今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去154〜169 回までの今月のキーワード]


FIT法改正で再考する再生エネルギーの価値
2016/04/28(Thu) 文:(水)

 再生可能エネの固定価格買取制度(FIT法)を定めた「再生可能エネルギー電気調達特別措置法」の大幅改正案が通常国会に提出され、今月下旬にも衆院で実質審議に入る見通しだ。審議日程が相当窮屈のため成立するかどうかは微妙という。仮に今国会で継続審議になったとしても、政府・与党はエネルギー政策推進の観点から法改正は不可欠としており、今年中には成立させる方針を示す。
 制度見直しのポイントは@発電事業実施可能性の確認と認定済み太陽光発電(PV)の未稼働案件取消措置の導入、A事業実施中における点検・保守や設備撤去等の順守義務、B中長期的な買取価格の目標設定と価格低減のスケジュール提示(大規模PVに対する入札制導入等)、C地熱・風力・中小水力・バイオマスの導入拡大措置――など。要は、従来の再生エネ市場拡大のためにとっていた高い買取価格の設定や事業参入の容易さなどの優遇策を大きく転換、再生エネ事業者に自立化と規律を求め、国民負担の軽減と関連ビジネスの一本立ちを促すものだ。
 とはいえ、2012年に施行されたFIT導入後の再生エネの拡大テンポとエネルギー供給面、さらにわが国のCO2削減に果たした役割は極めて大きかった。PVの累積導入量は制度施行後に約4.2倍、風力発電は1.1倍、バイオマスは1.36倍と増大。原発停止後の電力供給確保と輸入燃料代の削減などに確実に貢献した。先日示された16年度の電力需給見通しによると、PVの供給力(高需要が発生した日に確実に見込める分)は旧大手電力9社計で約737万kWあり、実に原発7〜8基分に相当する規模だ。
 それだけではない。わが国の一次エネルギー自給率は永年先進国中最低水準といわれ続け、それでも3.11前は準国産エネルギーとカウントされた多数の原発稼働があったことにより約20%台を維持していた。それが13年には6%に激減、しかもその中では再生エネ+水力が78%を占めるほどのなくてはならない存在だった。ISなどによるテロが頻発して、いつ中東情勢が激変するか従来の地政学では予測不可能な時代にあるだけに、自給率の引き上げは待ったなしの政策課題でもある。確かにわが国のPV買取価格がドイツの約2.5倍、イタリアの約1.4倍もする現状は早く是正されるべきだが、再生エネが持つ多様な価値と役割まで今回の見直しで削いでしまっては元も子もなくなる。



忍び寄る大手電力のもう1つの経営危機
2016/04/01(Fri) 文:(水)

 戦後の電気事業改革で最大といわれる電力小売り全面自由化が4月から始まった。来年には都市ガスも自由化時代に突入、2020年には大手電力の発送電分離が予定され、国の経済の血液といわれるエネルギー市場はわが国初の戦国時代を迎える。
 3月30日現在、家庭用等に小売り供給できる登録事業者は266社になったが、実際に新規顧客へ供給できる電源を確保し、資本力と経営安定性(売上高100億円以上)のある新規参入企業は10%程度とみられており、これら企業が大手電力と顧客の争奪戦を繰り広げる。異業種からの参入は登録事業者の売上高トップが石油元売最大手のJXエネルギー(8兆1500億円)で、これに丸紅等の総合商社系、通信系、東京ガスなどが続くが、東電や関電管内など都市圏での競合が大半だ。これに地産地消電力も加わり、従来の大手電力による供給シェアは確実に奪われ、経営上の危機ラインといわれる10〜20%以上の顧客喪失が現実化するかもしれない。
 大手電力のもう1つの危機は、現在供給力の87%を占める火力発電の保有と稼働が将来的に収益性のある姿で維持できるかどうかだ。政府の30年における電源見通しでは、国際的なCO2削減目標達成のため30年に非化石燃料の割合を全電源の44%(化石電源等は56%)としたが、この水準をはるかに上回る事態も予想される。ところが、わが国では大手電力を中心に石炭火力約1800万kW+LNG火力約2900万kWの計4700万kWの新増設計画がある。これらは30年代以降も稼働予定するが、果たして採算性ある稼働率を確保できるのかどうか。新増設計画には一部老朽化した設備の更新も含まれているが、再生可能エネルギー電源の急増や電力需要の自然減、さらには省エネの固定化した持続と省電力の経済価値化などから見れば明らかに過剰な投資計画になっている。
 先日米国のロックフェラー財団が運用する基金で、投資先だった石油メジャーのエクソンモービル株式を売却することを決めたとの報道があった。理由はもちろん気候変動の原因である化石燃料ビジネスからの撤退だが、こうした動きは欧米ですでに加速化している。電力自由化と再生エネ導入が飛躍的に進み、今や火力電源割合が供給量の約8%まで落ち発電所売却もうまくいかず経営危機にあるドイツ電力会社の二の舞にならないか、懸念される。



