎えているものの予算措置のきびしさや周辺住民との軋轢などにより建て替えが順調に進んでいない。二つは、中都市以下のゴミ処理量が相対的に少ない自治体でのエネルギー回収事業がほとんど実現していない。三つ目は、稼働中のものも含め焼却施設の発電効率が10〜16%程度と極めて低く、これを最新鋭の設備に更新して21%まで引き上げ、投資回収を高めることが課題だ。この発電効率の低さは大半が発電だけで熱利用のスキームがないことにも原因がある。また一般ゴミは季節によって水分を多く含み燃焼効率が著しく悪くなるという特性もある。
 近年は公共的な施設などを街中に集約してスマートなエネルギー利用を実現するコンパクトシティ構想が進められているが、その中に地域分散エネとして活用できる発電・熱回収設備つきの最新の廃棄物焼却炉を組み込んだらどうか。最近の焼却炉は高性能化が進み環境対策も万全で、近隣に迷惑をかけるような事態は皆無に近いという。運搬・搬入の問題は残るが、街中に設置されれば電気・熱利用もロスなく効率的に利用できてそれが地域への貢献にもなるのではないか。――今年も変わらぬご愛顧のほどを。



工夫こらし電力自給目指す、会津の挑戦
2014/12/17(Wed) 文:(滝)

 たわわに実った柿の実が雪をかぶっている。1月後半になると山沿いで2m、町中でも50〜60cm は積もるという。市民ファンドで出資を募った会津電力鰍フ現地見学会に参加、12月上旬の福島県・会津を訪れた。
 10月末に完成したばかりの雄国ソーラーパーク(喜多方市)は、会津盆地を見下ろす丘に3740枚のパネルがうねる。出力1000kW、会津初のメガソーラーで一般家庭約300世帯分の電力を生み出している。木造の体験型学習施設も併設され、再生可能エネルギーについての説明などが掲示されている。
 特徴的なのがパネルの高さと傾き。真冬でも雪に埋まらないよう、全てのパネルが高さ2.5mのパイプの上に設置されている。また、太陽光を直角に受けるほど発電効率は高いため通常は5〜6度だが、ここでは30度で設置されている。「夜に雪が降って朝太陽が出るケースでは、30度傾斜だと11時ごろに雪が滑り落ちる。35度にすると10時に早まるが、春から秋にかけての効率を考えると冬季の1時間は仕方がない」と若い社員が説明、「実際にパネルを設置して1年半かけて試験した。雪国でも十分PVができることが証明できた」と顔を輝かせる。さらに、雪が滑り落ちやすいようにパネルの溝をシリコン樹脂で埋めた。土台も費用がかかるコンクリートではなく、パイプを地中深く打ち込むことで十分な強度になることを確認したという。
 社員14 人の会津電力が立ちあがったのは昨年8月。その中心になったのは、喜多方市にある「大和川酒造」の佐藤彌右衛門社長(63)。江戸時代の寛政2(1790)年創業という造り酒屋の9代目だ。「水と食料さえあれば大丈夫と安心していたが、3.11の原発事故では会津も放射能でダメになるかと思った。それまで原発を止めてこなかった責任は私たちにもある」「エネルギーを電力会社任せではなく、自分たちに取り戻すことが大切。まずは入りやすいPVから始めたが、これからは風力や小水力にも取り組む」と熱く語った。
 会津は見みしらず不知柿の産地として知られるが、夜の交流会で摘果など世話をする人手がなく放置されたままの柿の木が多くなっていると聞いた。息子や娘は首都圏や仙台に出たまま戻らず、人口は毎年減っているという。白い雪と赤い実、日本の原風景のような美しい風景の裏で進んでいる過疎化に胸が痛んだ。蔵の町・喜多方には10軒の造り酒屋がある。ニ
シンの山椒漬けを肴に地酒をちびちびいただく。酔いが回ってきた頭で、豊かな会津のエネルギー自給と地域の活性化を願った。



総選挙で再生エネ関連票が動く?
2014/12/03(Wed) 文:(水)

 消費税10%への引上げ先送りや経済政策の一枚看板としていた「アベノミクス」などに対する国民の信を問うとして衆議院が解散され、今月14日に投開票が行われる。
 今回の総選挙では原子力発電の是非が与野党間での一つの争点になっているが、再生可能エネルギーが今後の政策としてどう展開されるかも投票で支持者を決める重要な判断材料になりそうだ。特に、この9月から大手電力会社(北海道、東北、四国、九州、沖縄)による系統接続保留措置が実施され、年内にその再開方針が示される予定であり、中小の事業者にとってはこれが死活問題にもなる。一方で、電力各社への接続申し込みでは多く
の与党議員が紹介や仲介の労をとった経緯もあり、支持者のつなぎ止めの面からも早期の決着が必要という事情もある。
 現在の再生エネ設備の認定規模は、累計で約7000万kW超と10年先の暫定的な導入水準を上回る勢いとなっており、それに応じて再生エネ関連の市場も今や大きな経済圏になっている。例えば太陽光発電市場の場合、経産省調べによるとパネルの2013年度出荷量は約900万kW、累積では1800万kW あり、その市場規模は約2.5兆円にものぼるという。これの雇用創出効果は約20万人といわれ、末端の施工工事関係や家族なども含めれば3倍以上
になるかもしれない。今回の選挙で、こうした関連事業に関わる有権者が今後の政府や与野党の対処方針を自らの利害得失と絡めて、重要な判断材料とすることは想像に難くない。
 その結果、「再生エネ関連」というまとまった票が動き当落に影響する可能性もある。
 総選挙に臨む与野党もそうした重要性を十分意識してか、解散の直前に系統連系の保留問題などへの対処方針を公表、自民党は原子力政策・需給問題等調査会が「できる限り多くの接続可能量を確保し早急に保留解除」などの方針を示した。また、原発対策の一環としていた再生エネの検討機関を独立させ、安倍政権が重視する地方創生とイノベーションの柱にすることも決めた。一方、民主党も直嶋正行・エネルギー総合調査会長らが会見、「即時の接続保留解除と接続保留に関する要件の厳格化」などを求めた。
 エネルギー問題での争点は「脱原発」だけではない。資源のないわが国はこの先何十年も再生エネと付き合わざる得ないのは自明であり、すでにここまで成熟してきた産業になってきた今こそ、部分的な系統連系問題を超える思い切った“重要電源”としての方策を示してもらいたいものである。



原発再稼動・・・「地元」とは?
2014/11/19(Wed) 文:(滝)

 帰りの電車で酉の市の縁起熊手を持った人を見かけたら、家には喪中ハガキが届いていた。年の瀬までもうすぐ、いつの間にかそんな季節になった。年明けと見られる九州電力川内原発の再稼動に鹿児島県の伊藤祐一郎知事が同意を表明した。薩摩川内市の同意が先月28日、宮沢洋一経産相が鹿児島県を訪れて協力要請したのが3日、九電社長が周辺8市町を回って地ならしを終えたのは4日、そして県議会とそれを受けての知事同意が7日。9月10日の審査書決定から2ヵ月足らず、レールに乗って突っ走ったかのようなスピード合意だった。法律で定められていない地元合意の範囲について、伊藤知事は「原発が立地する薩摩川内市と県だけ」と早くから主張、知事が臨時県議会の早期開催を強く働きかけたという。まるで地元合意のモデルケースにしたいかのようだ。
 しかし、原発の最大の問題点は重大事故が起きた場合に影響が広範囲に及ぶことにある。東京電力福島第一原発事故の際には30`圏外の多くの人たちも避難を余儀なくされた。千葉県内にある私の居住市もわずかだが汚染され、いまだに草木は一般ゴミとして出せない。
 最新の朝日新聞世論調査では「再稼動同意は立地自治体と県だけ」としたのは14%で、「30`圏内の自治体と県」は72%となった。当然で健全な世論だと思う。
 私自身は再稼動そのものに反対ではない。原発の危険性は現実的にはかなり低いだろうし、地元を含めた国全体の経済への影響も考慮しなくてはならない。ただ、原発なしで今年の冬も夏も乗り切ったのは事実。国内の原発16原発48基のうち、運転から40年前後の古いものは廃炉にし、残りの原発も安全で効率の良いものに絞って再稼動に動くべきではないか。その際には少なくとも30`圏内の自治体・住民に説明すべきだ。同意の範囲が広がって再稼動のハードルが高くなっても、時間をかけて説明し納得してもらうしかない。
 一方、「30年以内に中間貯蔵施設から福島県外に搬出して処理します」、そんな法律が先日衆院で可決された。30年後に汚染土などを受け入れる自治体があるのか、海に捨てるわけにもいかないだろう。「やはり他は受け入れてくれません。30年前に約束したのですが当時の関係者はいないし…」とか言って、“あめ玉”を差し出すのではないか。本誌前号の「イチオシ施策」に福島県が登場、「震災復旧へ再生エネ先駆けの地を目指す」と意気込みを示してくれた。しかし、いま再生エネには暗雲がかかっている。真に福島の復興を考えるなら、原発再稼動に血道をあげるのではなく、わずか2.2%の再生エネ普及の環境を整備し、福島を始め全国で10 倍、20倍に増やしていくことではないだろうか。



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