3.11から5年、フクシマはいまも…
2016/03/25(Fri) 文:(滝)

 あの3.11から5年になった。宮城・岩手の被災地では地震・津波の爪跡は深く残るが復興に動いている。だが、福島では東京電力福島第一原発事故による被災が今も進行中だ。
 先週末、ドキュメンタリー映画「大地を受け継ぐ」を観た。原発から65qも離れた福島県須賀川市の農家を学生たちが訪れ、8代目となる樽川和也さん(40)の話を聞く。「父は農薬を極力減らして安全で美味しい野菜づくりに取り組み、寒キャベツは甘くて学校給食で喜ばれていた」。しかし突然の福島第一原発からの放射能によって田も畑も周辺の林も汚染された。農協から野菜出荷停止の通知が来た翌朝、父親は自ら命を絶った。会社を辞めて農家を継いだ和也さんに詫びの言葉と腐らすしかない7500個のキャベツを残して…。
 東電からは汚染の慰謝料として事故の年に8万円、翌年に4万円だけ支払われただけ。農産物への賠償としては、事故以前の販売実績価格との差額が支払われる仕組み。「天候不順でキュウリが全国的に高騰した時、福島産が他県産より安くしか売れなくても事故前よりは高いからと支払われなかった。米はここ2年間放射能が検出されていないが市場で買いたたかれ、(産地を表示しない)外食産業とか病院に流れる」。樽川さんは、自分は食べたくないと思いながら生活のために出荷せざるを得ない葛藤を抱きながらも、先祖代々の土地を守りたいとの思いで毎年、耕しては放射能吸着剤をまく。
 大津地裁が関西電力高浜原発3、4号運転差し止めの仮処分を決定した。原子力規制委員会のお墨付きよりも、安全に不安を抱く市民感覚に共感した決定といえる。規制委の田中俊一委員長は毎回「新規制基準に適合しただけで、安全とは言っていない。リスクを下げるための審査だ」と言っている。だが、「規制委の審査パス=安全」と政府などは強弁する。安全だから再稼動するのではなく、「重大事故の可能性はあっても、エネルギーの安全保障や電力会社の経営のために再稼動する」と正直に言うべきだし、それは1つの考えとして間違っていない。
 川内原発を再稼動した九電は免震棟建設を撤回し、再稼動を急いだ高浜4号は3日後に緊急停止。東電は炉心溶融マニュアルに5年間気づかなかったという――こんな体たらくが続けば、「電力会社の安全は口だけ」として、“仮処分リスク”は高まるだろう。電力会社の経営者はフクシマで今も、そして何十年も続く原発被災者の苦しみを知るべきだ。



ドイツ・シュタットベルケ化への期待と不安
2016/02/29(Mon) 文:(水)

 電力の小売り全面自由化と2020年に予定されている大手電力9社の発送電分離は、市場での価格競争による顧客獲得だけではなく、今後のエネルギー供給形態と事業主体が大きく変化することを意味する。そこで従来にも増して注目されているのがエネルギーの地産地消を旗印に、自治体主導で地域の電力会社やエネルギー供給会社を設立する動きだ。その事業主体がエリア内の電力需給等をコントロール、同時に域外に大半が流出していたエネルギー関連支出を地域内に還流させ、地域経済の好循環を創出させようというもので、日本全体で約18兆円といわれる市場の一角を地域に取り戻す挑戦でもある。
 この新事業でひな型にされ、かつ今後も推進されるとみられているのが「ドイツ・シュタットベルケ」と呼ばれる方式だ。シュタットベルケとは市や民間企業が出資する公的な地域インフラサービス会社を指し、電力・熱・水道・ガスの供給とメンテナンスやエネルギーの消費診断まで行う。ドイツ国内には約900もあって長年の経営実績が地域住民の信頼を獲得、電力の完全自由化後も衰退することなく大手電力会社と十分伍しているという。
 2月中旬に開かれた自民党の再生可能エネルギー普及拡大委員会で講師役を務めた日本総合研究所の瀧口信一郎氏が、このシュタットベルケと日本での導入について示唆に富む話をしていた。ドイツでは電力の完全自由化後、100社を超える新規事業者が乱立、既存の大手電力も8社から4社に統合再編された。電気料金水準は自由化後2年間は20〜40%程度低下したものの、その後は原油価格の高騰やCO2排出取引価格の上昇、再生エネ導入に伴う価格転嫁などにより近年は小売価格が大幅に上昇、電力改革前に逆戻りしてむしろやや高い水準になっているという。
 こうした状況下でも電力供給だけではない多様なサービスを展開するシュタットベルケは、雇用など地元経済への貢献やビジネス信頼性が功を奏して健闘、シェアを維持する。いま日本の電力市場競争では価格の安さが最大の関心事となっているが、それは一時的な要素でありやはり停電のない供給への信頼度や顧客サービスの充実、そして何よりも地域住民の生活に有益かつ地球環境に優しいエネルギー供給会社にして欲しいものである。そのためには自治体での専門家の育成と地域のために一肌脱ぐ人材が不可欠だろう。



政治家に品性を求めるのは…
2016/02/15(Mon) 文:(滝)

 この欄では宗教と政治の話は避けようと思っていたが、あまりの体たらくに「おぼしき事言わぬは腹ふくれるわざなれば」(徒然草)との思いにかられた。今に始まったことではないが、国会議員の質の低下が目立つ。
 島尻安伊子沖縄・北方担当相は9日の閣議後会見で北方領土の歯舞諸島を読めず、「はぼ…、えー何だっけ」。北方担当相でなければ、踏襲を「ふしゅう」と読んだ元総理大臣もいたことだから話題にならなかっただろうに…。甘利明・前経済再生担当相は、辞任会見で自身の現金受領(2回で計100万円)を「就任祝いや政治活動への応援」と説明したが、秘書への500万円もあり、企業が見返りを期待せずに大金は出さないと考えるのが普通の感覚だろう。実際、口利きされた都市再生機構(UR)は1600万円の補償を2億円超に膨らませた。妻の出産で育児休暇をとった宮崎謙介議員の“下半身問題”が週刊誌やテレビのワイドショーで取り上げられているが、少し前は浪速のエリカ様・上西小百合議員の会期中の温泉旅行、武藤貴也議員の未公開株をめぐる金銭トラブルなど不祥事は枚挙にいとまがない。
 問題政治家が続出する一因は、1994年衆院に導入された小選挙区制にあるのではないか。「個人より政党」となって、政党政治が進むなどメリットの一方でデメリットも出てきたと言える。ある政党に強い“追い風”が吹けば、猫も杓子も当選してしまう。政党の候補者資質チェック機能をシステム化し、公認に責任を持つべきだ。もちろん投票する国民の側にも責任がある。
 以前の中選挙区制では、トップ当選しなくても自らの政治信条にこだわる政治家が何人もいた。今は公認されるかどうかが死活問題となり、執行部の「右向け右」に対してモノ言えば唇寒しになっているのではないか。昨秋の自民党総裁選が無投票に終わったのはその一例だ。
 もちろん与野党を問わず多くの議員が国政を真剣に考えているのは救いだし、自民党の再生可能エネルギー普及拡大委員会の真摯な取り組みは本誌でも度々紹介している。通常国会には、核燃サイクル維持を目的とする「再処理等拠出金法案」、PV偏重是正を目指す「再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)改正案」などのエネルギー・環境関係法案が提出、あるいは提出が近い。福島第一原発事故から間もなく5年になる。この事故をきっかけにした再生可能エネルギー拡大への熱意がしぼまないよう、真剣な審議を期待したい。



定着した省エネ・節電に水差す新料金メニュー
2016/02/09(Tue) 文:(水)

 年末から新年早々にかけて営業活動が始まった電力の小売り全面自由化に伴う販売料金の新メニューが関係企業から続々発表されている。料金以外の、販売する電気の電源構成や供給の安定性など顧客への必要情報は、1月中に決まる「電力の小売営業に関する指針」に従う必要があるが、今のところ価格競争一色という雰囲気だ。新料金メニューの傾向を整理すると、▽電気の多消費者ほど割安、▽2年契約、▽異業種商品とのセット割引、となりそうだ。顧客側でこれらを上手に組み合わせれば、ポイント加算などを含め料金が現状より実質5〜10%程度割安になるというのがおおよその内容となっている。
 特徴は各社とも電気の消費量が多い顧客ほど割安の恩恵に預かれる料金メニューを打ち出している点だ。月に2万円以上の電気代を払っている顧客はさらに使うほど実質の単価が下がり割引率も大きくなる仕組みだが、これまで3.11以降最重視された省エネ・節電のエネルギー政策に明らかに逆行する。こうしたメニューに自民党の再生可能エネ普及拡大委員会委員長の片山さつき議員が同会合で早速噛みついた。「電気を多く売らんがための料金メニューとなっており、今後CO2の大幅削減が必要な業務・民生部門対策と整合性がとれないではないか」と指摘していた。
 片山議員が指摘するまでもなく、30年のCO2等削減目標の日本の約束草案(13年比△26%)を実現するためには業務その他部門と家庭部門それぞれで今よりも40%近く減らす必要があり、並大抵の努力ではとても実現できない水準だ。一方で、3.11の福島第一原発事故以降、一般の人々や企業等での節電意識は確実に高まり、それが5年経った現在もしっかり持続している。今年1月に電気事業連合会が発表した電力需要実績によると、至近3ヵ月(9〜11月)では季節変動があるとはいえ産業用その他が対前年比で3〜4%減、電灯・電力計が同じく1.3〜4.0%減。12月実績もこのマイナス傾向に変化はなかった。こうした長期間定着した省エネ・節電行動は原発停止で危惧されたわが国の電力供給力の確保を見事に支えており、隠れた貢献者でもある。
 5年かけて積みあがった省エネ・節電という国民の叡智を自由化という名の下の市場競争万能論によって元の木阿弥にしてよいのか、政策当局者の見識が問われるところだ。



誰れのための電力全面自由化か
2016/01/19(Tue) 文:(滝)

 「家族がたくさんの家庭、ペットがいる家庭…電気をたくさん使う人には東京ガス」。こんなテレビコマーシャルがお正月から流れている。東ガスだけでない。ソフトバンクは堺雅人さんを起用しているほか、各社のPRが雑誌や電車内の広告でも目立ってきた。東京電力、中部電力、大阪ガスなど主要各社が新料金メニューを続々と発表している。電力小売り自由化がいよいよ4月から始まる。
 でも新料金メニューは複雑すぎて、選べと言われても「う〜ん」とうなってしまう。そこで東京電力の「でんき家計簿」で昨年1年間のわが家の使用実績を振り返ってみた。使用量最大は1月の1120kWh(請求額約3万6600円)、最低は5月の588kWh(同約1万9200円)で、平均は700kWhを超し、3人家族でペットもいないのに省エネ面では赤面するばかりだ。どうやら東電のメニュー10種類のうち、「プレミアムプラン」を選択するとお得になるのは確実なようだ。
 電気使用量が多い家庭が恩恵を受けるのは、現行の料金体系が省エネ推進や収入が低い世帯への配慮から使用量が少ないと1kWh当たりの単価を安く、多くなると高くしているため使用量が少ないメニューでは割引き余地が少ないからだという。そうした点からは、「使用量が多い家庭がお得」な新料金メニューは、一面では家庭の省エネ推進に水を指す恐れがある。また、電源構成開示の法的義務化は見送られ「ホームページでの開示が望ましい」との努力義務にとどまった。コンセントからの電気に「石炭火力の電気」「太陽光発電の電気」「原発電気」など分けられないが、発電時のCO2排出量などを積極的に公表して、消費者の環境への思いが少しでも反映されるようにしてほしい。
 これまで無縁だった「電気の選択」ができるのはわくわくするが、納得できないのは電力自由化の本来の意図に逆行する国の動きだ。原発の使用済み燃料を再処理したプルトニウムを利用する核燃料サイクル維持のために、事業主体となる認可法人を新設し、これまでの総括原価方式が外されても核燃料サイクルの維持を図る方針だ。そもそも電力自由化は競争原理を導入して、経済合理性の追求と消費者の負担軽減が目的だったはず。自由化で再処理が維持できなくなる可能性があるから国が支えるというのでは、核燃料サイクル行き詰まりのツケが国民に回されることになる。本末転倒ではないか。



COP合意で外堀埋められる石炭火力の見直し
2015/12/19(Sat) 文:(水)

 島しょ国のキリバスやツバルなどが「海面上昇によって国が沈みかけており、よその国に住民の移住計画を進めている」と悲痛な状況を訴えた、 国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が閉幕した。締め切りの関係で決定内容に言及できないが、世界各地に「気候難民」が多く発生している状況は現実化している。欧州各国ではシリアからの難民が数百万人規模で押し寄せたが、これもシリアの農村地域を何度となく襲った異常気象による干ばつなどが遠因の一つとテレビ朝日が報道していた。
 COP21において、全員参加による2020年以降の自主的な削減目標の設定や裏付け対策が首尾よく合意されても、その効果が明確に現出するのは今から20〜30年後であり、ゆえに一時も早い取り組みが要求されている。そうした危機感もあってか、COP21開催前後には国際機関や環境NGOなどから各国の石炭火力計画に対する批判・危惧の指摘が相次いだ。例えば180ヵ国以上で活動する環境NGO団体の「350・org」の発表によると、化石燃料関連投資から撤退する活動「ダイペストメント」の趣旨に賛同した企業が500社を超え、運用資産の合計は約420兆円を上回ったという。
 11月18日にはOECDも米国・英国での石炭火力への公的輸出信用保証を禁止したことを踏まえ、大型石炭火力への輸出信用付与に制約を設けるルールを決定した。それだけではなく、特に欧州を中心に20年以降確実に強まる石炭利用抑制への対策強化を見定め、年金資産を運用する機関に加え名だたる金融機関が電力会社などへの投融資見直しや持ち株の売却を進めているという。人によってはこうした事態を「逆石炭ショック」とまでいう。日本でも株式などに年間30兆円以上の年金資産運用をしているGPIFが、今年9月に「国連の責任投資原則」に署名、温暖化対策などに逆行する投融資には一線を画する方針を明確にした。
 日本には現在1700万kW以上の石炭火力計画があり、それが稼働すればこの先30〜40年以上も温暖化を加速させるCO2を排出し続けることになる。これだけ石炭制限への外堀が埋められると、CO2規制の前に本当に必要な投融資資金を内外から集められるのかどうかが懸念される。そうした事態に手をこまねくのではなく、むしろ電力会社は石炭火力の共同立地による開発縮小やバイオマス混焼の抜本的な強化、石炭火力と再生エネ施設とのセット立地など、今こそ発想の転換を図るべきではないか。



消費税アップより、「金食い虫」退治
2015/12/11(Fri) 文:(滝)

 休日にカミさんの買い物につき合うと、「消費税が重い、レジで上乗せされ1万円札が軽くなった」と愚痴を聞かされる。3%での導入時に大騒ぎした消費税が5%になり、8%になり、1年半後の17年4月には10%になる。国債残高が700 兆円を超した財政を健全化するためだという。それを家計に例えた財務省のホームページが分かりやすい。「月収40万円のあ
なたのお宅が78万円支出。差額は借金するしかなく、借金残高は7382万円です」。確かに自己破産レベルだし、ギリシャの混乱も人ごとではない。だから税率上げますよ、と言われても、ちょっと変だ。収入を増やすより支出を減らす方が先でしょ。
 11月11〜13日の行政事業レビューでは、河野太郎行政改革担当相が旗振り役となって55事業が俎そじょう上に乗せられ、うち原子力関連は19事業。日本原子力研究開発機構が2006年に建造した使用済み核燃料運搬船「開栄丸」は開発費などに約100億円つぎ込まれたが、使われたのは4回だけ。この6年間は全く使われていないのに年間12億円の維持費がかかる。また、原発に関する補助金や交付金が14事業に上ることや、一部の資金の流れ・使途が不透明なことも指摘された。河野行革相は「納税者に説明できない。原子力関連予算は国事業と民間事業に位置づけを使い分けて聖域化されている」と批判した。その通りだと思う。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」にはこれまで1兆円以上つぎ込まれたが、稼働したのは250日のみ。動かない今も1日約5000万円が浪費されている。まだある。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理施設は22回も完成時期が延長され、いまだに未完成。建設費は当初見込みの約3倍の2兆2000億円に膨れ上がった。使用済み核燃料約3tの再処理に12兆6000億円かかると試算されている。こうした費用は私たちの税金や電気代から支払われる。
 この「金食い虫」は災禍ももたらした。東京電力福島第一原発事故ではいまだに11万人以上が避難生活を強いられている。福島を中心にした東日本一帯で汚染された膨大な量の草木、土壌などはほとんど仮置き場に積み上げられたままだ。民主党時代の事業仕分けと違って行政レビューは、その場で廃止を決めたりはせず、年末の予算編成に反映させるだけ。“ガス抜き”で終わるのではないか危惧される。
 原発が稼動しなかった今年8月までの2年間、電気の供給に問題はなく、再生可能エネルギーは大きく育ちつつある。やはり原発はいらない、と思う。



水素エネルギー時代到来の前に
2015/11/13(Fri) 文:(水)

 10月某日専門誌の懇親会で、ある石油・ガス系団体の幹部がいまフィーバーの様相を呈している水素エネルギー普及の見通しに触れ、「2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終わればこのブームは急速にしぼむのではないか」と語り、水素社会づくりへの対応が一過性に終わる可能性を示唆していた。その理由に挙げたのは、水素をつくるまでのプロセスが
多段階過ぎる、カネも膨大にかかり技術革新も容易ではない、持ち運びが不便で既存インフラも活用できない、などだ。
 現在、水素タウンなどを目指す水素協議会の設置が全国30自治体超にまで広がっているが、契機は安倍首相が「水素をしっかりと活用していく。これは国策といってよい」との国会答弁(14年3月)が引き金で、それ以来政府の水素関連事業予算はゆうに年間1000億円を超えている。東京都も負けてはいない。舛添要一知事は朝日新聞主催環境フォーラムで、▽20年
までに燃料電池車(FCV)6000台の普及、水素ステーションを35ヵ所設置、同5億円かかる建設費用を都が補助し1億円ですむようにする、▽オリンピック選手村につくる6000戸を水素ニュータウンにしたい――など、並々ならぬ決意を示していた。
 水素社会づくりのメリットは、@エネルギー供給源の多様化、A環境負荷の低減(特にCO2)、B関連産業の裾野が広く経済波及効果が高い、C災害などの非常時対応に有効――とされる。しかし、実現までの巨額な開発投資やインフラ整備、人口密集地域で使用される水素という危険物の安全性担保など、マイナス面が多いのも事実だ。かつて東京には「チンチ
ン電車」の愛称で親しまれた都電が区内を縦横に走り貴重な移動手段だったが1972年までに次々と廃止され、今は「荒川線」1系統を残すのみとなった。それ以前には架線を利用する「トロリーバス」も走っていた。いずれも電気をそのまま動力源として利用するコンパクトなものだ。水素をつくるライフサイクルで見れば、高度な技術の採用よりもナマの電気を利用す
る方がコストやCO2排出量もはるかに少ないだろう。
 低炭素社会の実現は安直な技術革新に頼るだけでなく、かつての都電の復活や都内での自動車走行規制、自転車利用のための環境整備など、超高齢化社会の到来に呼応した人と環境に真に優しい街づくりも肝要ではないか。



再生エネで「究極のエコカー」
2015/10/29(Thu) 文:(滝)

深まる秋の一日、山梨県・韮崎までドライブ、今年のノーベル医学生理学賞受賞者、大村智さんが設立した「韮崎大村美術館」を訪れた。上村松園、小倉遊亀、片岡球子らそうそうたる女流画家の絵が展示され、2階の展望室からは八ヶ岳が雄大に見える。すぐ横の、やはり大村さんがつくった日帰り入浴施設「白山温泉」でドライブ疲れをいやす。近くにはワイ
ナリーやウィスキー工場、国蝶・オオムラサキセンターなどがあり一日楽しめる。
今乗っているのはホンダのハイブリッド車「フィットシャトル」。20代前半、中古の「N360」から始まってトヨタ、日産、マツダとメーカーは気にせず乗り換えてきた。今の車を選んだ理由の1つは、平均燃費が同時並行で表示されることだ。近くをちょこちょこ走っているとリッター16〜17km、高速を走ると19km 近くになり、平均すると18.5km 前後だ。カタロ
グ値は25km だから実燃費はその75%というところか。
前に乗っていた車の燃費は10km 弱だった(満タンから次に満タンにするまでの走行距離を給油量で割る)。9月に最初の車検を受けたが、3年間で約5万q乗った。この間のガソリン価格を135円と仮定すると、乗り換えで3年間に31万円も浮いたことになる。
地球温暖化対策の枠組みづくりを協議するCOP21が今月末から始まるが、その結果にかかわらずCO2等の排出削減に取り組むのは私たちの共通の責任だ。運輸部門のCO2排出はわが国全体の排出量のほぼ2割を占める。2001年をピークに減っている一因はエコカーの普及だという。ただ、電気自動車(EV)も燃料電池車(FCV)も走る時にCO2を出さなくても、電気や水素を製造したりするのにCO2が排出されている。ガソリン車が1km走るとCO2を147g排出するのに対し、EVは55g、FCVも天然ガスと水蒸気の反応で水素を取り出す方法だと78g排出する(日本自動車研究所2011年3月の報告書から。大震災後、火力発電依存
度が高い今はもっと多いとされる)。これが、太陽光発電や風力などの再生可能エネルギーを利用して電気や水素を取り出せば、EVは1g、FCVは14gと段違いに減る。
韮崎市を含む山梨県北部は日照時間日本一とも言われ、複数のメガソーラーが稼動している。太陽光発電で生み出した電気・水素を使う「究極のエコカー」の普及を願った。



"異端児”の初入閣で注目される安倍政権運営
2015/10/16(Fri) 文:(水)

 7日に発足した第3次安倍改造内閣で来夏の参議院選を意識した国民的人気のある小泉進次郎議員の入閣はなかったが、歯に衣着せぬ言動と自民党の方針に平然と異を唱える河野太郎議員(衆・神奈川15区、52歳)が初入閣を果たし、霞が関を震撼させた。ポストは国家公安委員長・行政改革と防災担当を兼務、特に行政改革事務はこれまで3年以上にわたって
実施してきた規制緩和計画の仕上げに入り、多くの省庁が二重行政の廃止や権限委譲などに迫られる。それだけではなく、15年以上も経った今の政府体制を見直す中央省庁再編を言い出すかもしれないからだ。
 大臣就任前は党の行政改革推進本部長としてたびたび政府の方針にクレームをつけ、最近では高速増殖炉・もんじゅ開発の延命予算案を中止させたほか、エネルギー基本計画策定を前提にした原発再稼働にも批判的な言動を繰り返していた。超党派の議員で組織する「原発ゼロの会」のメンバーでもある。その一方で自民党調査会の再生エネルギー普及拡大委員会
にほぼ毎回出席、電力会社が消極的な太陽光発電等の設置に伴う系統連系への接続対応や増強工事に要する工事費負担問題などでは舌鋒鋭く経産省の弱腰と大手電力をなじっていた。
 そうした“異端児”を敢えて入閣させた安倍晋三首相が懐の大きさを見せうまく当人の長所を生かすのか、はたまた河野大臣が就任前の信念を貫いた結果として閣外に去る事態を招来させるのか、しばし改造内閣の焦点になりそうだ。いずれの結果になるにしろ、マンネリ気味の行政改革分野には体制肥大化による非効率行政や岩盤規制による企業等活動へのマイ
ナス影響がまだまだ多い。例えば環境アセスメント制度の所管は未だに事業ごとに省庁に分かれ、環境省や経産省等がほとんど同じ手続きで時間がかかっており、早く所管を一本化すべきだ。再生エネ分野もバイオマス事業に関わるのが6省庁という縦割り行政の典型で、事業者からは早く集約化してほしいとの声があがっている。
 新政権が抱えた暴れ馬はこれまでの持論を封印して角をおさめ手堅い実績を残すのに集中するのか、政治家としての信念を押し通し次代を担うリーダーとしての評価を勝ち取るのか、新政権への期待とともに注視していきたい。



「ないものはない」島と活性化
2015/10/02(Fri) 文:(滝)

移住者らによる地域おこしで知られる隠岐諸島・海あま士町の玄関口・菱浦港に着くと、島のキャッチフレーズ「ないものはない」のポスターが迎えてくれた。隠岐諸島は隠岐の島(島後)と島前の3島に分かれており、海士町はその1つの小さな島。全国的に知られているのは、人口2353人中、Iターン・Uターン者が約240人と1割を占め、島の特産品のブランド化に
活躍していることだ。年間1000人以上の視察者が訪れるという。
コンビニが1軒もない島内を歩くと、放牧の黒毛牛がゆったりと草をはみ、刈られた稲ははさがけで自然乾燥されていた。2002年に初当選した山内道雄町長は、当時全国を覆った「平成の大合併」は離島にはメリットが少ないとして、自立の道を選択。自身の報酬を50%カット、町議や職員も給与の大幅カットで協力、その分で魚介類の鮮度を保ったまま冷凍できる最新技術を第三セクターに導入、特産のイワガキやシロイカを都会の消費者に直接売り込んだ。「役場は住民総合サービス株式会社」が町長の信条だ。また、それまで子牛で出荷、松阪牛や神戸牛とされていたのを、「島生まれ・島育ちの隠岐牛」としてブランド化に成功した。
 そこで大きな力を発揮したのが“よそ者・若者・ばか者”だという。移住者(よそ者)の多くは20〜40代(若者)で、1000万円を超える年収や大企業の肩書を捨てて飛び込んだ(ばか者)たち。彼らは「都会の生活に疲れて…」ではなく、島で食い扶持を稼ぐ意欲を持って移住、離島と都会を結びつけるのに大きな役割を果たしている。「株式会社巡の環」が出版した「僕たちは島で、未来を見ることにした」(木楽舎刊)は、真摯に全力で地域に溶け込む彼らの姿勢と、閉鎖的な島の中でもそれを受け入れる“触媒”となったおっちゃん・オバちゃんとの交流が生き生きと描かれている。
 いま島の再生可能エネルギーは、公共施設での太陽光発電など20kW程度だが、2000kWの風力発電が来年度に稼動するほか、養殖した海藻から水素を取り出して燃料電池に使う研究も進められている。「ないものはない」には2通りの意味があると聞いた。ないものを欲しがっても仕方がないという、ある意味での開き直り。もう1つは「地域の人たちとのつながり、
島の豊かな自然…暮らしていくのに必要なものはすべてある」という意味。再生エネの普及がそれを後押しするに違いない。



電力全面自由化と再生エネの地産地消
2015/09/16(Wed) 文:(水)

 マスメディアにはほとんど取り上げられなかったが、自民党の資源・エネルギー戦略調査会( 会長; 山本拓議員) が8月21日「再生可能エネルギーによる地方創生戦略」をまとめ、首相官邸をはじめ関係省庁に提言の実現を要望した。提言の狙いには来年4 月から始まる電力の小売全面自由化に併せ、地方におけるエネルギー「地産地消」などを促進させる政策措
置を強化したいとの思いがある。
 提言内容は全体に共通する事項として、環境負荷に関する情報・電源構成開示の義務化など21項目、送電系統強化に伴う工事費負担問題など太陽光発電関連4項目、風力・バイオマス・水力・地熱・再生可能エネ熱に関する意見・要望など実に多岐にわたる。ただ、自民党内の他の調査会や部会等との調整を経て出されたわけではないため、政府がどこまで具体的
な施策に反映させるかは未知数だが、相当の影響力をおよぼすのは間違いない。
 この提言の背景には、電力の全面自由化により家庭用電気も全国どの電力会社からも購入が可能となり、年間で約18兆円といわれる市場が開放されることから、これを地産地消の戦略により地方と地域の経済に組み込んで還流させ、現在のような大都市収奪型のエネ需給市場を変革させたいとする意図がある。その流れをつくるためには、地方の再生エネ資源を自
ら開発・事業化し、自らそれを最大限利用する仕組みを構築する必要がある。自然エネ・環境NGOの会議に出席した山本調査会長も、「皆さんは政策への不満を示すだけではなく、来年4月からは地域の再生エネ電気をどんどん購入して欲しい。そうすればFITに頼らずとも導入が拡大され地域の経済も活性化する」と、消費者主導によるエネ転換を促していた。
ただ「地産地消エネルギー」を根付かせるためにはそのための条件整備など課題も多い。
 1つは販売される電気の電源開示(CO2等環境負荷含む)ルールが未定なこと。2つは省エネや再生エネなどを導入・使用した際の経済的な統一価値( CO2クレジット価格) が未だにあいまいなこと。3つは地産地消のエリアが都道府県なのか市町村なのか、それ以外かまだ明確でないことで、あまりに狭いエリアに固執すると地産地消が成り立たなくなるという問題が出てくる。かけ声だけではなく、こうした条件整備にも引き続き政治の主導性を発揮して欲しいものである。



敬老の日と地域・世代をつなぐ再生エネ
2015/09/02(Wed) 文:(滝)

 今年の敬老の日は第3月曜日の21日。週末の19日から23日の秋分の日まで豪華5連休の「シルバーウイーク」になるが、それぞれ歴史がある祝日を連休を増やすために変更した安易さはいまだに納得できない。敬老の日の始まりは兵庫県野間谷村(現・多可町)の村長らが1947年、「年寄りの知恵を借りて村づくりをしよう」と農作業が一段落するこの時期に「とし
よりの日」を決めたこと。これが口伝えで全国に広がり、65年に国民の祝日となった。10月10日だった体育の日は東京オリンピック開会式にちなんだもので、この日の晴れわたった青空を覚えている人も多いだろう。いまは第2月曜日の成人の日は、かつて元服の儀が小正月(1月15日)に行われていたことに由来するという。
 市主催の敬老の集いのお知らせが先日ポストに入っていたが、なんか煙ったい。リタイアした友人たちと話していると、老人福祉とはお年寄りを大事にするだけでなく「あなたが必要なのです」という社会ではないかと、と思うようになった。岡山県真庭市の木材バイオマスを利用した循環型社会づくりの仕掛け人でNPO法人共存の森ネットワーク理事長、澁澤寿一さん(62)が東京都内に持つ会社はユニークだ。働いている人は全員70歳以上で、最高齢は95歳だ。仕事は近くの会社から請け負った清掃作業などで週休5日。月給は3万円程度だが、年金受給者にはちょっとした小遣いになる。日本人の平均寿命は女性86.8歳、男性80.5歳まで延びた。毎週出勤して、給料日にはきちんとお金が振り込まれる。「何もしなくていいから」より、「お仕事お疲れさま、来月もよろしく」と言われた方がうれしいに決まっている。
 余談だが、この会社のすごいのは毎年1回、社員に“利益還元”していることだ。社員の家族も含めて銀座の料亭を借り切り、きれいどころを集めてドンちゃん騒ぎをやらかす。さすが明治の財界大御所・澁澤栄一の曾孫だけある、と変に納得した。
 国内外の農山村を歩き、「ハウステンボス」には企画段階から携わった澁澤さんの再生可能エネルギーへの取り組みもこうした思いが根底にあるようだ。真庭のバイオマス視察を有料化したところ、企業や行政関係者、一般市民らが4年間で延べ1万8000人も参加した。「バイオマスは人と人、人と自然、世代と世代をつなぐ。文化や伝統も含め地域の人たちが同じ目標(夢)を目指す環境づくりこそが地域活性化だと思っている」と目を輝かす。



石炭火力の新増設とバイオマス利用
2015/08/18(Tue) 文:(水)

 来年4月実施の全面自由化に伴う小売事業者の届出が今月から始まったが、小売事業者に電気を供給する発電事業者の電源開発を巡って環境省と経済産業省の対立が深まっている。従来の10電力会社の供給エリアを越境する自由化競争で新たな顧客を獲得するためには、安い電源コストの電力を調達することが不可欠で、その代表格が石炭火力発電だ。大手電力に加えて新電力も続々と石炭火力新増設を具体化、環境アセスメントの手続きに入っている。
 環境省によれば、大手電力の石炭火力新増設計画は現在約1300万kW、環境NGOなどの調査では中小規模も含め約2000万kWに達し、先ごろ経済産業省が決めたエネルギーミックス30年目標の石炭火力発電割合を大きく上回り、わが国が年末の気候変動次期枠組み交渉向けに提案した国際約束のCO2等削減目標達成に著しい支障を及ぼすという。発電量当たりのCO2排出量が圧倒的多い石炭火力計画に対しては両省が約2年前に関係局長間で合意、電力業界全体によるCO2削減のための自主的取組みの枠組みをつくるとしていた。先日、大手電力と新電力が合意したその枠組みが公表されたが、環境省は中身に実効性がなく不適切、経産省は最低条件を具備しており今後さらに肉付けしていけばよい、との認識だ。両省の評価は大きく異なっており、このままでは個別案件として手続きされている環境アセスのクリアが事実上ストップ、計画中止という事態も予想される。
 それにしても不可解なのは、石炭火力の導入拡大計画においてバイオマス混焼など排出CO2を一定程度減らせる有力方策の議論が一向に出ていないことだ。いま出ているのは最先端の発電技術である超々臨界圧や石炭ガス化発電などの採用や燃焼効率の改善による技術的な対応ばかりである。石炭とガスの混焼や一定の再生エネ電源の採用義務化、あるいはバイオマスエネルギーとの混焼など、この際開発中技術の採用だけではなく多様な方策を検討したらどうか。石炭火力のバイオマス混焼にしても、既設では3〜5%程度が設備面から限界とされたが、技術的な工夫が可能な新設では2〜3割の混焼が本当に不可能なのか。
 これが可能となれば、政府が「バイオマスニッポン」を閣議決定したのに関係省庁の縄張りから10年経ってもあまり成果のみられないバイオマス利用が抜本的に拡大され、安倍政権が力を入れる地域再生や地産地消にもつながると思うが、どうだろうか。



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